優れたカスタマーサービスには、人をその日一日良い気分にする効果があります。 当然ながら、現場の最前線に立つカスタマーサービスチームが優秀であれば、提供するカスタマーエクスペリエンス(CX)全体の品質は向上します。特に小規模な企業の場合、その効果は絶大です。
先日公開されたESG社の調査レポート「CX成熟度調査2021」では、カスタマーサービスやサポート担当者に投資した企業はCX成熟度が高く、業績も良いと報告されています。 さらに、カスタマーサービスへの投資は社内の他部門へのポジティブな波及効果を生み、 顧客満足度の向上、顧客基盤の拡大や支出額の増加、顧客維持への自信など、より広範なプラス効果につながることも明らかになりました。
Zendeskは、2年連続で大手調査会社Enterprise Strategy Group(ESG社)と提携し、世界各地の企業の意思決定者3,250人を対象とした、カスタマーサービスに関する調査を実施しました。この調査は、優れたCXオペレーションを実践する企業がビジネスで優位に立つ理由と、他の企業が学ぶべき秘訣を明らかにしています。 ESG社はCX成熟度の4つのスケールを作成し、企業を成熟度に応じてチャンピオン(Champions:リーダーレベル)、 ライザー(Risers:標準レベル)、エマージング(Emerging:初歩レベル)、スターター(Starters:遅れをとる可能性があるレベル)の4レベルに分類しました。 レポートでは、企業がCX成熟度を高めるために何が必要かをまとめています。
CX成熟度は、企業規模とは関係ありません。 中小企業のCX成熟度に関するこのレポートは、どんな企業も規模に関わらず成熟した質の高いカスタマーエクスペリエンスが実現可能であることを裏付け、またそれを目指すことが非常に重要であることを示しています。
「本レポートのデータは、市場でスターターあるいはエマージングレベルにとどまっている企業に対して、CX成熟度の遅れは顧客の喪失と競争力の低下につながるとの警鐘を鳴らしています。」 ESGレポート「中小企業におけるCX成熟度」より
大げさに聞こえますか?しかし実際、ぐずぐずしてはいられないのです。 CX成熟度を強化し業績を伸ばす企業は年々増加しており、中小企業セグメントの2021年の調査結果を 2020年と比較すると、チャンピオン企業の数は2倍に増加する一方、スターター企業の割合は17%減少しています。 2020. CXリーダーの大多数(89%)がいま、「CXの強化を怠ることは経営上のリスクにつながる」と考えています。現状を評価して適切な投資を行うのに、これ以上のタイミングはありません。
ここでいう「投資」とは、カスタマーサポートへの投資です。 チャンピオンレベルのカスタマーエクスペリエンスを目指すあたって企業が最初に取り組むべき課題は、サポートチームの最適化です。これは数多くの調査で裏付けられています。 ここでは、中小企業がCX投資効果を最大化するために、何をどうすべきなのかについて解説します。
チャンピオン企業は優れたカスタマーサービスを提供する
チャンピオン企業は、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することにより、カスタマーサービスの持つ大きな力を示します。 チャンピオン企業はスターター企業に比べてサービスとサポートチームを競争上の差別化要因と捉える割合が2.1倍高いですことが明らかになりました。つい最近までカスタマーサービスが単なるコスト要因とみなされていたことを考えると、企業経営者の間に前向きな変化が起こりつつあることが分かります。 今回の調査では、中小規模のチャンピオン企業5社のうち4社が自社のサービスまたはサポートチームを利益創出要因と捉えていると回答しました。チャンピオン企業が過去半年で顧客基盤の拡大に成功した割合はスターター企業の3.1倍であることは、こうした姿勢の正しさを裏付けています。 そもそも新型コロナウイルス流行の2年目にも関わらず顧客基盤を拡大できたこと自体、驚くべき成果と言えます。
さらに中小企業のチャンピオンは、顧客満足度目標を「おおむね上回った」と回答する割合が18.3倍高くなっています。 顧客満足度の向上は、顧客ロイヤルティ、顧客エンゲージメント、顧客維持率を高めるうえで非常に重要です。 東京オリンピック高飛び込みの金メダリストであり、ロックダウン以降多くのニット作品を発表して話題を呼んでいるTom Daley選手がInstagramでフォローする、イギリスの毛糸とニット用品のブランド、Wool and the Gangの例をあげてみましょう。 中小企業であるWool and the Gangは、魅力的なコンテンツの提供によりカスタマーエクスペリエンスを向上させ、商品やサービスの認知度を高めることに成功しています。 中でも注目すべき試みとして、Wool and the GangはWebサイトにチュートリアルビデオを埋め込むことでユーザーのカスタマーエクスペリエンスを向上させました。 編み物の初心者から上級者までどんなユーザーにとっても受け入れやすくかつ有益なコンテンツを提供することでブランドの好感度をアップさせ、結果としてサイトにアクセスしたユーザーが商品を購入するだけでなくブランドを多くの人に勧める効果を産み出しました。
チャンピオンはエージェントを成功に導く
中小企業のチャンピオンはカスタマーサービスチームの立ち上げにかかる時間がスターター企業に比べて49%も短く、その手法とアプローチは賞賛に値します。
チャンピオン企業の成功のカギは、それぞれのエージェントが顧客に対して真に多角的なサポートを提供するのに必要な情報の提供と自由な裁量権を与えていることです。 つまり、顧客がどのチャネルを使用しているか、あるいはそれまでに何回チャネルの切り替えや別のエージェントへの転送があったか(少ない方が理想的ですが)に関わらず、すべてのエージェントがその顧客の抱えている問題とこれまでの対応履歴について全て把握したうえでサポートを提供できる体制が整っているのです。 チャンピオン企業は、エージェントにシームレスなサポートチャネルの切り替え機能を提供している割合がスターター企業に比べ2.6倍高く、またエージェントが顧客の全体像を把握している割合も71%におよびます。 例えば、ShopifyやMailchimpを自社のサポートソリューションに統合するとビジビリティが強化され、たとえ顧客がチャネルを切り替えてもエージェントはシームレスに追従することができます。
資金が少なくサポートチームの規模が小さい企業の場合、テクノロジー予算の確保は容易ではありません。しかし事業への影響を考えると、エージェントにビジビリティ強化のためのツールを提供しなければならないことは明らかです。 すでに述べたとおり、チャンピオンの中小企業は顧客基盤の拡大に成功している割合が高いですが、それに加え、過去半年間の顧客1人あたりの支出額が大幅に増加した割合も7.6倍高くなっています。 これは、サポートへの支出がエージェントと顧客の両方のニーズを満たし、収益に貢献していることを示しています。
ツールを活用すると、顧客に優れたサポートエクスペリエンスを提供できるだけでなく、エージェントの作業効率が高まりエージェントエクスペリエンスが大きく改善されます。 チャンピオン企業はスターター企業に比べエージェントの処理能力(効率性と問題解決率)が72%高くなっており、 2020年の調査時の50%に比べると、さらに差が広がっていることが分かります。 それだけではありません。 チャンピオン企業は会話型エクスペリエンスを積極的にCXに取り入れる傾向がありますが、非同期型の会話チャネルを利用すれば、顧客は自分の都合の良いときだけやり取りを行い忙しい時にはいつでも中断することができます。 今回調査対象となった全中小企業の67%が、将来的にチャットやソーシャルチャネルの利用は大幅に増加すると予測しており(現在は平均53%)、 チャンピオン企業は、これらのチャネルをいち早く取り入れているといえます。
「お客様は、適切なサービスを体験することで企業に顧客として大切にされていると感じます。 会話型エクスペリエンスは、お客様とサービスチームとの気持ちの通ったポジティブなやり取りを可能にします。」 ESGレポート「中小企業におけるCX成熟度」より
チャンピオンはビジネスを成功に導く
新型コロナウイルスの世界的流行は、人々の暮らしや働き方に大きな影響を与えています。しかしこの先何が起きようと、変化に柔軟に対応できるアジリティのあるカスタマーサービスを提供できるかどうかは中小企業にとって生き残りのカギとなるでしょう。 2021年中、パンデミックの発生、新製品の発売、重大な製品問題などの外的要因を含む危機によりサポートプロセスを全面的に見直す必要が生じた時に、中小企業のチャンピオンはスターター企業に比べて2.4倍優れた適応力を発揮して状況に対応しました。
こうした優れた適応力を支える要素は主に以下の2つです。
- CXへの投資: 中小企業のチャンピオンは、スターター企業に比べて2.9倍高い割合で大規模なCXプロジェクトに取り組んでいます。 また、これらのチャンピオン企業はスターター企業に比べて9.6倍高い割合で「パンデミック中の自社の回復力強化戦略は正しかった」と回答しています。
- CXメトリックに基づいたデータドリブンな意思決定: サポートはフィードバックループの中枢的要素です。チャンピオン企業は常にCXデータをチェックしながらより優れたカスタマーエクスペリエンスの提供を目指します。 チャンピオン中小企業の経営幹部は、スターター企業に比べて6倍高い割合でCXメトリックと重要業績評価指標を毎日チェックしています。
サービス担当とサポート担当間、および意思決定者との情報のやり取りがスムーズかつ定常的であれば業績拡大のチャンスが広がります。 フィードバックループを支えるこうした重要なリンクが維持されていれば、企業がさらに成熟し規模の拡大を目指すプロセスにおいてカスタマーサポートのメンバーが頼りになる協力者となります。 さらにQualtricsやSurveyMonkeyなどのツールを使用して顧客のタッチポイントを1つに統合すれば、より強力なフィードバックループを構築することができます。
またCX成熟度の高い中小企業は、エージェントが顧客にリモートでサービスを提供する体制を整えています。 今回調査した中小企業は、パンデミック収束後に在宅勤務エージェントの数を平均して20%増加させると回答しています。 パンデミックが完全に収束するのがいつになるかはまだ分かりませんが、エージェントが今後も業務品質の向上と生産性維持のためのツールを必要とするであろうことは明らかです。 ZoomやSlackのような会議ツールの活用は、互いに離れた場所で業務に携わるスタッフ間のコラボレーション促進に役立ちます。
また、チャンピオン企業になったらそれで終わりというわけではありません。 優れたカスタマーサービスを維持し、業務品質向上に必要なツールをエージェントに提供して業務をさらに効率化させることで、チャンピオン企業としての力は今後もゆるぎないものとなるでしょう。