カスタマーサポートは、私達が日常生活やビジネスで技術的な困難や問題に直面した際に助けてくれます。その一方で、カスタマーサービスは、顧客が目標に達するための案内をしたり、総合的なブランド体験を向上させたりするものです。
例えば、お店で新しいソフトウェアを購入する際、カスタマーサービスはソフトウェアの選定やオプションの比較を手伝ってくれます。カスタマーサポートは究極的にはユーザーの問題解決や製品の最適な利用をサポートしますが、そもそもカスタマーサポートがカスタマーサービスにどのような影響があるのかを把握することはビジネスにおいて重要なポイントです。
カスタマーサポートとカスタマーサービスの違いとは?
専門家や、あのGoogleでさえも、カスタマーサポートとカスタマーサービスを区別するのは難しいと感じています。その差はわずかですが、多くの企業がカスタマーサポートとカスタマーサービスを区別しないことによる弊害を見落としてしまっています。
ZendeskのプレミアサポートのシニアマネージャであるJonathan Brummelは、カスタマーサポートとカスタマーサービスの間にきちんと境界線を引かないと、ビジネスに怠慢が生まれると述べています。
カスタマーサポートで短期的に技術的な問題を解決すると同時に、優れたカスタマーサービスを提供することで企業は顧客と良好な関係を構築し、長期的な真のパートナーシップを確立することができます。カスタマーサポートがどのようにして問題を解決するかの方法を伝える部門であるなら、カスタマーサービスは何故そのようにしないといけないかという理由を伝える部門です。
特定の方法でアカウントをセットアップすることを勧める理由や、特定の手段を講じないと今ある問題が膨れ上がって大きな問題となる理由をカスタマーサービスは説明します。サポートのプロセスできちんと「理由」を説明しなければ顧客と良好な関係を構築することはできないと、Brummelは述べています。
言い換えれば、優れたカスタマーサポートを提供できるようになるための最良の方法は、人対人であることを意識して相手を思いやった優れたカスタマーサービスを提供するスキルを磨くことです。
例えば、顧客からクレジットカードが盗まれたという連絡が入ったとします。こうした顧客が不安を抱えている状況では、どんな情報が危険にさらされているのかを特定し、問題を解決する手段を講じ、目の前にある技術的問題に対処するだけでなく、サポートチームが顧客に対して思いやりを示すことが重要です。
担当者は急ぎの対応を行った後に、チャットやSNSで顧客にナレッジベースや会社のブログから関連記事を紹介するなどして顧客をフォローすれば、顧客が不安を解消するのに役立つ可能性があります。
カスタマーサポートとは?
カスタマーサポートとは、顧客の製品やサービスの最適な利用をサポートするための幅広いサービスが含まれると考えられており、カスタマーサポート担当者は、その製品やサービスのインストール、トレーニング、トラブルシューティング、メンテナンス、アップグレードや廃棄に関わるあらゆることに関して顧客をサポートします。
こうしたサポート部門は、元々はかつて多くの企業が保有していた社内向けテクニカルサポートだったケースが多くあります。SaaS(Software as a Service)が普及し、ソフトウェアのインストールや運用がかなり簡単になってきたため、従来のテクニカルサポートチームは顧客に製品の使い方を細かく説明するというよりも、いかにして顧客と関係を構築するかにフォーカスし、価値を発揮するようになりました。
SaaSとECサイトの台頭により、以前は実店舗のみで必要とされていたカスタマーサポートが、事業の中で一般的な部門として認識されていくようになりました。
こうしたサポート担当者は、あなたの会社の製品ラインのエキスパートです。彼らは不満を抱えた顧客を解決へと導く忍耐力と人間力を備えつつ、多様かつ積極的にテクニカルサポートを提供できなければなりません。
カスタマーサポートのやり取りは、問題を抱えた顧客が好みのチャンネルで企業に連絡してから始まり、やり取りは顧客が対応に満足するまで終わりません。問題を抱えてイライラしている最中に押し売りされたい人はいないので、カスタマーサポートの対応中に製品やサービスを勧めるべきではありません。
しかし、満足度の高いカスタマーサービスを提供できれば、その後に追加で売上を上げられるようなチャンスが生まれるかもしれません。
カスタマーサービスとは何か?
カスタマーサービスとは、 カスタマーエクスペリエンスを強化し、顧客と企業や製品との関係を向上させる目的で行うすべての顧客対応の総称であり、カスタマーサポートはそのような対応の1つに過ぎません。
すべてのビジネスはカスタマーサービスの要素を含みますが、すべてのビジネスでカスタマーサポートを提供する必要があるわけではありません。
例えば、レストランでは、着席して、注文し、支払いするまでカスタマーサービスを提供します。ウェイターは恐らくステーキの切り方についてまで説明することも、メールや顧客が好むメッセージアプリでメッセージを送ることもないでしょう。
カスタマーサービス担当者には、顧客が製品を最も効率良い方法で使うためにサポートする高度な対応スキルが必要ですが、その後どのようにして売上につなげるかの視点を持つことも重要です。顧客と良好な関係を築くということは、互いに互いの価値を最大化することを意味します。
優秀なカスタマーサービスは、迅速に顧客をテクニカルサポート担当者と繋ぐだけでなく、SNSやチャットで問い合わせに回答し、新規顧客獲得をサポートし、あるいはリピーターをフォローアップし、新規製品やサービスのアップグレードや拡張に興味がないか確認する役割も果たすことができます。
問題解決をするだけの存在から戦略パートナーへ
技術的な問題には技術的な回答がつきもので、カスタマーサポート担当者はそのような問題が発生した時にサポートを提供するために存在します。提供されるサポートのタイプ、時間、方法や誰に提供するのかによって、サポートチームを分けることができます。
例えば、あなたが何かしらのサービスや対応を申請する際に利用した申し込みフォームで、チェックボックスにチェックを入れるはずだったとします。ところがチェックするのを忘れてしまい、期待通りに事が運ばず、あなたはカスタマーサポートに連絡しました。スキルが高く頼りになる担当者なら、問題を調査し、チェックボックスにチェックを入れていなかったことが問題だったと説明してくれるでしょう。
問題に直面した顧客が問い合わせたときに開かれたサポートチケットを、解決して閉じることだけにフォーカスしている場合、迅速かつ効率的に対応を行うことは重要です。ただし、最新のサポート業務では、さらに時間をかけて顧客体験を紐解き、単に問題解決をするだけでなく、長期的にも顧客の役に立つようなサポートをすることが求められます。
例えば、顧客にチェックし忘れた理由を聞いたり、チェックボックスで確認している内容の重要性を伝えれば、顧客が同じ問題を起こす可能性を減らすことができます。
「テクニカル」カスタマーサポートにおけるソフトスキルの重要性の認識
テクノロジーが人間をサポートすべきで、その逆であってはなりません。それが、人間が選んだテクノロジーで人間の問題を解決するには、人間の関与が必要だといわれる所以です。それでも、現実にはいつもそうとは限りません。ある公的機関の従業員が、政府機関で優れたカスタマーサポートを提供する上での課題についてこう説明しています。
「テクニカルリーダーシップにおいて私達が評価してきたことは、カスタマーエクスペリエンス推進のために必要なスキルやリーダーシップのソフトスキルではなく、その多くがテクニカルスキルに集中していました」
Brummelもこれに同意し、様々な業界のサポートリーダーはまず業務で必要な技術的なスキルを重視し、スキルを習得した人物を昇進させる傾向にあると述べています。
しかしながら、彼は、基本的な製品やサービスに関するスキルに加えてソフトスキルについても考慮するように、サポートリーダー達に薦めています。カスタマーサポートチームは技術的な問題について取り組むのが得意なことが多く、問題を特定し優先順位を付けたり、上位のサポートチームにエスカレーションして適切な措置を取り、最後に顧客に他にサポートが必要なことはないかを確認して終了するのが通常です。しかし、顧客の求めることに真に寄り添ったときに初めて見えてくるものがたくさんあるとBrummelは述べています。
カスタマーサポートに、共感を示し「良好な人間関係」を築くカスタマーサービスの考え方を取り入れる
サポート組織において共感は、表面化に潜む原因を明らかにする上で非常に役立ちます。サポート担当者が同じ問題に対して1週間に700回も電話やチャットを受けている時、顧客の立場になって考えることで、どのような顧客が部門や事業ライン全体を丸1日逼迫した状態に追い込んでいるのかを考えることができます。
もしかしたら彼らは会社を立ち上げたばかりなのか、製品を使い始めたばかりなのか、あるいは休みの日だっただけかもしれません。サポート担当者が必ずしも事情を理解しているとは限らないので、問い合わせにはどんな背景があるのかを少し考えてみると良いでしょう。
「当社には技術的に非常に優れたスタッフは数名いますが、ひどく感情的になった顧客への対処に関しては0~75点だと言えます」とBrummelは述べています。
文字通りのテクニカルサポートにとらわれることなく、顧客と共通の目標に向かって協力する気持ちを育むために顧客と「良好な人間関係」を築こうとすべきだとBrummelは提案しています。
どんなに高度な技術的なノウハウや詳しい製品知識があっても、顧客と良好な関係を築けなければ、サポートを必要としている顧客を助けることはできません。そのためには、Brummelが言う「気まずい状況」に踏み込む必要があります。顧客が特にストレスを感じている時、サポート担当者の提案を受け入れたいとは思わない場合があります。
そのときは、顧客に提案の理由を丁寧に説明する必要があります。多くの場合、今対応しないと将来的にさらに大きな問題へと発展してしまう可能性があることが、顧客がサポート担当者の提案を受け入れる理由になります。大きな問題に発展する前に問題を特定する手助けをしてくれる人が顧客の「戦略パートナー」になることができます。
カスタマーサポートの評価とKPIの進化
実証済みのカスタマーサポートを評価するKPI(主要業績評価指標)には、CSAT(顧客満足)、NPS®(ネットプロモータースコア)や解約率が挙げられます。ただし、常にKPIを見直し進化可能なあるいは進化すべきエリアを見つけることはビジネスで有益です。
かつては解決したチケット数がサポートチームやスタッフの成功指標でした。従来の「サポート」機能とその他のチャネルやビジネスプロセスとの統合が進むにつれて、組織は成功の測定指標を変えつつあります。これはサポートチームがどのように顧客をサポートするかにも影響を与えています。
例えばMagonoliaが家や庭に関する話題を取り扱うアメリカのテレビチャンネルHGTV(Home & Garden Television)で人気のChip and Joanna Gainesを築いた事業では、解決したチケット数や解決までの時間はブランドの成功指標ではありません。
Magnoliaの顧客層が雑談やオンライン購入に関して質問するために電話してくる傾向が高いことを理解し、サポートチームには顧客と電話でしっかり話をし、顧客をもてなし、花を送る予算まで許されています。
カスタマーサポートチームのサポート
テクニカルサポートは業務の性質上、製品やサービスに特化した専門知識を活用するためで、同じような業務を繰り返して行う事が多いです。
先見の明のあるサポートリーダーは、専門化の必要性と、チーム全体に新たなプロジェクトを割り当てることのバランスを取り、担当者が仕事に飽きて製品の専門性や機能に関して自己中心的な仕事をしてしまう時に起こる、Brummelが指摘している「心のすさみ」を防ぐことができます。
業務への退屈さに関する対策は数多くあり、特定のタスクに関してサポートチームに権限を与えてオーナーシップの意識を持たせる、あるいは毎週定期的にライブチャネルで顧客と話す時間を提供するなどが挙げられます。電話やチャットウィンドウでは様々な問題や性格の人に遭遇するため、1対1のライブサービスという任務は、経験を積んだベテランのサポートチームにも新しい視点をもたらします。
別のアプローチとしては、サポート担当者に結果にこだわることなく、あらゆるサポート状況に飛び込むよう指導するうことが挙げられます。そういったカスタマー・サポートがその場ですぐに顧客の問題を解決できるとは限りませんが、顧客に積極的に対応しコミュニケーションをすることで業務の退屈さを防ぐことができます。
単に解決方法ではなく、解決理由を提供するカスタマーサポートを目指す
技術的のスキルを備えたスタッフであれば従来のサポートの役割で成功しやすいですが、自分自身や他者を理解することの方がはるかに難しいとBrummelは述べています。
カスタマーサポートには常に製品やプロセスに関する深い知識が必要とされますが、ここにカスタマーサービスの要素を少し加えると、担当者は、顧客は自分の話をよく聞いてくれたか、顧客は次に何をすべきかを自信をもって理解しているか、顧客はやるべき理由を理解しているかなど、顧客中心で物事を考えられるようになります。
ソフトスキルの重要性を認めて、共感を示すことや非常に良好な人間関係の構築を奨励し、結果やKPIを進化させ、上記すべてにおいてサポート担当者を献身的にサポートをすることで、カスタマーサポートチームは、より顧客中心のアプローチを取り、単にその日に起きた問題を解決するだけでなく、長期的に顧客の役に立つサポートを提供できるようになります。
「カスタマーサービス」と「カスタマーサポート」の境界線が曖昧になってはいますが、両方の違いを意識し、それぞれに投資し、良質なカスタマーエクスペリエンスを実現することが重要です。