顧客を無事獲得すると、これで大変な仕事は終わったという気持ちになるかもしれません。しかし実際には、そこからようやく顧客の心をつかむための試行錯誤が始まります。
顧客が製品を購入してくれた後も、企業は顧客に対して自社の製品の有用性を示し続けなければなりません。これが成功するかどうかは、製品のプロモーションや顧客との関係強化を担当する、社内のチームの働きにかかっています。
そこで重要な役割を果たすのがカスタマーサクセスマネージャーです。
この記事では、カスタマーサクセスマネージャーの主な仕事内容を紹介すると共に、この役割なしではビジネスが成功できない理由を説明します。
カスタマーサクセスマネージャーとは
カスタマーサクセスマネージャー(Customer Success Manager、CSM)は、見込み客が製品の活発なユーザーへと移行する過程で、顧客をサポートする役割を担います。
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客のロイヤルティを高め、長期的かつ緊密な関係を築けるように努めます。多くの場合、顧客との取引が続いている間は、特定のカスタマーサクセスマネージャーが担当の顧客に継続的に対応します。
問題が起こってから対処するサポート担当者とは違い、問題を未然に防ぐのがカスタマーサクセスマネージャーの仕事です。カスタマーサクセスマネージャーは、顧客のビジネスの動向を先回りで把握し、自社の製品を通じて顧客が継続的に成功を収められるよう、新しい革新的な方法を提案します。
「外食に行ったとき、メニューが多すぎてどれを頼もうか迷ってしまった経験はありませんか。そんなとき、一番ありがたいのは、注文を決めるのを手伝ってくれる人がいることです。カスタマーサクセスはそういった役割だと私は考えます」と、Zendeskでカスタマーサクセスアソシエイトを務めるDelores Cooperは説明します。
「私たちは俯瞰的に物事を見るようにし、その場でお客様に満足してもらうだけでなく、安定した長期的な関係を築けるように努めています。カスタマーサクセスチームのメンバーは、カスタマージャーニーの同行者として、ライフサイクル全体を通じてお客様に寄り添います」
カスタマーサクセスとカスタマーサービスの違い
[出典]
カスタマーサクセス部門が一般的になったのは、ごく最近のことです。企業が顧客関係への投資に価値を見いだすようになってから、カスタマーサクセスは急速に重視されるようになりました。ZS Consultingが実施した2019年の調査によると、既にカスタマーサクセスマネージャーを配置しているハイテク企業の割合は40%を超えています。
カスタマーサクセスマネージャーの仕事
次に、カスタマーサクセスマネージャーの仕事内容をご紹介します。
カスタマーサクセスマネージャーの職務概要
カスタマーサクセスマネージャーまたはクライアントサクセスマネージャーは、営業チームとサクセスチームの橋渡し役を務めます。
カスタマーサクセスマネージャーは、カスタマージャーニーのさまざまな段階に関与していることから、顧客ライフサイクル全体を俯瞰しており、そうした視点に基づいて、顧客ひいては自社に付加価値を提供します。
営業とカスタマーサービスのギャップを調整
カスタマーサクセスマネージャーは、営業を担当すると同時にサポートのプロでもあります。アカウントマネージャーと異なるのは、カスタマーサクセスマネージャーは新たな顧客アカウントの獲得や個々の問題の解決には携わらないという点です。
顧客関係を管理する責任者として、カスタマーサクセスマネージャーは既存の顧客アカウントとの取引を拡大し、顧客の維持率を向上させて、顧客満足度を引き上げることに注力します。
顧客ライフサイクルには、2つの重要な通過地点があります。
顧客が製品の利用登録を行ったタイミング
顧客が最初の成功を達成したタイミング
何をもって成功とするかは顧客によって異なります。皆さんの会社の製品の効果で月次の売上が目標を上回ったなど、金銭面での成功も考えられれば、製品導入によって作業時間が短縮されたなど、より小規模で個人的な成功も考えられます。
いずれにせよ、前述の2つの通過地点の間に当たる期間が、最も解約の多いときです。最初の期待感が落ち着くと、顧客は実際に製品の使い方を習得しなければなりません。このプロセスを導く適切なチームがいないと、製品の導入がうまく進まず、顧客は製品への関心を失ってしまう可能性があります。
このきわめて重要な期間に解約しそうな顧客を見極めるのがカスタマーサクセスマネージャーの仕事です。カスタマーサクセスマネージャーは顧客のメンターとして、できるだけ早く製品を運用し始められるように支援すると共に、顧客の満足度を継続的にモニタリングします。
付加価値を与えて解約率を抑える
カスタマーサクセスマネージャーを配置して顧客の導入プロセスを適切な方向に導くと、顧客の維持率の向上に役立ちます。ただし、導入後の関係も重要です。
顧客にこまめに連絡し、製品を継続的に使用しているかどうかを確かめるのもカスタマーサクセスマネージャーの大事な仕事です。こうしたフォローアップは驚くほど重要です。製品を導入しても結局使わずにいるというケースは少なくないからです。
Invespの調査によれば、同社のSaaS製品の有料顧客の半数が、1か月に1回未満しか製品にアクセスしていないと言います。顧客が製品に価値を見いだせないと、継続的に利用してもらうことは難しくなります。したがって、カスタマーサクセスマネージャーは製品の価値向上を最優先に考えています。
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客とこまめに連絡を取り、顧客が定期的に製品を使用してくれるように後押しします。 [出典]
サポートプロセス全体を常に俯瞰的に捉える
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客ライフサイクルの複数のフェーズに関与するため、俯瞰的な視点が欠かせません。サポート担当者も、どんな問い合わせが多いのかは理解しているかもしれませんが、それぞれの問題を近くで見ているだけです。カスタマーサクセスマネージャーは、複数の顧客に影響を及ぼしている問題を特定し、そのトレンドが将来の解約率にどう影響するかまで予測します。
また、カスタマーサクセスマネージャーは、今後の製品の更新や変更に関して独自の視点を備えており、顧客の希望とビジネス全体の戦略とを結びつけ、顧客に最適な提案を行えます。
たとえば、カスタマーサクセスマネージャーがある製品の更新に関して多くの問い合わせが寄せられていることに気づいたとしましょう。この場合、カスタマーサクセスマネージャーは製品マネージャーに対して、その製品の更新が戦略上いかに重要であるかを示すことができます。その結果、製品が改善されて、ユーザーの満足度が維持されます。
俯瞰的な視点を持ったカスタマーサクセスマネージャーがいれば、企業は潜在的な問題点を見極めて、顧客および自社にとって無駄なコストを抑えられます。
優れたカスタマーサクセスマネージャーに必要な資質
カスタマーサクセスマネージャーに求められる資質としては、優れた統率力とプレゼンテーション能力が挙げられますが、Cooperによると、こうしたスキルはトレーニングを通して身につけられます。優れたカスタマーサクセスマネージャーとなるために本当に大切なのは、ソフトスキルです。
Cooperはこう述べます。「顧客と良好な関係を速やかに構築できる資質が(大いに)求められます。そのためには、製品や業界に関する知識がしっかりあること、顧客のユースケースを理解していること、顧客のニーズに即した製品を提案することが大切で、その面で顧客からの信頼を得る必要があります。単にうまくこなせるだけでは不十分で、顧客関係の構築や維持を心から楽しめることが肝心です。心が込もっていない対応はすぐに見透かされてしまうので、何の得にもなりません」
共感力も欠かせないとCooperは言います。カスタマーサクセスマネージャーには、顧客の成功も不満もすべて受け止めて長期的なつながりを築く能力が必須となります。
カスタマーサクセスマネージャーの必須要件
次に、カスタマーサクセスマネージャーに求められる主なスキルと資質を示します。
カスタマーサクセスマネージャーに求められるスキルと資質
優れた統率力とプレゼンテーション能力
関係構築力
業界知識
共感力
リーダーシップスキル(多くのカスタマーサクセスマネージャーはカスタマーサクセスチームを率いるため)
「だれもが顧客の立場になったことはありますが、良い体験にしろ悪い体験にしろ、顧客としての体験を基に独自のカスタマーサクセスマネジメント手法を作り出せるのは、非常に貴重なスキルだと言えます」Zendesk、カスタマーサクセスアソシエイト、Delores Cooper
カスタマーサクセスマネージャーの3つの主要な職務
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客と良好な関係を築く役割を担います。顧客の課題に応じた製品ソリューションを提案すると共に、自社のビジネスを拡大するチャンスを見極める必要があります。
長期的な顧客関係の管理
IDCの予測によれば、2022年までに、ソフトウェア販売の収益の53%がサブスクリプションサービス経由になるとされています。多くの企業に見られているように、製品やサービスの購入形態は、買い切り型から定期購入や月額制へと変化しています。
購入形態が変化したのなら、顧客関係に関する目標も見直す必要があります。次なる目標は、顧客に「継続的に」満足感を与えることです。そのときだけ相手を満足させればよい一回きりの取引とは勝手が違います。このように、リレーションシップマーケティングに重点を置くところが、カスタマーサービスの他の職種とカスタマーサクセスマネージャーとの違いになります。
カスタマーサクセスマネージャーは、リレーションシップマーケティングのエキスパートです。 [出典]
営業担当者やサポート担当者が短期的な顧客の満足度に注目するのに対し、カスタマーサクセスマネージャーは数年単位で価値の向上に取り組みます。顧客が契約にサインしたらミッション完了というわけにはいきません。むしろそこからが始まりです。
カスタマーサクセスマネージャーは、リレーションシップマーケティングのプロセスの責任者です。顧客に定期的に連絡し、気軽に会話できるような関係を築ければ、顧客の懸念にすぐに気づき、解消を図れるようになります。
ブランドと製品のプロモーション
新製品や新機能についてこまめに最新情報を共有し、関心を高めるのもカスタマーサクセスマネージャーの仕事です。新しい製品がリリースされると、カスタマーサクセスマネージャーは顧客にデモやトレーニングの利用を勧めます。また、顧客が新製品を追加することになったときには、その実装を支援します。
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客のユースケースをよく理解して信頼を得られるように、十分な時間をかけているため、アップセルの機会を自ずと特定できる立場にあります。新たな取引の機会を見定め、適切な提案をするには、こうしたパーソナルな関係の構築が欠かせません。
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客満足度の維持に欠かせない、製品に関する技術サポートやトレーニングも提供する必要があります。特に導入プロセスでは、顧客と緊密に協力し、製品のスムーズな実装を支援する必要があるため、こうしたスキルがいっそう重要になります。
先回りでの問題の解決
カスタマーサクセスマネージャーは、顧客のビジネスの動向に目を配り、顧客と結束して課題の解決策を見つける必要があります。大火事になる前に火を消し止めるのがカスタマーサクセスマネージャーの仕事です。問題が起こる前に回避策を提案するには、日ごろからこまめに顧客の満足度をチェックしておくことが欠かせません。
カスタマーサクセスマネージャーは、毎週とまでは言わないまでも、月に1回は顧客に連絡し、所定の質問を基に顧客の満足度を測定します。その質問の回答と、(自社のソフトウェアにどのくらいの頻度でアクセスしているかなどを示す)顧客の行動データを比較することで、全体的な満足度を判定できます。
何か危険信号を見つけた場合、カスタマーサクセスマネージャーは直ちに対策に取りかかり、苦情が寄せられる前に問題を解消します。最初のステップとしては、顧客に電話をかけて近況を聞いたり、顧客を招いてランチ講習会を行ったりするだけでもよいでしょう。定期的に顧客とやり取りし、気軽に会話できる関係になっていれば、こうしたフォローアップがうっとうしいと思われることはありません。
カスタマーサクセスマネージャーを配置して顧客関係を改善しましょう
今日、顧客が企業に期待しているのは、ニーズを満たしてくれる製品だけではありません。自分たちの目標について気にかけてくれるプロフェッショナルからパーソナライズされたサポートを受けることも期待しています。
こうした期待が生まれていることから、カスタマーサクセスマネージャーの存在が重要となっています。カスタマーサクセスマネージャーを配置すれば、その役割を通して、企業は顧客のニーズを深く理解できます。カスタマーサクセスマネージャーが顧客のフィードバックを集めて社内に共有することで、ユーザーが求める方法で製品やサービスを提供できるようになるでしょう。
カスタマーサクセスマネージャーを採用する前に
採用面接に備えて、カスタマーサクセスマネージャーの候補者全員に聞くべき質問集をチェックしておきましょう。