忘れられない顧客体験には、すばらしいものから腹立たしいものなど、さまざまあります。たとえば、駆け込みでスーツの寸法直しを頼んだら快く急ぎで対応してくれた仕立屋や、ひどいサービスにもかかわらず正規料金を請求したレストランスタッフなど、どちらもずっと記憶に残ります。
当然ながら、企業が提供するCXの質が高ければ、顧客ロイヤルティも高くなります。
企業がCX戦略を強化し、顧客の期待値が高まるにつれて、企業が理想とするCXと実際に提供可能なCXのバランスを見出す必要が生じます。顧客中心主義で知られている企業のような満足度の高いCXを提供し、大きな成果につなげるには、どうすればよいでしょうか。
この記事では、その方法をご紹介します。
CXとは?
CX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験)では、企業と顧客の関係に焦点を当てます。どんなに短時間でも、また購入につながらなくても、企業と顧客の間で行われたすべてのやり取りがCXの対象になります。
窓口への問い合わせ、目にした広告、請求書の支払いといった日常的な事柄をはじめ、あらゆる接点における顧客体験によって、企業と顧客との関係が深まることもあれば、逆に損なわれることもあります。
Zendeskのコミュニティマーケティングスペシャリストを務めるDave Dyson (原文記事執筆当時)は、次のように述べています。
「CXとは、企業との一連のやり取りの中で顧客が受ける印象のことです。これはカスタマージャーニーの各段階で顧客が企業と接した際の体験が積み重なってできていきます。例えば、購入を決めるきっかけとなったマーケティング資料、営業担当者と接したときの体験、製品やサービスの品質、購入後に受けたカスタマーサービスなど、あらゆる体験が総合されて決まります」
「カスタマーエクスペリエンス」と「カスタマーサービス」の違い
カスタマーサービスがカスタマージャーニーを構成する要素の1つであるのに対して、CXは顧客とブランドのすべてのやり取りを包括したものです。簡単に言えば、カスタマーサービスはCXというパズルの1ピースに過ぎません。
一方で、CX Journeyの創業者でありCEOのAnnette Franz氏は次のように述べています。
「カスタマーサービスは、CXに問題が発生したときに必要となるものです。すべてがうまくいっている状態、またはCXを適切に設計して実行している状態であれば、カスタマーサービスは必要ありません。製品に問題が起こっていないからです」
優れたカスタマーサービスは、企業の全体的なCXに不可欠です。サポート担当者は多くの場合、顧客が問い合わせた際に、最初に(そして唯一)耳にする人間の声です。このやり取りは顧客との関係を築くための礎となり、いつまでも記憶に残る好印象を残すチャンスとなります。
CXの重要性
ZendeskのCXトレンドレポート2022年版によると、顧客と企業のどちらもCXの重要性を認識しています。調査対象の企業の半数以上(56%)が、来年度のビジネスの最優先事項に「CXの品質向上」を挙げています。
質の高いCXを提供するメリットは以下のとおりです。
カスタマーリテンション(顧客維持率)の向上
LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)の向上
ブランドロイヤルティの向上
ブランドの評判の向上
競争優位性の向上
顧客がブランドに対してどう感じるかは、カスタマーリテンション、LTV、ブランドロイヤルティと関係性があります。質の高いCXによって顧客との関係を深めることができれば、リピーターになる可能性が高まります。実際に、顧客の81%が、カスタマーサービスに満足すれば次回も購入を考えると回答しています。
競争が激化しているビジネス環境で顧客を獲得、維持することは容易ではありません。しかし、時間と労力をかける価値はあります。シームレスで満足度の高いCXを提供することの重要性に目を向けない企業は、競合他社に顧客を奪われることになりかねません。
CXトレンドレポート2022年版
- 1回でも不快な思いをしたら、顧客の61%が競合他社に乗り換えると回答
- 2回不快な思いをしたら、76%が乗り換えると回答
Dysonは次のように説明しています。「顧客が満足するCXを生み出せれば、競争上の優位性が促進されます。顧客はいつでも他社を選ぶことのできる立場にあります。問題が起こったときにカスタマーサポートにつながらなければ当然苛立ちを感じます。不快な体験をすれば、他社に乗り換えることもあるでしょう。優れた体験を提供している競合他社を見れば、求められているCXがわかります」
多くの企業は、質の高いCXが他社との差別化を図るうえで重要になることを認識しています。つまり、優れた製品や競争力のある価格設定だけでは、もはや顧客ロイヤルティを構築できないため、パーソナライズされた積極的なCXが求められています。
カスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)とは?
カスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)は、CXを測定、分析、向上させるプロセスです。CXMでは、カスタマージャーニー全体を俯瞰して、顧客の課題を特定し、その解決方法を検討します。
良いCXと悪いCXの違い
良いCXの定義は、顧客によって異なります。しかしDysonによると、それはシンプルに「顧客に手間をかけさせないこと」という言葉にまとめられます。
「顧客が手間をかけなくても簡単に製品やサービスを目的の用途に使用できるのが良いCXです。顧客ロイヤルティで大切なのは、大きな感動を作り出すことではなく、企業がいつでも頼れる存在となり、顧客に手間をかけさせないことです」
良いCXの例
わかりやすいセルフサービスコンテンツ
既知の問題に対するプロアクティブなサポート
透明性のある価格設定
いつでも利用できるライブカスタマーサポート
待ち時間の短さ
製品やサービスの現実的な効果を伝えるマーケティング
直感的な製品デザイン
優れたCXを提供する企業は、異なる部門が協力してシームレスで一貫性のあるCXを顧客に提供することが重要だと理解しています。
例えば、顧客の買い物かごに入っている商品や顧客が開いた販促メールといったマーケティング部門が把握するような詳細情報でも、カスタマーサポート担当者が簡単に確認できるようにしておく必要があります。同様に、マーケティング部門でも、顧客とカスタマーサポートとの過去のやり取りを確認できるようにしておくことで、よりパーソナライズされたメールを送信できます。
エンドツーエンドの観点からCXを理解して、あらゆるタッチポイントで顧客のニーズに優先的に対応することが、良いCXには不可欠です。
悪いCXの例
悪いCXとは、企業が期待に応えてくれていないと顧客が感じることです。
CXトレンドレポートによると、企業の自己評価と顧客からの印象には乖離があります。
- 対象企業の60%は、自社のカスタマーサービスを高く評価しています。
- 顧客の68%は、改善の余地があると回答しています。
- 顧客の54%は、商品を購入した企業の大半のカスタマーサービスは後付けのように感じると回答しています。
悪いCXを示す一般的な指標は以下のとおりです。
悪いCXを示す一般的な指標は以下のとおりです。
待ち時間の長さ
複雑な自動応答システム
何度も同じことを聞かれる
顧客に寄り添う姿勢の欠如
カスタマーサービスへのつながりにくさ
顧客のフィードバックを軽視すること
CX向上のための7つのポイント
CXを向上させることは可能であり、そのためにはまず顧客を中心に置く必要があります。以下の7つのポイントに従って、CX戦略の強化に取り組みましょう。
1. フィードバックループの構築
フィードバックを見れば、顧客が期待していること、その期待に応えるための方法などのヒントを得られます。また、顧客が困っている点や満足している点についても、理解を深められます。
Dysonは次のように述べています。
「フィードバックループを設けて、顧客の意見に対応することが大切です。これにより信頼が生まれ、サービスを実感してもらえます」
Dysonは、社内フィードバックループを構築することも勧めています。サポート担当者が顧客フィードバックを集計して共有すれば、優れたカスタマーサービを提供するうえでの課題を理解しやすくなります。顧客のニーズに合わない方針やプロセスがないか、問題解決を遅らせるような部門間の分断や摩擦がないかなどを確認できます。
2. オムニチャネル対応のカスタマーサービスの構築
顧客は、何度も同じ説明をしたくありません。しかし、部門ごとに顧客の対応方法が異なるため、部門間で効果的にコミュニケーションを引き継ぐことは難しく、このよくある問題を解決することが企業の課題となっています。
解決のカギは一貫したやり取りを提供するオムニチャネルな体験を構築することです。顧客が頻繁に利用するチャネルに対応し、チャネルを変えても、会話履歴や背景情報を常に確認できる状態にしておきます。
すべてのチャネルでシームレスなカスタマーサービスを提供するためには、顧客の人物像、既読のメール、買い物かごの中身、過去の問い合わせ内容といった背景情報が非常に重要です。
オムニチャネルルーティング機能を備えたカスタマーサービスソフトウェアなら、サポート担当者の空き状況、対応能力、チケットの優先順位に基づいて、各チャネルのチケットを適切な担当者に振り分けられます。
3. セルフサービス型サポートの提供
基本的な問題はサポート担当者に問い合わせるよりも、自分で解決したいと考える顧客は少なくありません。データに基づいたコンテンツがあれば、顧客は自分で問題を解決できます。
通常はサポート用のチャットボットを利用して、その場で簡単な回答を提供するか、顧客に適切なコンテンツを案内します。重要なのは、コンテンツを最新かつ正確に保つことです。役に立たない記事は、不満につながりかねません。
4. パーソナライゼーションの実現
CXトレンドレポートによると、顧客の68%はパーソナライズされたCXを期待しています。パーソナライゼーションの例には、以下が挙げられます。
顧客の好みの方法で問い合わせられるようにする
購入履歴や検索履歴に基づいた提案
パーソナライズされたセルフサービスコンテンツやFAQの共有
人はパーソナライゼーションによって大事に扱われていると感じるため、顧客のペルソナに沿ったサポートのカスタマイズは効果的です。顧客の好み、性格、購入パターンといった背景情報を収集しておけば、エージェントは適切にサポートをカスタマイズして迅速に問題を解決できます。
パーソナライゼーションを推進する方法として、社内のサポート対応に関するユーザーエクスペリエンス(UX)調査を実施するのも有用です。
5. AIを活用した顧客支援
CXの向上において、人工知能(AI)は今後も重要な役割を果たします。実際に、2020年から2021年にオートメーションを利用した企業では、AI搭載のチャットボットが処理するチケット数が53%増加しました。
AIを利用したチャットボットやバーチャルアシスタントは、頻度の高い簡単な問題に対応する場合に活用できます。問題を解決できない場合や、十分な対応ができない場合は、人間の担当者に引き継いで、シームレスに会話を続けることができます。
6. 先を見越した対応
トップレベルのCXを提供する企業は、顧客のニーズを予測して、問題が大きくなる前、あるいは発生する前に対応します。先を見越した対応は、顧客が大事に扱われているという印象を残せるうえ、透明性を示し、信頼や顧客ロイヤルティの構築にもつながります。
「先を見越した対応とは、技術的な問題、トラブル、特定された問題などに先手を打ってから、顧客に『どのような問題が起きていて、どのように対応しているか』を伝えることです」とFranz氏は言います。
たとえば、eコマース企業であれば、購入手続き用のページにチャットボットを設置して、顧客が購入を断念しないように疑問点を解決できるようにします。また、インターネットプロバイダーなら、サービス停止期間をメールで事前に顧客に案内します。
7. データやアナリティクスの活用
データから読み取るストーリーには、サポート部門の効率性、企業とのやり取りにおける顧客の総合的な満足度、顧客行動のトレンドなど、さまざまなヒントが隠れています。
顧客を念頭に置いてプロセスを改善するには、まずはデータから顧客やサポート担当者のことを読み取って理解する必要があります。こうした情報は、課題、ニーズ、目標を理解する際にも役立ちます。収集したデータはすべて、CXを向上させる力となります。
CXを測定する方法
一口にCXと言ってもさまざまで、測定するのは簡単ではありません。Dysonは次のように述べています。
「簡単にCXを測定できる魔法のような数字はありません。小さな要素を1つずつ見ていく必要があります。全体を測定するのは難しく、データが多いほど正確に測定できます」
理想のCXを実現するためのデータ収集方法には、以下のようなものがあります。
- 顧客満足度調査の実施: 顧客満足度(CSAT)やネットプロモータースコア®(NPS®)、顧客努力指標(CES)といった調査では、顧客がCXを点数で評価します。
- 測定可能なデータの分析: チャーンレート(解約率)、LTV、チケットの再開率、解決時間など、CXを評価するために収集したハードデータを確認します。
- 新しいCXを導入する際のA/Bテスト: 対象の顧客層にA/Bテストメールを送信します。これにより、新しいCX資産の成果を予測するために必要な情報を収集できます。
- バーチャルフォーカスグループとしてのコミュニティフォーラムの使用: コミュニティフォーラムの顧客が抱える課題、機能リクエスト、製品やサービスの使用方法についての投稿などから、重要なインサイトが得られます。
- 顧客対応担当者の意見: 顧客対応にあたる担当者は、顧客のCXへの意見に関する貴重な情報源です。
CXを分析する方法
CXデータを効果的に分析する方法をよく理解していない企業もあります。よくある失敗は、1つひとつの要因を調査して、それぞれの改善方法を検討するという、断片的なアプローチを取ることです。これでは、個々の要因が他の要因に与える影響を考慮していないため、間違ったCXMを実施している可能性があります。
CX戦略に取り組む時には、より総合的で全社的なアプローチを取るようにすると、顧客満足度とロイヤルティが高まります。CXの分析にあたって考慮すべき分野は以下のとおりです。
- マーケティング
最も臨機応変な対応が求められるのがマーケティング部門で、顧客のニーズの変化に合わせて絶えず対応する必要があります。
広告や対外キャンペーン、口コミなどで見込み客に与える第一印象を作り出すのも、たいていはマーケティング担当者の仕事です。こうして作り出した印象は、SNS、マーケティング、ブランドプレゼンスなど、企業として発信する対外的なメッセージを通じて持続されます。
顧客とのすべてのタッチポイントで収集したデータがあれば、やり取りをパーソナライズしやすくなり、顧客ロイヤルティの向上につながります。 - 営業
CXの期待値を決めるのが営業部門です。販売プロセスでは、カスタマージャーニー全体を通じて見込み客のニーズに応じることに細心の注意を払います。
営業部門の取り組みによって、特定の機能、フォローアップ、サポート条件など、顧客が何を求めているかを把握できるため、他部門の業務にもメリットがあります。企業全体が連携すれば、営業部門でリピート購入を促進でき、チャーンレート(解約率)も下がります。 - 製品
企業が提供する製品やサービスとCXには密接な関係があります。顧客の多くは、すばらしいCXに価値を見出します。高級レストランとファーストフードの料金の差に見られるように、購入する製品やサービスよりも、CX自体にお金を費やす顧客もいます。
信頼性、価格、ユーザーエクスペリエンス(UX)、製品ライフサイクルといった詳細はすべて、企業が顧客に提供する総合的なCXに結び付きます。中でも企業の評判に大きく貢献するのが製品を使用したときの体験で、この体験がCXのあらゆる部分に影響を及ぼします。 - カスタマーサービス
販売後の顧客対応は、主にカスタマーサービスが担当します。
担当者は顧客の声を直接聞けるため、顧客がどのように製品を使っているか、顧客が何に困っているか、顧客のニーズに応えられているか、顧客ベースがどのように変化しているかといった情報を収集できます。
企業が効果的に進化していくためには、フィードバックが不可欠です。
ワンランク上のCXを実現
企業の評判は、企業の成長と生き残りを左右します。企業の成功は、ロイヤルティの高い顧客を獲得し維持できるかどうかにかかっています。顧客を第一に考えられなければ、顧客を競合他社に差し出しているようなものです。
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