スーパーコンピュータの利用者支援をスマートに 効率化を最優先課題に変革を推進
理化学研究所は、スーパーコンピュータの利用者支援のプラットフォームをZendeskで刷新。問い合わせ内容に応じて、一次窓口機関、理研、製造企業の間で頻繁に発生する非効率なやりとりを簡素化することで、ユーザーサポートの効率化と問題解決時間の短縮に成功した。今後はFAQページの再構築にも着手し、自己解決率の向上を目指していく。(写真提供:理化学研究所)
PDF版をダウンロード「Zendeskはユーザーサポートのあるべき姿が凝縮されているという意味でベンチマークと言えます。Zendeskに機能がない場合は、ない理由があると考え、我々の運用をそこに合わせることで結果的に最適化につながっていきます。そうやって日本全国にあるスーパーコンピュータの利用者支援にも変革を起こしていきたいですね。」
計算科学研究センター 運用技術部門 部門長
- 国立研究開発法人理化学研究所
Zendeskソリューション導入の背景と課題
日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、計算科学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野で研究を進めている国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)。1917年に財団法人として創設され、戦後、株式会社科学研究所、特殊法人時代を経て、2003年10月に文部科学省所轄の独立行政法人理化学研究所として再発足。2015年4月に国立研究開発法人理化学研究所となった。研究成果を社会に普及させるため、大学や企業との連携による共同研究、受託研究などを実施しているほか、知的財産等の産業界への技術移転を積極的に進めている。
その理研が富士通株式会社と共同で開発し、2021年3月より本稼働を開始したのが、スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」だ。さまざまな社会課題の解決や、科学技術の振興、産業の強化などに貢献することを目的として開発された「富岳」は、研究者を中心に国内外の多くのユーザーに利用されている。利用に際しての問い合わせは、即答できる初歩的なものからプログラミングに関するもの、問題の切り分けや緊急対応が必要なケースまで非常に幅広い。中には、システム側の機能改善を要する内容もあり、対応完了までに数か月かかることも珍しくない。利用者支援の一次窓口機関で解決できない場合は理研へ、さらに高度な内容は製造企業である富士通へとエスカレーションされ、プレイヤーが多いのも特徴だ。
スーパーコンピュータ「富岳」
従来のチケットシステムはメールベースでのやりとりが中心で、こうした組織間の連携を前提とするサポートには十分に対応しきれていなかったという。国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター 運用技術部門 上級テクニカルスタッフ 三上 和徳氏はこう説明する。
「利用者からの問い合わせに対応するためのデータベースと、一次窓口機関と理研がやりとりするためのデータベースが別々に存在していて、2つのデータベース間でチケットの更新情報を確認しながら利用者とやりとりする必要があり、非常に煩雑でした。一次窓口機関からエスカレーションサポートの要請を受けた場合に、問題解決に必要な情報提供を依頼する場合や、最終的に回答を提示する場合も一次窓口機関のデータベースまで一旦戻して利用者に送付されるため、解決までの手間や時間がかかるだけでなく誤解が生じる場合もありました。」
Zendeskが選ばれた理由
「サポートチームのメンバーも非効率な実態は認識していましたが、いざ変えるとなると大変なことも想像できるので、なんとなく我慢していたというのが現状です。しかし、我慢も限界でした。演算速度を競う『TOP500』で世界第1位を獲得したスーパーコンピュータのサポートとして、この非効率さはいかがなものかという声が大きくなり、さすがにどうにかせねばという動きになりました」と国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター 運用技術部門 部門長の庄司 文由氏は振り返る。
左:国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター 運用技術部門 部門長 庄司 文由氏
右:国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター 運用技術部門 上級テクニカルスタッフ 三上 和徳氏
効率化を最優先課題として、スマートに問い合わせ対応が行える製品を探していたところにZendeskとの出会いがあった。デモを見せてもらい、実際の使い勝手を体感。将来にわたる拡張性の高さや、豊富な事例、大企業での採用実績などを踏まえ、Zendeskならやりたいことがすべて実現できると確信し、採用を決定した。
庄司氏は、Zendeskが広く採用されていることに価値があるとして、「我々は、ユーザーサポートのあるべき姿=スタンダードにどう近づけるかが重要だと思っていました。広く普及しているということは、理想的なサポート業務に欠かせない重要なエッセンスが凝縮された最大公約数的な製品と考えることができます。ツールを自分たちに合わせるのではなく、自分たちのやり方をツールに近づけることで、最も効率的なユーザーサポートの体制が作れるだろうと期待したわけです」と説明。
また、比較検討の経緯についてもこう補足する。
「実はオープンソースソフトウェアという選択肢も候補にあったのですが、スペック的には要件を満たしていても、使う人ががんばって習熟度を上げればやりたいことができるというのでは、かゆいところに手が届きません。ストレス度を総合的に考え、コストをかけても確実に投資回収できるツールとしてZendeskを選びました。」
Zendesk導入の効果
Zendeskを導入した一番のメリットは、サポートに関わるすべてのプレイヤーが、共通のプラットフォーム上で全チケット情報を参照できるようになったこと。これは、導入の狙いの一つでもあった。「Zendeskで多様なビューを設定できるので、担当割り当てや推移の確認、一定期間回答がないチケットなども一目瞭然です。チケットのステータスが可視化されたことでモレがなくなると期待できます」と三上氏。
Zendeskのチケットとして発行された利用者からの質問・相談は、一次窓口機関で対応が完了するチケットも、完結できないため理研へエスカレーションされるチケットも、サポートスタッフ全員で情報が共有される。エスカレーションされたチケットは、対応方針が決まると一次窓口機関に戻さずにチケット担当スタッフが利用者へ向けた更新を行う運用で、利用者への回答時間の短縮を図っている。Zendeskのトリガ機能やマクロ機能を駆使して自動化を促進し、運用が大幅に効率化されたことで、エスカレーション時のワークフローが簡素化された効果も大きい。利用者にとっての利便性・応答性が格段に向上したのは間違いない。
チケットへの回答マクロ利用例
マクロの動作と連動するトリガ例
問い合わせフォームもZendeskのFAQ・ヘルプセンター構築機能を活用して細かく作り込んだ。一部のフォームでは、利用者が選択した項目によって入力項目や担当者の割り当て先が動的に変わるように設計。一次窓口機関が問題の切り分けを行う手間が軽減されている。
多言語対応の問い合わせフォーム(左:日本語/右:英語)
「「富岳」の利用者は英語圏の方も非常に多いので、ツールの英語対応が重要です。Zendeskの動的コンテンツを用いた仕組みで多言語対応が整備でき、そのおかげで問い合わせ対応日本語メニューと連動する英語メニューを用意できました。想像していた以上に完成度の高いものになりました。」(三上氏)
今後の展望
理研が次の段階として取り組むのは、FAQページの作り込みである。その先に目指すのはFAQページによる自己解決率アップだ。将来的にはボットを活用して問い合わせの大半を既存のFAQコンテンツへと誘導し、セルフサービスで完結する仕組みを理想とする。そのためのFAQページの整備はこれからの課題。自己解決が可能な問題は全体の7~8割を占めるため、残りの2~3割にリソースを集中したいという。
改めてプロジェクトを振り返り、「Zendeskの導入でユーザーサポートにイノベーションを実現できた」とする庄司氏のコメントが興味深い。「Zendeskは言うなればベンチマーク。極論すれば、Zendeskに機能がない場合、そこには”ない理由”があるわけです。むしろ運用に問題があるのでは?と考えてみるきっかけになります。今後も我々の運用をZendeskに合わせていくことが最終的に最適化につながるという信念をもって、引き続き取り組んでいきたいですね。」
日本には理研を筆頭に、スーパーコンピュータを扱う計算科学研究センターがいくつも存在する。理研がかつて抱えていた問題は他のセンターでも例外ではない。理研の事例は、日本全国のスーパーコンピュータのユーザーサポートを変革する追い風となりそうだ。