「AIを活用した横断検索やZendeskのFAQ・ヘルプセンター構築機能による記事のリコメンドにより、市民によるFAQ記事の活用が進んでいます。AIの学習効果で検索後の離脱率が減少しただけでなく、記事の評価コメントをチケット化することで市民の声を速やかに反映できます。コンタクトセンターの構築を見据えて、ますますZendeskを活用していきたいですね。」
市長室 広報戦略部 ホームページ監理官
- 神戸市
Zendeskソリューション導入の背景と課題
六甲山系の豊かな自然と、洗練された港の風情、そして異国情緒あふれる街並みを特徴とする神戸市は、国際貿易港を中心に発展してきた日本を代表する大都市である。日本の文化・経済をけん引する街となるために、行政の効率化やイノベーションを図る自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進においても他都市をリードする取り組みを続ける神戸市では、さまざまなテクノロジー企業との連携、グローバルなスタートアップ支援などにも力を入れている。
こうした動きの一環として、今回デジタル変革のターゲットとなったのが、市民からの問い合わせ対応業務である。コールセンターが受ける電話件数は1日に約1,000~1,500件。代表電話にかかってくるものを含めると、年間200万件に上る。チャネルとしては、電話以外に有人チャット、メール、FAXなど複数あるが、98%は電話だ。神戸市 市長室 広報戦略部 ホームページ監理官 金田 侑士氏は、「止まらない人口減少への対応が急務となるなかで、なぜか市民からの問い合わせ件数だけは一向に減らないどころか、むしろ増えていたのです。ここに対する武器はDXしかないと考えています」と語る。
問い合わせ内容は税金からゴミの分別、コロナ感染時の対応まで多岐にわたり、FAQサイトを見れば自己解決できる問題も少なくない。しかし、以前は、神戸市のホームページとFAQサイトが別々に存在しており、そもそも必要な情報が探しにくいうえに検索スピードが遅いという問題があった。金田氏はこう振り返る。
「記事の更新対象が2つあるだけでなく、その判断は所管に任せており、ホームページとFAQサイトの両方に記事を掲載する部門もあれば、片方だけでよしとする部門もあるような状況でした。一番の問題点は、一度公開されたFAQ記事の半分がその後更新されていないことです。つまり、問題解決に貢献できない記事がそのまま放置されていたことで、結果としてコールセンターへの問い合わせが増えていった可能性があります。」
推測に過ぎないのは、アクセス数ぐらいしか把握できておらず、FAQ記事の活用状況はもちろん、最終的に解決につながったのかどうかを分析できていなかったからだ。FAQサイトのアクセス数はホームページの100分の1程度。それだけ使われていなかったことが伺える。
Zendeskが選ばれた理由
増え続ける問い合わせによるコールセンターの負荷を軽減するためには、お客様による自己解決を促進していくしかない。FAQサイトの再構築を決めた神戸市は、将来的に職員による記事の更新を自動化したいとの考えから、AIとの連携までを見据えてツールを選定。FAQサイトにとどまらず、問い合わせ対応のマルチチャネル化が可能で、他社製品より拡張性に優れたプラットフォームだとしてZendeskの導入を決めた。
同市は、FAQサイトに掲載していた記事をZendeskのFAQ・ヘルプセンター構築機能に集約し、FAQサイト上でホームページ側の情報も横断検索できるようにした。移行に際しては、ほとんど閲覧されていない記事は棚卸をし、約半分に絞り込んだ。完成したFAQサイトには2つの強いこだわりがある。1つは検索性で、AIを活用してホームページ側の検索ウィンドウからFAQサイトを含む横断検索を可能にしたほか、FAQサイトでは、検索ボタンを押す前に打ち込んだ文字によってお勧めの記事をレコメンドするようにした。
神戸市FAQサイト
もう1つは、検索したユーザーに対して、結果に対する満足度を調査できるようにしたことである。「この記事は役に立ちましたか?」という質問に「はい」「いいえ」で答えると、記事に対する評価コメントの登録画面が表示される。ここで入力されたコメントはZendeskのチケット管理機能でチケット化され、市民のFAQサイトへの評価をきちんと収集できる仕組みだ。これらは良い評価も含めて市民の声として担当部門にフィードバックし、記事のメンテナンスに活かしており、改善を望む声はもちろん、うれしいコメントを敢えてシェアすることで、担当者のモチベーションアップを図る狙いもある。
FAQサイトで記入されたコメントをチケットとして管理
チケットは内容に応じて担当部門へと転送
Zendesk導入の効果
Zendeskの導入を機に大きく変わったのは、問い合わせにつながった要因が見える化されつつあることだ。神戸市 市長室 広報戦略部 担当係長の東 伸也氏は、「正直なところ、これまでは担当部門に修正をお願いしたくても、明確な理由がないため、どこかに遠慮がありました。今は、市民による記事の評価コメントがチケットとして届くので、担当部門に速やかに転送できますし、煩わしい手続きも要りません。市民の生の声となると関係者が言うよりも説得力がありますから、担当部門の意識を変えていくきっかけにもなりそうです。何よりこうしたメンテナンスのサイクルを構築できたことが重要な一歩だと感じています」と語る。
また、問い合わせの多い記事を検索結果で上位表示するための対策も、記事の更新とAIによる学習が進むことでほぼメンテナンスフリーになり、検索後の離脱率減少につながっている。
今後の展望
担当部門が市民の声を受けて記事を更新できる環境が整い、市民による活用が進み出したものの、今後は職員にとっていかに使いやすい環境を実現できるかが一つの焦点となっている。「市民による記事の活用状況の管理は担当部門に任せているのですが、まだまだ使われていない印象です」と語る金田氏は、その理由を「地方公共団体を相互に接続する行政専用ネットワーク(LGWAN)がインターネットと遮断されており、管理画面に入るにはインターネットに接続する手続きが必要です。そこに時間がかかってしまうと、思うように活用が進みません。この壁をクリアできないと今後の展開が難しくなると考えています」と説明。これはFAQサイトのメンテナンスに限ったことではないため、パートナー企業の協力を得ながらベストな解決策を模索し始めている。
また、コールセンター機能のWeb化を見据え、Zendeskのチケット管理機能による複数チャネルをまたいだ問い合わせ管理の一元化や、Zendeskのチャット機能の活用などにも関心を寄せており、新たな体制の構築を目指して計画が進行中である。「Zendeskを基盤としてコールセンターを変革していきたいですね」と金田氏が語るように、コールセンターからコンタクトセンターへの脱皮を引き続きZendeskでサポートしていく考えだ。
行政に潜む課題をテクノロジーで解決する「GovTech(ガブテック)」先進都市としても知られ、スタートアップとの取り組みも盛んな神戸市。コールセンターの変化への挑戦においても、常にテクノロジーの進化をリードしようとする神戸市の強い意志と信念が伺える。