カスタマーエクスペリエンスをめぐる企業間の競争が激しさを増しています。なぜなら、UberやAmazonなどの企業が、オンデマンド乗車サービスや当日配送のように、従来の常識をくつがえす革新的なコンセプトを展開することで、ハードルを一気に上げてしまったからです。これらのサービスを、まるで何十年も前からあるかのように私たちは利用しています。つまり顧客は、一度便利なものを知ってしまうと、それを手放せなくなるのです。
私たちの期待度がどれだけ上がろうと、カスタマーエクスペリエンスがビジネスに与えている影響を考えれば、企業はその期待に応えようと努力せざるを得ません。消費者は企業と対話する時、他社で過去に経験した素晴らしいカスタマーサービスと現在の相手とを、業種の違いを意識せず比べているものです。Zendeskが世界中から4万5000の企業を対象に調査を行った今年度のベンチマークレポートでは、46パーセントの顧客がカスタマーエクスペリエンスの向上に期待していると同時に、サポート担当者の59パーセントが顧客の期待が高くなったと感じていることも明らかになっています。
やみくもにUberやAmazonを見習えというのは無理な話ですが、どの企業もトップに負けないカスタマーエクスペリエンスを提供するべく、それぞれの方法を検討し続けることが重要です。顧客が求めるスピード、利便性、パーソナライゼーションを、どうすれば提供できるか理解しなくてはなりません。まず必要になるのは、それを実現できるテクノロジーを探すことでしょう。
新しいアプローチで大局を見る
カスタマーエクスペリエンスの改善には、最新テクノロジーの導入が成功の鍵を握ります。旧式の顧客関係管理(CRM)システムは、さまざまなソースから送られる莫大な顧客データを処理する機能を持ちません。そのため、有益な情報が対話の発生場所ごとにサイロ化し、ポイント間でデータを連携させることもできません。
そこで注目したいのが、オムニチャネルカスタマーサービスの概念です。顧客はサポートに問い合わせる際、最初にライブチャットでやり取りし、そのあと電話に切り替えるなど、複数のチャネルを使うことが少なくありません。従来のシステムでは、顧客がそれぞれに必要な情報を伝えたはずでも、チャネルごとに企業の担当者が違えば、別々の問い合わせとして処理される恐れがあります。オムニチャネルでサポートを提供すれば、使用するチャネルの数が増えようと、すべての情報が1つのチケット内で管理されるため、問い合わせに関するあらゆるデータをすぐに確認することができます。
この概念を応用し規模を拡大した技術もあります。重要と判断したデータをさまざまな場所から入手して、ビジネスに活用する企業が増えているのです。たとえばハードウェアメーカーであれば、IoTセンサーを利用して製品の稼働状況に関するデータを集めたり、オンラインストアであれば、顧客が購入につながる対話を行った際に情報を受け取ったりできます。データポイント間を連携することで、顧客が企業と対話した内容をすべて完全に理解し、カスタマーエクスペリエンスの改善に役立てているのです。
従来のCRMシステムの場合、データモデルやプログラミング言語の異なるシステムの連携が必要になるため、顧客の全情報をまとめて管理することは必ずしも簡単ではないのに対し、最新のツールの多くにはその機能が最初から含まれています。つまり、大局的かつ将来を見据えたアプローチでカスタマーエクスペリエンスを改善するなら、CRMシステムの柔軟性を高める必要があるのです。
重要なデータを探す
では、システムやツールが用意できたとして、その後どのようなデータを顧客から集めればよいでしょうか。その答えは…集めてみないとわかりません。
実験とか革新的な挑戦とかに意欲的な企業ほど、カスタマーエクスペリエンスを改善する能力が高いと言えます。たとえば顧客の待ち時間やサポート担当者の応答時間を計測したり、顧客が選ぶチャネルにシステムやSNSのメッセージ機能を加えるなどの実験を積極的に行う企業です。顧客の期待は常に変化します。その期待にさまざまなアプローチで柔軟に応えられる企業こそが、他社よりも優位に立てるのです。
たとえば、顧客にリーチする際の対話をパーソナライズしたり、先回りして顧客に必要なサポートを提供したりするなど、企業はプロアクティブなエンゲージメントの試行を続けています。収集した顧客データに重要なインサイトを追加し、「顧客が応答しやすい時間帯」や「受注のステータス」などの情報を導き出すことで、パーソナライズされたメッセージを作成します。データを活用して戦略を立てることで、顧客に関連の高い情報を提供し、より効果の高い方法を見極めながら、メッセージ戦略を継続的に最適化しています。私たちの調査では、顧客の90パーセントが、企業からのプロアクティブなリーチについて、データを駆使した有益なメッセージであれば「好ましい」、あるいは「嫌ではない」と回答しています。
驚くような体験を作り出す
トップを行く企業は、驚くような体験を提供するために、あらゆる可能性の中から顧客を惹きつける要素を探しています。このように根気よく時間をかけて取り組まなければ、彼らと肩を並べることはできないでしょう。ただし、効率よくカスタマーエクスペリエンスを改善するなら、新しいテクノロジーが有効であることは間違いありません。顧客の期待がこの先どう変わるかはわかりませんが、データを見る限り、ハードルが下がることはまずなさそうです。