世界に類を見ない速さで少子高齢化が進む日本。そのなかで企業が利益を拡大し、優秀な人材の確保を続けていくことは、年々困難になっています。そこで重要になってくるのが、生産年齢人口の減少を踏まえたうえでこれまでの働き方を見直し、利益拡大を目指す「ワークスタイル変革」です。しかし、重要であることはわかっているものの、実際に取り組むまでに至っていない企業は少なくありません。
今回は企業がワークスタイル変革に取り組めない背景とその理由、そのうえでワークスタイル変革を実現させるために企業がすべきことについて考えていきます。
企業が一刻も早くワークスタイル変革に取り組まなくてはならない理由
急速に少子高齢化が進む日本において、今後、生産年齢人口(15~64歳)が増えることは考えにくいでしょう。実際、内閣府が発表した平成29年版高齢社会白書によると、平成28年(2016)10月1日現在の生産年齢人口は7,656万人です。しかし平成47年(2035)には6,495万人、平成77年(2065)には4,530万人と、平成28年から約40%も減少すると予測されています。
企業が一刻も早くワークスタイル変革に取り組まなくてはならない理由は、もうひとつあります。それは日本の労働生産性の低さです。公益財団法人日本生産性本部が2017年12月20日に発表した「労働生産性の国際比較2017年度版」を見ると、日本の労働生産性は46ドルでOECD加盟35カ国中20位。就業者1人当たりで見ても、8万1,777ドルでOECD加盟35カ国中21位となっています。
日本はただでさえ生産年齢人口が減少しているうえに、労働生産性が低いという問題を抱えているのです。
この2つの調査結果だけを見ても、現状の働き方を続けている以上、先細りしていくことは明白。生産年齢人口が減少していくなかで、優秀な人材を確保しつつ同時に業務の効率化を進め、労働生産性を高めなければなりません。1日も早くワークスタイル改革を実行する以外に方法はないのです。
なぜ多くの企業はワークスタイル変革に取り組めないのか?
ワークスタイル変革が重要であるとわかっていながら、なかなか変革に取り組めないという企業は多いです。理由はさまざまですが、なかでも大きいのが「これまでの慣習を変えることの難しさ」です。例えば、ペーパーレス化、時短制度やテレワークの導入などは、すべて業務効率化のための施策。しかし、長く働いている、もしくはこれまでの働き方で成功体験を持っている社員ほど、こうした大きな変革を受け入れることが容易ではありません。
また、これまでの慣習を変えられないというのは、経営層やベテラン社員だけではないようです。一般社員のなかには残業代をあてにして時間外労働をするケースがあります。長時間労働の是正はワークスタイル変革の重要な要素のひとつですが、残業を減らせば給与が下がることにつながるため、簡単には進みません。
さらに、外出先からでも業務が行えるモバイルワークや、出産、介護などで出社できない社員向けのテレワークの導入にも問題があります。社外で業務を行うことで、セキュリティに不安があるでしょう。業務内容や労働時間の管理も、これまで通りにはいきません。慣習を変えられないことや、システムに対する不安などがワークスタイル変革に取り組めない要因となっています。
ワークスタイル変革を実現させるために企業がやるべきこととは?
ワークスタイル変革を実現させるには、労働環境を変えることはもちろん、同時にこれまでの評価制度も変える必要があるでしょう。優秀な人材を確保するためにも、従業員満足度を高めていく必要があります。ただし、施策として残業時間削減やモバイル活用、テレワークの導入など、その形式だけを取り入れてもワークスタイル変革の実現はできません。単純に形式だけを導入しても、手段の目的化が進むだけで本来の目的である企業の利益拡大、優秀な人材の確保にはつながらないからです。
例えば、残業時間削減を促す施策として、ノー残業デーをつくる企業は少なくありません。しかし、仕事をたくさん抱える社員を単に定時退社させても、別の日にしわ寄せがいくだけです。また、少しでも残業をして給与を増やしたいと考える社員に対し、ノー残業デーを実行してもすぐに形骸化してしまうでしょう。
本当に残業時間削減を実現したいのであれば、効率よく働き、残業時間が少ない社員を高く評価する制度を導入することです。そうなれば紙の資料でなくては仕事ができない、会議は必ず出社して参加しなければならないといった、古くからの慣習は改めざるを得なくなります。
出産や育児、介護などフルで出社できない社員が働きにくい環境を変えるには、どこでも社内と変わらずに働けるよう、クラウドサービスを活用したテレワークの導入が必須です。そして、テレワークを成功させるためには、経営層や上司が一般社員とコミュニケーションを取り、互いに信頼関係を築くことが重要です。
もちろん、セキュリティに関しては、システムの面からも万全の態勢を取る必要があります。しかし、それ以前にしっかりとコミュニケーションをとり、多様な働き方を認め合う状況をつくらなければ、そもそも社外で働くことは不可能です。
ワークスタイル変革は経営層の意識改革から
どんなに働きやすい制度をつくっても、利用されなければ意味がありません。また、これまでの慣習を変えることも簡単ではないでしょう。経営層が大きく意識を変え、自らリーダーシップをとって進めることが、ワークスタイル変革を実現させる第一歩だといえるでしょう。
目的の明確化なくしてワークスタイル変革は実現しない
ワークスタイル変革の実現に必要なことは、何のために行うのか、その目的を明確にすること。そのうえで、さまざまな従業員の価値観、働き方を認め、従業員満足度を高めるために何が必要で何を変えていくべきかを考えることです。ワークスタイル変革はそこで働くもののために行うものであり、経営層がそれを理解し、忠実に実行することが利益の拡大、優秀な人材の確保につながっていくのです。
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