顧客は、企業のサポートチームに大きな期待を寄せています。中でも目立つのが、スピードを求める声です。「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」では、優れたカスタマーサービスの条件として「問題解決の速さ」が最上位に挙げられています。
こうした顧客のニーズに応えるため、企業のサポート担当者は、シームレスで質の高いサービスを届けられるよう、チケット(問い合わせ)管理システムのベストプラクティスを実践しなければなりません。チケットへの適切な優先度の付け方、顧客への的確な対応の仕方、チケットの追跡方法について、担当者全員が正しい知識を共有できるようになれば、カスタマーエクスペリエンス全体の品質が底上げされることになるでしょう。
チケット管理システムのベストプラクティス9選
1. サービスレベルアグリーメント(SLA)を定義する
サービスレベルアグリーメント(SLA)とは、サービスプロバイダーである企業と、その利用者あるいは顧客の間で結ばれる契約のことです。初回応答時間から全体解決時間まで、顧客が企業に期待できるサービスの内容について説明されています。SLAの中には、全顧客を対象とした非公式なものもあれば、特定の顧客や顧客グループを対象とした法的拘束力を伴う公式なものもあります。
SLAによって、サポート担当者は問い合わせに適切な優先度を付けることができ、顧客は企業に期待できるサービスについて明確に理解することができます。SLAで定める目標は、自社全体の目標に沿っている必要があります。たとえば、初回応答時間がビジネス成功のカギを握っているようであれば、SLAの初回応答時間を5分未満に設定します。
SLAを公開すると、自社が顧客に負うべき責任を明確にして、顧客の不安を取り除くことができます。公開方法としては、SLAに関する記事をナレッジベースに追加し、メールの署名や自動応答メッセージに記事のリンクを記載するといったやり方があります。
また、適切なSLAを設定し遵守すれば、あらゆる関係者のエクスペリエンスが改善されます。例として、建設現場管理アプリケーションを提供するFINALCADは、35人の担当者で月2,500件のチケットを処理しており、SLA準拠の割合が100%に達しています。そして、このことはサービス全体の品質向上にもつながっています。
同社の共同創業者兼CMOを務めるDavid Vauthrin氏は、次のように話します。「SLAによって、何を優先すべきかが明確になり、顧客が困っている点を特定して対処できるようになりました」
2. レベル別のサポート体制を整えて、チケットワークフローをスムーズにする
理想的なチケットワークフローを作成するには、顧客のニーズ、企業の規模、担当者の処理能力をバランス良く考慮しなければなりません。小規模なチームでチケットの数がそれほど多くない場合は、届いた順にチケットを処理していくのが最も効率的なやり方と言えますが、大きめのチームで製品も複雑な場合は、チケットに優先度を付けてレベル別のアプローチをとる必要があります。
チームが大きくなると、処理するチケットの数も増え、不確定要素も多くなり、対応するチャネルも多岐にわたります。そのため、大規模なチームの多くは、オムニチャネル対応のカスタマーサービスソフトウェアに投資すると共に、以下のようにグループを分けてレベル別のサポート体制を整えています。
- レベル1: 10分以内に解決できる単純な問題を処理する。
- レベル2: 10分以内に解決できるが、難易度の高い問題を処理する。ベテラン担当者が対応。
- レベル3: 優良顧客からの問い合わせに特化して対応する。メンバーは少人数で、さまざまな担当者によって構成される。
- レベル4: 複雑すぎて解決時間が予測できないテクニカルな問題を扱う。専門知識を身につけたエキスパートが対応。
大規模なチームでも、このようにサポート能力をレベル分けすることで、顧客のニーズに応じて適切な担当者にチケットを割り当てることができます。
3. セルフサービス型ツールを導入する
データからも明らかなとおり、多くの顧客はチャットボットを好んで利用しています。「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」によると、問題解決までの時間が短くなるのであれば、顧客はチャットボットを積極的に利用したいと考えています。また、チャットボットのようなセルフサービス型ツールを導入すると、顧客が自力で必要な情報を入手できるため、サポート担当者の時間に余裕が生まれ、個別の対応が必要な難しい問題に集中できるようになります。
チャットボットは、人間に代わって顧客とやり取りしてくれる自動会話プログラムで、チャット、SNS、モバイルアプリなどのチャネルで活用できます。ルールベース型のチャットボットでは、あらかじめ決められた選択肢の中から、顧客に最適な応答を選んでもらいます。一方、Answer Botのような機械学習を使ったチャットボットの場合は、顧客と会話を重ねていくうちに、より適したコンテンツを提示できるようになります。
ナレッジベースも、セルフサービス型ツールの一種です。検索機能を備えたオンライン図書館のようなもので、製品やサービスについて必要な情報を探し出すことができます。「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」によると、顧客の63%は、サポート窓口に問い合わせる前に(ほぼ)必ず企業のオンラインリソースを検索します。このことからわかるように、ナレッジ管理システムを充実させれば、問い合わせを抑制できるようになります。
髭剃り用品のオンデマンドサービスを展開するDollar Shave Clubは、Answer Botを導入しており、既にセルフサービス型ツールによる効率改善の効果を実感しています。同社では、毎月チケットの12~16%がAnswer Botによって解決されており、「アカウントを一時停止する方法は?」などの単純な問い合わせがその多くを占めています。
Dollar Shave ClubのシニアプログラムマネージャーのTrent Hoerman氏は、次のように話します。「そうした単純な問い合わせを減らせないものかとずっと考えていました。サポート担当者には、顧客と相談しながらでないと解決できないような、もっと人間でないと解決できないケースに時間を使ってほしかったからです。こうしたニーズに応えてくれたのがAnswer Botでした」
4. 定義済みアクションやメッセージテンプレートを活用する
スピーディなレスポンスを求める顧客の声は非常に高まっており、サポート担当者へのプレッシャーとなっています。実際、「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」では、企業への連絡手段として電話を最も利用すると回答した顧客のうち、51%は5分未満に応答があることを望み、チャットの場合も、その割合は28%に達しています。さらに顧客の76%は、ある程度パーソナライズされた対応を期待しています。
定義済みアクションやメッセージテンプレートなどの自動化機能を利用すると、応答時間を大幅に短縮できます。以下、チャット、テキストメッセージ、メールでの問い合わせ対応に取り入れたい自動化の例をご紹介します。
- チャット: チャットを介して送信されたチケットについては、ボットに最初の対応を任せましょう。ボットから質問を投げかけることで、人間の担当者が直接対応する前に、顧客の問題に関する基本的な情報を集めておくことができます。
- テキストメッセージ: 自動応答テキストを設定しておくと、テキストメッセージを通じてチケットが送信された場合に、メッセージの受信通知を顧客に自動送信することができます。
- メール: 営業担当者がメールテンプレートを使って一般的なシナリオに対応しているように、サポート担当者にもよくある問い合わせへのテンプレートを用意するとよいでしょう。顧客の状況に合わせてテンプレートを手早くカスタマイズすれば、返信の作成に手間取りません。
このように定義済みアクションを活用すれば、問題解決までの時間が短縮され、担当者は個別の対応が必要な難しい問題に時間を割けるようになります。
5. チケットタグの見直しや追加を行う
カスタマーサービスソフトウェアでは、作成されたチケットに「フィードバック」などのタグが自動的に付与されます。問題の内容が大まかに把握できるため、チケットに優先度を付けたり、割り当てる担当者を決めたりするうえで役立ちます。
タグは後から追加することもできるため、顧客対応を進めていく中で新しくわかった情報があれば、適切なタグを追加することで、チケットの内容をより正確に表すことができます。これにより、チケットが関連度の高いレポートに表示されるようになり、検索性も向上します。以下、タグの活用例を2つご紹介します。
- 顧客が報告した問題をAIがうまく認識できなかったために、自動で付与されたタグが実際のチケットの内容に合っていない場合は、担当者がチケットの中身を確認して、適切なタグを追加します。たとえば、既知のバグについての問い合わせであることがわかったら、「システム_クラッシュ」のようなタグを付与します。すると、
トリガが作動し、高レベルな問題に対応できる担当者にチケットが割り当てられます。 相手の反応やサービスの利用履歴から解約の可能性が高いと判断される顧客がいれば、注意喚起の意味を込めて、具体的な理由と共に「リスク高」というタグを追加します。
このように、タグの見直しや追加を行うと、チームでスムーズに問題を解決することができます。
6. チケットステータスを追跡し、進捗状況をモニタリングする
各チケットのステータスを、「新規」から「終了」までこまめに更新することも重要です。ステータスがはっきりわかるようにしておくと、チケットが埋もれにくくなり、高度なサポートが必要なチケットも認識できて、サポートチームの作業が捗ります。
ただし、それぞれのステータスで求められるアクションを各担当者が理解していないと、このステータス管理は意味を持ちません。たとえば「新規」ステータスのチケットなら、メールの場合は60分以内、チャットの場合は60秒以内に反応すること、あるいは、(問題が無事に解決したように思えても)顧客からはっきりとした意思表示がないうちはチケットステータスを「解決」にしないことなど、担当者全員が適切なアクションを認識している必要があります。
そうしたアクションをリマインドする仕組みとして有効なのが、カスタマーサービスソフトウェアのアラート機能です。たとえば、チケットが「保留」ステータスのまま48時間以上経過したときにアラートが出るように設定すれば、返信を忘れてしまう心配がなくなります。
7. 新人担当者にチケット管理システムのトレーニングを実施する
チケット管理システムを使いこなせないサポート担当者に、満足な仕事はできません。新人研修では、チケット管理システムに関するトレーニングを優先的に行って、チームを成功に導きましょう。ここでは、新人指導における3つのヒントをご紹介します。
まずは練習用のチケットを解決させましょう。低リスクのシナリオに対処して、実際の顧客対応に臨む前に自信を養います。
練習用チケットが何件か処理できたら、次は上司の監督下で実際のチケットに対応してもらいます。顧客に応答する前に、新人担当者のレスポンスに問題がないかどうか、必ず上司がチェックに入りましょう。
ベテラン担当者を1人選んでペアを組ませます。新人担当者からの質問にきちんと答えられる経験豊富な担当者を選びましょう。良いお手本となり、新人担当者の判断も的確に評価してくれるはずです。
8. 未解決のチケットをモニタリングする
未解決のチケットは、少しあるくらいならかまいませんが、あまりに多すぎるのは問題です。未解決のチケットを放置しておくと、顧客の満足度が下がって解約率が増加し、担当者も疲れ果てて離職していくという負のスパイラルに陥ってしまいます。では、顧客と従業員の満足度を維持するにはどうすればよいのでしょうか。
まずは、未解決のチケット数が増えてきたときに、早めにその兆候に気づくことが大切です。未解決のチケット数を週ごとの平均解決済みチケット数で割ると、未解決チケットの割合が把握できます。1ヶ月のうち特定の週だけ割合が増えている場合は、あまり心配する必要はありませんが、毎週少しずつ増えているような場合は調査が必要です。
未解決のチケット数が増えてきたときは、カスタマーサービスデータを分析して、その要因を探ります。
- 顧客満足度(CSAT)調査のスコアは、顧客の期待にどれだけ応えられているかを数値で示します。スコアが低下傾向にあるなら、補足調査を行って原因を突き止めましょう。チケットが未解決のまま溜まっていく理由が見えてくるはずです。たとえば、「複数の担当者にたらい回しにされる」という回答があった場合、タグ付けのプロセスがあいまいだったり、適切にエスカレーションされていないといった理由で、チケットが然るべき担当者の元に届いていないのかもしれません。
チャネル別のチケット数をチェックすると、利用率の高いチャネルが把握できます。特定のチャネルに未解決のチケットが集中している場合は、そのチャネルに対応する担当者の数を増やして、バランス良く人員を配置しましょう。
チケットの全体解決時間や再オープン率は、顧客からの問い合わせの難易度に比例します。そのため、こうした指標が増加傾向にある場合は、サポート体制の見直しを検討しましょう。たとえば、リリースしたばかりの新製品に関する問い合わせへの対応について、当初想像していたよりも高度な技術的知識を要することがわかったときは、チームに追加のトレーニングを行うか、技術的な問題に対応できる人員を増やすとよいでしょう。
カスタマーサービスデータを深堀りすることで、ワークフローの最適化、チームメンバーの追加、ソフトウェアへの投資など、未解決チケットの削減に必要な解決策を見いだすことができます。
9. チームから収集したフィードバックを業務フローに反映する
サポート担当者の声に積極的に耳を傾けましょう。日々サポート業務に従事する担当者からは、有意義なインサイトを山ほど引き出せるに違いありません。また当然ながら、意見が取り入れられれば、担当者のモチベーションも向上します。
サポート担当者からフィードバックを集めることは、複雑でも時間がかかることでもありません。以下のような方法で、簡単に収集できます。
意見交換会を開く:事前にサポート担当者からチケット管理に関する疑問を集めておくと、議論がいっそう活発に進みます。
ギフトカードなどの謝礼付きの内部アンケートを実施する:「SLAで定めている目標は顧客にとって妥当だと思うか」など、自社のチケット管理プロセスについて具体的な質問をしたい場合に効果的な方法です。
投票形式で、チケット管理に関する意見を手早く募る:たとえば、チケット数を削減するための戦略をいくつか検討している場合に、各担当者にどの方法がうまくいきそうか投票してもらいます。
顧客がパーソナライズされたサポートを望むのと同様に、サポート担当者も、自分たちのニーズに合った業務環境を整えてほしいと考えています。担当者からフィードバックを集めて業務フローに反映することは、そうした思いに応えることでもあるのです。
担当者へのサポートが顧客のサポートにつながる
優れたチケット管理システムがあれば、高品質なカスタマーエクスペリエンスを提供でき、顧客のロイヤルティが向上します。さらには、業務フローが最適化され、期待される問題解決時間についても的確に理解できるようになるため、従業員のエクスペリエンスも改善されます。