最近でこそ、どの企業も顧客の重要性を謳うようになっていますが、顧客は昔から一貫して一番に優先されてきたわけではありません。多くの企業に長い間コストセンターと見なされていたカスタマーサービスが、脚光を浴び始めたきっかけは新型コロナウイルス感染症によるパンデミックです。
不確実性の高い今、企業の元にはこれまでにないほど多くの問い合わせが寄せられています。その結果、サポート担当者の重要性がようやく認識されるようになりました。彼らは、渡航のキャンセルや商品の出荷遅延といったストレスの多い状況に置かれている顧客を、うまく支援できなければならない立場だからです。
Zendeskのカスタマーエクスペリエンス(CX)に関する調査によると、CXは各ブランドにとって最も重要な差別化要因であり、ビジネスの成長を示す指標でもあります。これに伴い、「顧客ファーストの姿勢」「顧客中心主義」「顧客との関係性」といったキーワードが、営業チームからカスタマーサービスチーム、さらには経営陣に至るまで、企業全体に浸透するようになってきています。
ただし、顧客ファーストのアプローチは特に目新しいものではなく、昔から存在していました。その起源は、20世紀初頭から使用されていたあるフレーズにまでさかのぼります。
「お客様こそ正義」の起源
「お客様こそ正義」というよく聞くフレーズは、20世紀初め、米国の小売業界のパイオニア的存在であるマーシャル・フィールド、ハリー・ゴードン・セルフリッジ、ジョン・ワナメイカーらが生み出したと言われています。
一方で、CXフューチャリストのBlake Morgan氏がForbesに寄稿した記事によると、同じような考え方は世界中で見られていました。たとえば、The Ritz-Carltonの創業者であるスイスのホテル王ことセザール・リッツは、既に1890年代に「Le client n’a jamais tort(お客様が間違っていることはない)」というスローガンを唱えていました。
無礼で傲慢な客を生み出すことにつながるとMorgan氏は非難していますが、この言葉を額面どおりに受け取るべきではありません。この言葉の真意は、「顧客はどんなに常軌を逸した要求でも通すことができる」ということではなく、「顧客の声に心から耳を傾けるよう従業員を教育する」ということなのです。
Morgan氏が指摘しているように、この考え方は、消費者が十分に守られておらず、買い手がリスクを負うのが当たり前と見なされていた時代には革新的でした。
「顧客」とはだれのことか
「お客様こそ正義」というフレーズは今も変わらず重要ですが、カスタマーサービスリーダーにとっての顧客は概して複数存在するという点は見落とされがちです。
顧客と言ってまず思い浮かぶのは、自社の製品やサービスを購入、使用するユーザーのことでしょう。現代のビジネスリーダーには、オンラインイベントから製品のアップデート、そして割引キャンペーンに至るまで、実際の顧客のニーズに応じた決定を下すことがこれまで以上に求められています。
さらに、自社のビジネスも顧客と呼ぶことができます。たとえばZendeskで言うと、Zendesk自身が最初の顧客で、最もロイヤルティの高い顧客でもあります。当社のカスタマーサービスチームは、Zendeskのカスタマーサービスソリューションを使って顧客対応を行っていることから、単にお客様の問題を解決するだけにととまらず、質の高いエクスペリエンスの提供を通して、お客様に「自社の顧客対応にもぜひ同じツールを使用したい」と感じていただけるような機会にもつながっています。
最後に、従業員も顧客に含まれます。「お客様こそ正義」という考え方は、顧客を優先して従業員や企業を蔑ろにしていると批判されることもありますが、いずれかを犠牲にする必要はありません。従業員を顧客同様に大事にすると共に、彼らがスムーズに働けるよう、テクノロジーやプロセスを整備し、創造性を発揮できる機会を与えるようにすれば、結果的に、顧客も自社を根強く支持してくれるようになるはずです。
従来のアイデアを現代で取り入れるには
では、デジタルファーストの世界では、「お客様こそ正義」という言葉はどういった意味を持つのでしょうか? それは、顧客のどんな要求にも応えるということではもちろんなく、顧客の問題の根本的な要因を理解するために全力を尽くすということを意味します。
例を挙げてみましょう。たとえば、ある顧客から、Webチャットまたはボットの調子がおかしいとの問い合わせがあったとします。顧客のアカウントを調べると、実装方法に問題があることがわかりました。ここで顧客に、「お客様の設定が間違っています」とだけ伝えることもできるでしょう。実際、製品に問題はなく、顧客の設定が正しくないだけなのですから。
しかし、少し立ち止まって考えてみましょう。なぜ顧客は設定ミスをしてしまったのでしょう? もしかしたら、提供した資料がわかりにくかったのかもしれません。オンボーディングのメールや製品内のメッセージに改善すべき点が残されているのかもしれません。「お客様こそ正義」を念頭に置くとは、つまり自社が提供しているCXに対して責任を負うということなのです。
ビジネスの在り方はそれぞれに異なりますが、どの企業も以下の指針に従うことで、顧客ファーストを実践できるようになります。
顧客が好むチャネルに対応する
デジタルカスタマーサービス全盛の今、顧客は、自分にとって最も使い勝手の良いチャネルで企業に連絡できることを期待しています。今後は、電話やメールのような従来のチャネルに加え、顧客が日ごろから友人や家族とのやり取りに使っているメッセージングアプリのほか、自社のWebサイトやモバイルアプリ上のチャットやメッセージング機能も使えるようにする必要があります。
Zendeskでは、パンデミック以降、ソーシャルメッセージングチャネル経由のサポートチケット(問い合わせ)件数が大幅に増加しており、最新のデータによると、WhatsAppだけで101%の増加を記録しています。
顧客は既にメッセージング機能を使いこなしています。この流れに乗り遅れないようにしましょう。
顧客の詳細を把握する
新しいサポートチャネルを導入するにあたって、企業は顧客の情報を一元的に管理できるようにする必要があります。想像してみてください。ザ・リッツ・カールトンホテルやセルフリッジズ百貨店といった一流の老舗で、同じ日に再び訪れた長年の得意客がスタッフに名前を告げたところ、まるで一見客のような扱いを受けたとしたらどうでしょうか。
顧客ロイヤルティがかつてないほど重要となっている今、業務拡張により、パーソナライゼーションの質が損なわれることがあってはなりません。そこで活用したいのがデータです。
「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート」によると、顧客の71%が、問い合わせのたびに同じ説明を繰り返さなくて済むよう、企業は社内での連携や情報共有の強化に努めてほしいと考えています。
CXリーダーは、複数のチャネルの顧客データを包括的に確認できなくてはなりません。個々の顧客に関連性の高い情報を提供するだけでなく、顧客ベース全体、あるいはビジネス全体に見られる新たなトレンドや問題にも迅速に対応するためです。
カスタマーサービスチームがチケット対応に手間取っているようであれば、いくつかのソリューションを検証したうえで、サポート担当者と顧客にとって最も効果的なソリューションを実装するとよいでしょう。
会話型エクスペリエンスを提供する
顧客にとって使いやすいチャネルを導入し、複数のチャネルをまたいでシームレスなサポートが提供できるようになれば、真のパーソナライゼーションが可能になります。
しかし、パーソナライゼーションだけではまだ不十分です。相手が友人や家族であろうと、同僚であろうと、企業であろうと、良質なコミュニケーションに必要なのは、使用するチャネルやデバイスにかかわらず会話がスムーズに進むことです。
適切なツールを使えば、サポート担当者は、顧客とのあらゆるタッチポイントで真の会話型エクスペリエンスを提供することができます(前述のとおり、従業員も立派な「顧客」の一人であることをお忘れなく)。
サポート担当者と顧客がお互いをよく理解できるようになれば、親密で自然なコミュニケーションがとれるようになり、有意義な結果につながります。
目指すべきは「適切な対応」
「お客様こそ正義」というフレーズが顧客の共感や人気を得るためのスローガンになってから、既に1世紀以上が経ちました。
この100年で世界は大きく変化し、新しいテクノロジーが次々と生み出されましたが、CXリーダーが目指すべき目標はずっと変わりません。「顧客に寄り添って適切な対応をする」ことがすべてです。