米国はイリノイ州、シカゴ屈指の名店として名高いレストランのAlineaが、悪趣味な趣向で非難を浴びたのは2020年7月のことです。
非難の的となったのは、料理の味ではありません。問題は盛り付け方にありました。発端は、客の1人がSNS上で共有した、コロナウイルスをかたどったカナッペの写真でした。
<img class="lazyload no-src" alt="A tweet about Aline's COVID-themed dish" data-src="https://d1eipm3vz40hy0.cloudfront.net/images/blog/alinea-covid.png"ボール状に丸めたココナッツカスタードに赤いラズベリーで突起をつけ、ウイルスを再現したその料理に対して、何百人ものInstagramユーザーが怒りをあらわにしました。
レストラン側は激しい抗議の声に対し、これは「アート」であり、日頃からインパクトのあるメニューを提供しているのだと弁明しました。さらに、このメニューには「苦痛の表れ」として、スパイシーなカレー粉とカイエンペッパーが振りかかっているという説明まで付け加えました。この説明は火消しにはつながらず、他のシカゴの有名シェフたちも加勢したことで、Alineaは無神経かつ尊大な店だという印象が広まってしまいました。
この一流レストランが自己防衛に走ったのは自然な反応だったかもしれませんが、事態を鎮静化させるには不適切な対応だったと言わざるを得ません。同じような苦境に立たされた多くの企業のように、ソーシャルメディアクライシスを確実に乗り切るための戦略を活用すれば、もっと上手に批判をしのぐことができたでしょう。
ソーシャルメディアクライシスとは
予想外の事態がオンラインで拡散し、企業の評判や収益に悪影響を及ぼすことです。
こうしたいわゆる「炎上」は、SNS上で始まることもあれば、別の場で発生して、TwitterやFacebookなどのプラットフォームで広まる場合もあります。
炎上は、企業が物議を醸すような意思決定や発言を行った場合のほか、SNSに不適切または無配慮な投稿をした場合に起こります。さらには、何らかの理由によって顧客から否定的な意見が集中した場合も、炎上につながります。
騒ぎが大きくなると、その影響は多大なものとなり、否定的なコメントが数件集まるだけでは収束しません。実に多くの顧客から不興を買い、注目の話題としてトレンド入りしたり、メディアに取り上げられたり、時には株価の急降下につながったりすることもあります。
企業の規模が小さければ、炎上の規模も比較的小さく済む可能性がありますが、いずれにせよ、広報(PR)とSNSの担当者は火消しに駆け回らなくてはなりません
当然ながら、ソーシャルメディアクライシスは予想外に発生します。そして、Zendeskの広報担当シニアディレクターであるMarissa Treeによると、最近では大規模な炎上が起こるのも、それほど珍しいことではなくなってきています。
「何かが起こる前、予兆が一切ないという状況は非常にまれです。関係各所と協力し、危機が大事に至るのを防ぐことは、SNSやPRの担当者の仕事の一部です」
Zendesk、広報担当シニアディレクター、Marissa Tree
突然降って湧いたかに見える大きな災難も、実際には以前から問題の種が潜んでいたということも少なくありません。2017年、シカゴのオヘア国際空港で、ユナイテッド航空の飛行機でオーバーブッキングが起こった結果、乗客が力ずくで引きずり降ろされるという事件が発生し、それを捉えた動画はたくさんの人にショックを与えました。ところが、飛行機をよく利用している人の多くは、ショックとはまるで正反対の反応を示したのです。
Treeは次のように話します。「あの事件は、ユナイテッド航空にきわめて大きな危機をもたらし、それをきっかけとして、同社の経営方針やそれまでの顧客に対する姿勢も疑問視されるようになりました。こうした危機は、問題の一端でしかなかったというわけです」
大切なのは、危機がそもそも起こらないよう、未然に対策をとることです。ただし、たとえ危機が起こってしまっても、ダメージを軽減する方法はあります。
ソーシャルメディアクライシスに直面したときは
危機に直面した場合は、冷静かつ迅速に対処することが重要です。以下でご紹介する主な危機管理対策にいち早く取りかかりましょう。
予約投稿を漏れなく解除する
SNSで予約投稿を設定している場合は、直ちに設定を解除します。議論の渦中にあり、説明を求められている企業が、のんきに通常どおりのコンテンツを投稿していたら、神経を疑われてしまいます。
2018年、オレゴン州ポートランドのホテルDoubleTreeで、宿泊客の黒人男性がロビーで電話をしていただけで「徘徊者」として通報され、ホテルを追い出されるという事件が起こりました。この事件はホテルのボイコット運動へと発展し、当時Twitterでは「#boycottDoubleTree」がトレンド入りしました。ところが、事前に予約投稿を設定していたのでしょう、ホテルが事件後に最初に投稿したツイートは、ホリデーシーズンを祝うメッセージでした。このことは、世間の怒りをさらに煽る結果となります。ようやく謝罪メッセージが投稿されたときには、既にダメージを回復できるような状況ではありませんでした。
問題を確認し、状況がどれだけ深刻かを見極める
次の一手を講じるには、問題をしっかりと把握することが大切です。何が悪かったのかを理解し、どのくらい世間の怒りを買っているかを知る必要があります。たとえば、サービスの停止に対して不満の声が上がっている場合には、再開までに要する時間を確認し、顧客にそれを伝えなくてはなりません。
また、世間からどれくらい厳しい目を向けられているかを理解することで、適切なレベルの対策を講じることができます。問題を無視することはもってのほかですが、問題の解決にどのくらい注力すべきかは、主にどれだけ多くの人の注目を集めているかで変わってきます。
適切な対応を検討する
ミスには笑って済ませられるものと、真摯な謝罪が求められるような深刻なものとがあります。
特に害のない誤りを面白おかしく取り上げられているだけならば、自虐的なジョークで素直にミスを認めてしまうのも一案です。以前、米国赤十字社の職員が、ビールの購入に関するツイートを公式アカウントに誤って投稿してしまったことがありました。赤十字社はその後、誤送信したツイートを削除した旨を「例の物は没収しました」と冗談交じりに報告し、うまく幕引きを図っています。
一方、強い怒りをあらわにしたコメントが返ってきた場合は、もっと真面目な態度で誤りを認めた方がよいでしょう。2014年、冷凍ピザを販売するDiGiornoは、「#WhyIStayed You had pizza(一緒にいたのは、あなたのところにピザがあったから)」とツイートし、話題のハッシュタグを意図せず自社の宣伝に利用してしまいました。同社は、「#WhyIStayed」がDVに関するハッシュタグで、自分に暴力を振るうパートナーから離れられない理由を示すものだと知らなかったのです。この投稿への反発は強力かつ突然でした。DiGiornoは、すぐに真摯な謝罪のメッセージを投稿すると共に、追って公的な謝罪文も発表しています。
適切な対応を判断する際には、社内のだれかが代表してミスの責任を負うべきかどうかも考える必要があります。
Treeは次のように話します。「より人間味のある対応が求められている場合、企業の声を代弁すべき人物はだれになるでしょうか? 興味深いことに、多くのケースでは、CEOがブランド自身を体現する存在として扱われています」
突然の危機にもすぐに対処できるよう、声明文を用意しておく
非難を受けている企業がなかなか謝罪を表明しないこともありますが、これはPRやSNSの担当チームが悪いわけではありません。担当チームが迅速な処置を講じようとしても、他の関係者の承認がなければ動けないのです。
「多くのケースでは、炎上に対してアクションを起こすまでに時間がかかり過ぎです。これは、社内の重要な関係者からGOサインが下りるのを待っているためです。このため、危機や問題が発覚したときにすぐコメントを出せるよう、承認済みの声明文をあらかじめ用意しておくとよいでしょう」(Tree)
謝罪文やサービスの停止に対する注意喚起など、危機対応に備えた声明文のテンプレートを作成しておきましょう。そうすれば、不測の事態が起こってしまった場合でも、少なくとも早い段階から対処に乗り出せるため、ダメージを抑えられる可能性があります。
ソーシャルメディアクライシスを未然に防ぐには
ある問題が本格的な危機へと発展してしまうのは、多くの場合、収拾不能となる前に問題の芽を摘み取ることに失敗していたからです。必ずしもすべての危機を回避できるわけではありませんが、適切な対策を怠らなければ、多くの危機は阻止できます。
次に挙げる予防策を講じて、災難に見舞われるリスクを軽減しましょう。
SNSの運営方針を明確に定義する
早い段階でガイドラインを作成し、自社の各ブランドが運営するSNSのアカウントについて、それぞれの目的やトーンを決めておきましょう。
Treeによると、米国の家電量販店大手のBest Buyは、Twitterでブランドの公式アカウントとカスタマーサービスの専用アカウントを最初に分けた企業の1つです。同社のカスタマーサービス用アカウントのプロフィール欄には、担当者の名前やアカウントの運営時間が明記されていました。
「顧客が質問を投げかけたり、苦情を申し立てたりするための、カスタマーサービス用のチャネルであるということがはっきりわかるようになっていました。それに対して、ブランドの公式アカウントは、会社に関するニュースや最新情報を発信する場としてのみ機能していて、2つのアカウントは明確に使い分けられていました」(Tree)
SNSアカウントのトーンは、ブランドのペルソナに沿ったものにしなければなりません。陽気な印象を与えたい場合は、投稿もそれに沿ったトーンにするべきです。
また、他のユーザーとやり取りするときのルールを作成することも重要です。自社ブランドに関する投稿に対し、どのような場合にどうやってコメントを返すのか、決めておきましょう。
SNSでの投稿やキャンペーンを綿密にチェックする
不愉快なツイートの多くは、別の人間がチェックに入ることで、世に出るのを防ぐことができます。ブランドの公式アカウントの投稿に関しては、より慎重に2~4名に見てもらうと安心でしょう。
「社内でチェックを重ね、複数人から支持を得て、不適切な内容ではないとある程度自信を持ったうえで投稿に臨めなければなりません。社内のさまざまな関係者に内容を見てもらい、否定的な声がないかどうか確認しましょう」
Zendesk、広報担当シニアディレクター、Marissa Tree
チェックの体制をしっかりと整えておけば、多少の冒険にも思い切って飛び込めるようになります。
Treeはこう話します。「私が思うに、ソーシャルメディアクライシスを恐れる企業は、リスクを過度に回避しがちです。『十分な適正評価を行ったので、このキャンペーンは間違いなく成功します』と言い切るくらいの勢いで、時には危険を冒すことも大切です」
結果的に批判を受けてしまった場合は、否定的なコメントを検証して、配慮が足りなかった点を確認しましょう。そして、その後のSNSでの投稿やキャンペーンでは、チェック時にその点に特に気を付けるようにします。
ソーシャルリスニングツールを使ってフィードバックを収集する
危機の予兆をかなり早い段階で察知する方法があります。それは、ブランドへの否定的な投稿を(話題がトレンド入りする前に)見つけ出すことです。
「一部のソーシャルリスニングツールは非常に高度な機能を備えているため、SNSで話題の的となりそうなコンテンツや物議を醸しそうなコンテンツを特定するのに役立ちます」(Tree)
Sprout SocialやHootsuiteといったソーシャルリスニングツールは、自社のブランド、製品、競合他社、業界に関するSNS上のやり取りをモニタリングするうえで有効です。そうしたやり取りを分析することで、自社の製品の問題点、よく挙げられている不満、競合他社が選ばれている理由を明らかにできる可能性があります。
Sprout SocialとHootsuiteは、どちらもZendeskプラットフォームに統合でき、こうしたツールを使うと、カスタマーサービスチームがSNSユーザーとスムーズにやり取りできるようになります。いずれを統合した場合も、FacebookやTwitter(「Twicket」)などのSNS上で、顧客が直接サポートチケット(問い合わせ)を作成できるようになります。
たとえば、製品が動かない、または製品を返品したいといった不満を漏らすユーザーを見つけた場合も、その投稿をすばやくチケット化し、カスタマーサービスチームに転送することができます。
早いうちにより多くの問題を解消できれば、深刻な危機へと発展する可能性も低くなるでしょう。
抜かりないモニタリングでソーシャルメディアクライシスを防止
ソーシャルメディアクライシスの多くは、注意不足による「凡ミス」に分類できるでしょう。一方で、危機の発生をまったく予測できなかったり、事前に察知するのが難しかったりするケースもあります。しかし、常に抜かりなくSNSをモニタリングしていれば、自社ブランドに向けられている世間の感情を的確につかめるようになります。
さらに、SNSでの質問やクレームにうまく対処できるよう、カスタマーサービスチームへの支援を強化することも大切です。Zendeskを導入すると、TwitterやFacebookなどのSNSチャネルで、サポート担当者が随時、顧客と新たに会話を始めたり、前回の続きから会話を再開したりできるようになります。また、SproutやHootsuiteといったソーシャルリスニングツールを統合することもできるため、SNSの担当マネージャーは必要に応じて、SNS上の投稿をチケット化し、担当者と共有できるようになります。
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