何か問題が起こったとき、顧客はすぐにでも解決したいと考えるものです。実際、顧客の73%が、数ある優先事項の中で最も重視しているのは「迅速な解決」だとしています。企業はこの点に配慮すべきです。なぜなら、優れたカスタマーエクスペリエンスは、顧客のロイヤルティや支出額を押し上げる重要な要因となってきているからです。
問題解決をスピードアップするには、概してリソースの増強が必要になります。しかし、小規模な企業だと、サポート担当者の増員やテクノロジーの導入は簡単にできることではありません。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響も相まって、これはいっそう困難となっています。
小規模なカスタマーサービスチームに寄せられた問い合わせの数は、昨年一年で世界的に平均17%増加しました。世界各地で実施されたロックダウンの影響を最も大きく受けた業界(食料品や日用品の配送、eコマース、ビデオ会議プラットフォームなどを扱う業界)では、それよりもさらに高い増加率となっています。同時に、小規模企業の経営者の約4分の1が、パンデミック以降にカスタマーサービスチームへの投資を強化したと解答しています。
小規模なカスタマーサービスチームに寄せられた問い合わせの数は、昨年一年で世界的に平均17%増加しました。
そうした中でも、Zendeskを導入している小規模企業の3分の1は、昨年に顧客から寄せられた問題の解決時間をスピードアップすることに成功しました。このグループでは、2020年にサポートチケットの数が61%急増したにもかかわらず、解決時間が51%も短縮されていたのです。
どのようにしてこうした偉業が達成されたのでしょうか。それを理解するため、今回詳しく掘り下げたのがZendeskのベンチマーク調査です。この調査では、Zendeskを使用してサポート業務を強化している数千社の企業の主要な指標が追跡されています。
調査結果では、以下のようなことが明らかになりました。
- 効率化を実現した小規模企業は、すべてのチャネルで解決時間の短縮に成功
- 小さな効率化の積み重ねが大きな差に
- 小規模企業はヘルプセンターを積極的に活用
- データの可視化が進んでいる企業ほど、目標を上回る成果を達成
効率化を実現した小規模企業は、すべてのチャネルで解決時間の短縮に成功
結論から言うと、小規模企業において、特定のチャネルでの対応の効率化が迅速な問題解決の決め手となったわけではありませんでした。解決時間を短縮できたかどうかにかかわらず、全体的に小規模企業は、SNSやチャットなどのさまざまなチャネルに対応しているようです。そうした中で、効率化を実現した企業では、すべてのチャネルで解決時間が短縮されており、中にはかなりの短縮が見られたチャネルもありました。
電話での問い合わせでは、解決時間が86%短くなっています。また、SNSアプリ経由だと、問い合わせの件数が120%増加したにもかかわらず、顧客の待ち時間は54%短縮されています。
特に注目すべきは以下の点です。
メールやWebフォームの利用率が上昇
この1年で効率化を実現した小規模企業では、ほぼ例外なく、サポートチャネルとしてメールまたはWebフォームを活用しており、チケット件数が54%以上増えたのに対して、解決時間も同程度の短縮に成功しています。一方で、その他の小規模企業では、チケット件数の増加がわずか5%だったにもかかわらず、顧客の待ち時間が32%増加しています。電話での対応は減少傾向
効率化に成功した小規模企業では、電話サポートの利用率が高くありません。これは納得のいく結果です。電話サポートの場合、担当者は一度に1件の問題にしか対処できません。同時に複数の顧客の相手をし、いくつもの通話を行き来するといった対応は不可能です。また、電話を保留にしたり、適切な担当者や部署に引き継いだりする必要があると、顧客の待ち時間がどんどん膨れ上がっていきます。
小さな効率化の積み重ねが大きな差に
時に、小さな取り組みが非常に大きな効果をもたらすことがあります。解決時間の短縮に関して言うと、マクロ、トリガー、自動化などのツールを使用して小さな効率化を積み重ねることが、後になって効いてきます。チケット件数が増加しても顧客にすばやく対応していた小規模企業では、そうでない小規模企業に比べて、以下のような傾向が見られました。
42%速いペースでトリガーを追加
13%速いペースで自動化を追加
4%速いペースでマクロを追加
マクロ、トリガ、自動化とは
マクロ
マクロとは、チケットの作成や更新(チケットフィールドの更新、担当者の割り当ての変更、コメントの追加、添付ファイルの追加など)の際に適用される、事前に用意された回答やアクションのことです。マクロを使用すれば、同じ問題を抱える顧客が複数いたときにゼロから回答を作成したり、対応を検討したりする必要がなく、担当者の時間と労力を節約できます。
トリガ
トリガとは、チケットの作成や更新の際に特定の条件に合致すると自動的に実行される、あらかじめ定義したビジネスルールのことです。これにより、たとえば不在時に顧客にその旨を通知したり、顧客満足度アンケートのフォローアップメールを送信したりできます。さらには、チケットを適切な担当者に割り当てたり、特定の問題をエスカレートしたり、優先度の高い顧客を専門のチームに転送したりすることも可能です。
自動化
自動化はトリガと似ていますが、チケットの作成時や更新時だけに限らず、一定の時間間隔で実行されるように設定できます。自動化は、未解決や未割り当てのチケットを追跡し、取りこぼしをなくすうえで役立ちます。たとえば、チケットが未解決のままになっている担当者に対し、1時間おきにリマインダーを設定したり、一定の時間が経過しても新しいチケットが未割り当ての場合には、マネージャーに同様の通知を設定したりできます。
2020年、患者エンゲージメントプラットフォームを提供しているLuma Healthは、ビジネスの成長に伴うニーズの拡大に対応するため、サポート業務のインフラストラクチャーを刷新しました。「お客様が最も必要としているのは、すぐに助けてもらえるという安心感です」と、Luma HealthのリードテクニカルサポートエンジニアであるLeo Magalhaes氏は言います。
同社は解決時間の改善に向けて、ワークフローの変更、自動化の拡充、コミュニティフォーラムの立ち上げを行いました。Magalhaes氏は次のように話します。「たとえば、Slackを使ってエスカレーションプロセスを自動化したことで、チケットを以前より早く解決できるようになりました。チケットがあちこちたらい回しにされることもなくなりました」
解決時間を短縮した小規模企業の78%では、サポート担当者が前年よりも多くのチケット(それ以外の小規模企業の2倍以上)を処理していました。
サポート業務のワークフローから手動での繰り返しのタスクをなくすと、生産性を大きく向上できます。事実、解決時間を短縮した小規模企業の78%では、サポート担当者が前年よりも多くのチケット(それ以外の小規模企業の2倍以上)を処理していました。
チームのアジリティを高めて効率を押し上げる
効率化をもたらすのは、AIや自動化に限りません。
2020年に解決時間の短縮に成功した小規模企業では、マルチワーカーならぬ、複数のチャネルにわたって顧客対応を行う担当者の活躍の機会が増えました。そうした企業では、他の小規模企業と比べて、マルチワーカーの担当者が平均58%速いペースで増加しています。
これは大切なことです。サポートチャネルの選択肢が増えるにつれ、顧客のニーズの変化に合わせて、複数のチャネルを切り替えて対応できる担当者を配置することが、ますます重要になってきているからです。
小規模企業はヘルプセンターを積極的に活用
顧客の問題をすばやく解決するうえで、セルフサービス型のサポートは重要な役割を果たしています。一つに、セルフサービスで問題が解決されれば、チケットが発行されることはありません。また、対応待ちのチケットが減れば、サポート担当者は別の顧客からの問い合わせにすばやく対応できるうえ、もっと重大で複雑な問題に専念できます。
2020年に待ち時間を短縮した小規模企業では、自社のヘルプセンターに速やかにコンテンツを追加しただけでなく、非常にスピーディに顧客を関連性の高い記事に誘導していました。顧客とのやり取りの中でヘルプセンターへのリンクを提示した回数についても、昨年は21%増加しています。これは、問題解決をスピードアップできなかった小規模企業に比べて75%速い増加ペースです。
データの可視化が進んでいる企業ほど、目標を上回る成果を達成
さらなる効率化を目指すには、全体のチケット件数、未解決のチケット、サポート担当者の効率性などの重要な指標を追跡できるツールがあると、目標の設定や達成がしやすくなります。2020年に効率化を実現した小規模企業では、ダッシュボードを使ってパフォーマンスを追跡している割合が11%高い傾向にありました。
さらに、そうした小規模企業では、ダッシュボードを社内で広く共有しているのが特徴的です。2020年は、ダッシュボードの共有率が、効率化を達成できなかった小規模企業に比べて、12%速いペースで増加していました。
「ダッシュボードによって、お客様から寄せられるさまざまな種類のチケットを俯瞰的に見ることができ、非常に役立っています。おかげで、オペレーションチーム全体が次に何に注力すべきかを判断できるようになりました」In Good Taste、共同創業者兼CRO、Zack Feinberg氏
このようなダッシュボードを活用した戦略で成功を収めているのが、ワイン卸売業者のIn Good Tasteです。同社はパンデミックが発生して間もなく、消費者向けのオンライン小売事業に即座に舵を切りました。「当初、eコマースは生き延びるための一時的な方策にすぎませんでした」と、共同創業者兼CROのZach Feinberg氏は振り返っています。それから1か月ほどで、同社の未解決チケットの件数は、0件から3,000件にまで膨れ上がりました。
「ダッシュボードによって、お客様から寄せられるさまざまな種類のチケットを俯瞰的に見ることができ、非常に役立っています。おかげで、オペレーションチーム全体が次に何に注力すべきかを判断できるようになりました」(Feinberg氏)
スマートなサポート業務を実現するには
顧客に迅速に回答できないのは、業務環境に問題があるだけという可能性もあります。カスタマーサービスチームの業務を停滞させている要因を見つけて取り除くには、まず以下の点に対処する必要があります。
ワンタッチチケットについて調査する
1回の返信で簡単に解決できるワンタッチチケットの占める割合が高い場合は、時間の節約になる自動化機能を導入したり、ヘルプセンターのコンテンツを作成したりすると、担当者の負担を軽減できる可能性があります。まずはワンタッチチケットの質問や問題の内容を洗い出したうえで、マクロやトリガーを利用したり、ヘルプセンターのコンテンツを追加したりすることで、こうしたチケットを処理できないかどうかを検討してみましょう。
ヘルプセンターによくある質問に関する記事を追加する
クローゼットを整理するのと同じように、ヘルプセンターもときどきは見直す必要があります。記事の中には、長期間鮮度が落ちないものもあれば、そうでないものもあります。そこで一つ検討したいのが、担当者が何度も対応している質問がないかどうかを調べることです。そうした質問は、ヘルプセンターに記事を適切に配置することで簡単に解決できる可能性があります。そうすれば、担当者と顧客の貴重な時間を節約できます。
担当者から話を聞く
業務の流れの一部始終をだれよりも理解しているのは、サポート担当者です。実際に現場に立つ担当者と話せば、サポート業務を改善する方法について的確なヒントを得られます。もっと効率を上げられるプロセスがないかどうかや、ヘルプセンターのコンテンツによってチケット削減率をどのように改善すればよいかが見えてくれるかも知れません。
顧客への応答をスピードアップするうえで、現状の対応方法を全面的に見直す必要はありません。チケットの優先順位付けや処理方法をほんの少し変更するだけでも、非常に大きな効果を生み出せる可能性があります。