ひとまず、これまでのカスタマーサービスの常識は忘れてください。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、企業と顧客のかかわり方は、わずか数か月のうちに一変しました。皆さんの手元には、これまで顧客として利用したことのあるほぼすべての企業から、連絡が届いていることでしょう。大学生のころに通っていたヘアサロンや、お父さんへのプレゼントにバーベキューグリルを購入したオンラインストアなど、すっかり忘れていた企業からも次々とメールが送られてきます。ずらっと並んだ件名はどれも非常にフランクで、まるで友人が身を案じて連絡をくれたかのようです。
しかし、変化したのは企業からのメッセージだけではありません。私たちは力を合わせて、この新しい現実に立ち向かう必要があります。現在、COVID-19の影響で通常どおりに業務が回らなくなり、配送のキャンセルや遅延が発生したり、顧客が新しい製品やサービスを使いこなすのに苦労したりしています。その結果、企業のサポート窓口への問い合わせが殺到し、待ち時間が増えていることから、顧客は従来の電話やメール以外のサポートチャネルを利用して、すばやく答えを見つけ出そうとしています。
こうした顧客行動の変化を踏まえ、企業は、顧客のニーズを把握し対応する方法についても改めて考えなくてはなりません。この変化は、世界的な危機に一時的に影響されたものに過ぎないのでしょうか。それともカスタマーサービスの大転換期の訪れを意味しているのでしょうか。そして、不確かな将来に備えてサポートチームは今何ができるでしょうか。この状況の変化が世界中の企業に及ぼす影響を把握するべく、Zendeskでは、サポート業務に当社製品を利用しているお客様のうち、ベンチマーク調査に参加した23,000社のデータを基に調査を実施しました。
「普段よりも問い合わせ件数が増加しています」
ウイルスの流行が続く中で、業種や規模、地域を問わずあらゆる企業が影響を受け、世界中でチケット数が急増しています。全世界で見ると、1週間あたりのサポートリクエスト数は昨年比で24%増加しました。
この傾向は、食料品、通信、エンターテインメントといったパンデミック中にも不可欠な業界で特に顕著です。オンデマンドの食料品配達サービスのチケット数は133%増加し、リモートワークおよびリモート学習プラットフォーム(85%)、ゲーム会社(66%)、宅配(フードデリバリー)サービス(33%)でもリクエスト数が増加しました。たとえば、食料品配達サービス「Instacart」では、政府の指針に従って多くの人々が外出を自粛した期間中、売上が 4倍以上になったと報じられています。
企業が日常業務の急激な変化に対応する中、チケット数の急増によってサポートチームの負担はさらに増大しています。多くのサポート担当者は、業務の流れが一変し、初めての在宅勤務に手探りで挑戦している状況にもかかわらず、かつてないほどの膨大な量のチケットを処理するよう迫られています。顧客が求めるレベルのカスタマーサービスを提供し続けるために、平常時であれば数か月あるいは数年かかるはずの変革が、たった数日のうちに行われているのです。
チャットの需要が拡大
この危機的状況において、電話やメールといった従来のサポートチャネルにはリクエストが殺到し、待ち時間が長引いているため、すばやく回答が欲しい顧客は対応の遅さに不満を感じています。その結果、顧客は問題を解決するためにWhatsApp、チャット、テキストメッセージを利用するようになりました。2月の最終週以降、WhatsAppの利用率は101%増加し、次いでチャット(+34%)、SNS(+30%)と続きます。
一方で、自力で解決を試みる顧客も増えています。同期間中、オンラインヘルプセンター(FAQサイト)へのアクセスは65%増加しました。しかも、ほとんどの業界では、ヘルプセンターへのアクセスの増加率がチケット数の増加率を上回っており、企業にとってはチケットが作成される前に顧客の疑問を解決することの重要性がうかがえます。
ゲーマーに人気の無料の音声、ビデオ、チャットサービス「Discord」では、利用率が300%増加しました。オンラインの読書会、授業、会議を開催するための利用が広がったのです。利用者数が拡大しても、強力なヘルプセンターが用意されていたため、サポートトラフィックの急増を抑えることができました。2月から3月にかけて、ページ閲覧数は70%増加し、ユニーク訪問者数は2倍以上に達した一方、チケット削減率は10ポイント上昇しました。
AIを搭載したチャットボットも活躍しています。食事の定期宅配サービスを展開している「Freshly」では、自社Webサイトの役立つ情報を顧客に案内するチャットボットを導入して以来、1週間あたりのチケット数が2,200件ほど減少しました。Freshlyのカスタマーエクスペリエンス担当ディレクター、Dan Medina氏は次のように述べています。「チャットボットを導入したおかげで、労力を大幅に削減できました。特に、調べ方がわからない、検索に時間をとられたくないといったお客様から頻繁に寄せられる質問に対し、大きな成果を上げています」
未来がここに
この数か月で顧客の行動は急激に変化しました。しかし、こういった変化は今に始まったものではありません。『Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020』によると、メッセージアプリやチャットなどのチャネルは若い世代から人気を集めており、18~24歳の回答者の17%が企業への問い合わせにソーシャルメッセージアプリを使用したことがあると答えています。同レポートは、感染拡大の前に公開されたものですが、顧客の69%がセルフサービスを利用したいと回答した一方で、ヘルプセンター、ナレッジベース、FAQページを提供している企業は全体の3分の1未満でした。
電話やメールによるサポートを廃止するべきとは言いません。この2つのチャネルは依然として多くの顧客から支持されています。しかし、コロナ危機の前から、既に多くの企業でセルフサービスやAIボット(今後1年間の予測成長率120%)、チャット(65%)、メッセージアプリ(65%)の拡充が計画されていました。
今後の展望:顧客ニーズの変化に対応できるよう体制の強化を
ベンチマーク調査に参加した企業の約15%は、他の企業よりも効率的にチケットを解決しています。その主な理由は、いち早く既存のサポートシステムを変更したためです。メッセージアプリやチャットといった新たに人気を集めているチャネルへの拡充を検討しているだけでなく、既存のリソースを最も需要の多い場所に再配分しているのです。
将来を見据えるうえで、企業にとって1つ明らかなことがあります。それは、顧客が助けを求めているときに、顧客が使用しているチャネルを通じて、サポートを提供できる体制を整える必要があるということです。