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スタートアップ企業がCXを重視すべき理由
Zendeskのベンチマーク調査によると、成功しているスタートアップ企業ほど、立ち上げ時期にカスタマーエクスペリエンス(CX)により多くの費用を投入し、成長をいち早く加速させています。この記事では、スタートアップ企業に向けたCX向上のヒントを解説します。
更新日: 2023年1月5日
どのようなスタートアップ企業も大きく成長することを夢見るものですが、お手本となる企業がいくつあっても、何が成功の決め手になるのかを正しく理解することは簡単ではありません。
一方でひとつ明白になっていることがあります。Zendeskで4000社以上のスタートアップ企業を対象にベンチマーク調査を実施したところ、スタートアップ企業の成功は、カスタマーエクスペリエンスへの投資と相関関係にあることが分りました。
Forbes社が選ぶクラウド企業100社の中のテックスタートアップ企業の75%以上がZendeskを採用している理由も、この点にあると推察します。
これらの企業では、ビジネスアイデアとベンチャーキャピタルがいくら優れていて潤沢でも、それだけでは起業初期の成長を持続できないことを認識しています。たとえグローバルで成功を収める企業になれたとしても、顧客層を維持できなければ、あまり意味はありません。顧客体験の質を高めるための取り組みが、企業にとって非常に大切になるのはこのためです。
成功したスタートアップ企業では、どのようにして顧客の満足度を保ち続けているのでしょうか?そのヒントは下記の通りです。
成功したスタートアップ企業による
CXへの取り組み
1. 起業初年度にCXプラットフォームを導入
Zendeskのベンチマーク調査では、スタートアップ企業の成功度合を、社員数の増加と資金調達の間隔に基づいて評価しました。成功している企業の場合、起業から1年以内にCXプラットフォームを導入する傾向が33%高いことが明らかになりました。
スタートアップ企業にとってCXソリューションの選択は困難な課題かもしれません。特に顧客とどのようにやり取りをすべきか、企業としての方向性を定めなければならない場合はなおさらで、この決定は企業の明暗を分けることもあるほど重要なものです。
それでは、プラットフォームを選択する際にどのようなことを検討する必要があるのでしょうか?調査対象となったスタートアップ企業では、検討すべき重要な点として、以下を挙げています。
最も重要視されていた点は価格と使いやすさでした。興味深いことに、オムニチャネルのサポートといった、急成長を遂げるスタートアップ企業に関連付けられる要素の多くは、それほど重要視されていませんでした。
しかしこれは、顧客が最も大きな恩恵を享受するコミュニケーション機能です。顧客は企業とのやりとりにも、普段から利用しているコミュニケーションチャネルを使うことを望んでいます。スタートアップ企業が真のオムニチャネル体験を提供できるようになれば、顧客はいつでも容易に問い合わせられるようになるため、顧客の信頼を得やすくなります。
さらに、企業として顧客のニーズを第一に考えて取り組めば利益につながると、調査データが示唆しています。ゼロからの起業で、キャッシュフローが心配になることは理解できます。財源や人員数は限られていますが、達成したいことは山のようにあります。しかし、努力の末にようやく獲得した初期の顧客を維持するために資金を投入することは、企業にとって価値のある投資です。
価格だけを見て決める前に、顧客のことを考えて顧客のニーズを満たすために手を尽くすことを推奨します。
2. 顧客自身で問題を解決できる環境を整備
成功しているスタートアップ企業では、早い段階でセルフサービス型のサポート環境を提供し、ヘルプセンターを急拡大させています。評価額が10億ドルを超える未上場のユニコーン企業の場合は、さらに急速にオンラインのヘルプセンターを構築し、他のスタートアップ企業よりも61%速いペースでセルフサービス型のサポート環境を開設しています。
成長速度の遅いスタートアップ企業と比較した場合に、急成長するスタートアップ企業ほど、最初の18か月間に新たに追加したヘルプ記事の数が多いことも注目すべき点です。
ヘルプ記事の書き方 📝
Wセルフサービス型のヘルプセンターは、顧客の状況を確認しながら構築していく必要があります。カスタマーサービスへの問い合わせが多い質問に注力し、そのトピックを中心にヘルプ記事を作成していくようにします。
ヘルプ記事は、できるだけ顧客がよく使っている言葉や検索しそうな言葉を選んで、記事を書くことをお勧めします。
どう作成したらよいかわからない場合は、こちらの基本テンプレートをご覧ください。
スタートアップ企業の場合、CXへの初期投資にセルフサービス型のサポート環境を含めることは道理にかなっています。ヘルプセンターがあれば、顧客は自分で解決策を見つけることができるため、サポート担当者が対応しなければならない問い合わせ件数を減らすことができます。セルフサービス型のサポートを介して実用的な情報を顧客に提供ができれば、サポート部門は、より緊急性が高く優先すべき問題に重点的に取り組めるようになります。
もう一つ考慮すべき重要な事実があります。それは、顧客は自分自身で問題を解決したいと考えており、他の方法よりもセルフサービス型のサポートを好む人も少なくないという点です。実際、顧客の76%は電話で問い合わせるよりも、オンラインヘルプセンターを利用することが多いという調査結果が出ています。
3. 顧客とリアルタイムで会話
成功しているスタートアップ企業では、起業から2年以内にチャット機能を追加する傾向が20%高いという調査結果が出ています。チャットや電話といったライブチャネルを使えば、タイムラグが発生するメールなどのチャネルよりも迅速に顧客の問題を解決できます。
財源や人員数が限られている場合は、一気に全面的に導入するのではなく、徐々に導入していくことをお勧めします。資金を調達してから1年以内にチャットを導入することを目標にしたうえで、顧客の好みに応じてチャネルを増やしていくというアプローチもあります。
いずれにしても、ベンチャーキャピタル会社のFloodgateでパートナーを務めるArjun Chopra氏が指摘しているように、どのチャネルを選択しても、顧客が容易にサポート担当者と話せるような環境を整える必要があります。
顧客のニーズに応えるために全社的な体制を設けない企業は、解約率や離反率が高くなってしまうことを覚悟しておくべきでしょう。
「企業は、顧客とのやりとりを複数のチャネルでシームレスに継続できる環境を整備したうえで、製品を使用している顧客から発生するニーズの内容を予測しながら、効果的なサポート体制を整える必要があります。顧客のニーズに応えるために全社的な体制を設けない企業は、解約率や離反率が高くなることを覚悟しておくべきでしょう」とArjun Chopra氏は述べています。
新型コロナウイルスに関するベンチマークデータにも、「ステイホーム」の影響でライブチャネルの利用者数が増えており、特にチャットとSNSのメッセージ機能の利用に増加傾向がみられることも注目に値します。今回のパンデミックで、変化する顧客のニーズに合わせてカスタマイズできる柔軟なソリューションを採用することの重要性が再認識されました。
これを教訓として、次に大きな変化が起こった時のために、企業として顧客のニーズや希望に対応できる備えをしておく必要があります。
4. 賢い働き方で業務を効率化
起業初期にサポート用ソフトウェアを導入するだけでは十分とは言えません。今回のベンチマーク調査では、成長が著しいスタートアップ企業ほど、より多くのツールを導入して業務の効率化を図っていることが判明しました。例えば、チケットの入力フォームを介した顧客データの収集、受信した問い合わせに優先順位付けをするためのビューの開発、業務フローの自動化などによる効率化です。
急成長を遂げた小規模なスタートアップ企業は、メールの自動化、トリガ、返信テンプレートなど、業務フローを効率化する機能を、成長速度が緩やかな企業と比較して2.8倍も多く導入しています。
メール業務の効率化の詳細については、以下のチュートリアル動画をご覧ください。
Zendeskのベンチマークによると、少なくとも毎月2~3個の業務フロー効率化の機能を追加し、サポートプラットフォームの導入から2年以内に60個以上の業務フロー効率化機能を設定する必要があると調査結果が出ています。
成功しているスタートアップ企業では、ソフトウェア間を統合連携させて、サポート担当者が重要なデータにアクセスしやすくしている傾向があります。スタートアップ企業に人気の高いソフトウェアは、ZendeskのKnowledge Captureアプリや、JIRA、Slackなどです。
5. より迅速に顧客に対応
興味深いことに、起業初期のスタートアップ企業は、急成長中であるかどうかに関係なく、問い合わせをした顧客の待ち時間はほぼ同程度でした。ところが起業から2年後には、急成長を遂げた企業は、成長速度の遅い企業と比べて2倍の速さで顧客の問題を解決していることがわかりました。初回の応答時間も、問い合わせに対する回答までの待ち時間も、どちらも短くなっています。
起業初期には、メールのようなタイムラグのあるチャネルを介した問い合わせには3時間ほどで返信することを目標にし、サポートプラットフォームを導入してから2年目には、チケットが発行されてから1営業日(8.4時間)以内に問い合わせを解決することを目指すようにしましょう。
だからといって、サポート担当者数を増やしたり、サポート担当者への期待値を非常に高く設定したりする必要はありません。上記で説明した業務フロー効率化機能のような改善策を用いれば、サポート担当者の勤務時間を延長することなく、より多くの件数の問い合わせを処理しやすくなります。
将来的には、サポート部門にとって重要なKPIはスピードであることを念頭に置いておく必要はありますが、スピードを速めるために顧客体験の質や、サポート担当者の業務の満足度を犠牲にするようなことがあってはなりません。
魔法ではなくCX
ユニコーン企業になれるかどうかは、魔法の切り札にかかっているわけではなく、いかに素晴らしい顧客体験を生み出せるかにかかっています。顧客が企業に問い合わせる際に希望するチャネルを利用できるようにして、データに基づき顧客の体験をパーソナライズしながら、より迅速にサービスを提供できるようにプラットフォームを最適化すれば、面倒なプロセスにうんざりさせられている顧客にとっては、ひときわ高い満足度を得る機会となります。
スタートアップ企業がCX戦略を策定する際には、顧客第一を念頭に置くことで、企業成長の促進につながります。