顧客は変化しています。それと同時に、顧客がカスタマーエクスペリエンスに何を求めるかも様変わりしています。顧客の期待が変われば、それに応じて企業も変わる必要があります。また、カスタマーエクスペリエンスに対するアプローチも変えていかなければなりません。
かつては、データを活用したパーソナライゼーション(個別化)とチャットボットが、顧客とのやりとりに使用される主な方法でした。今日の顧客が求めているのは、それとは大きく異なるアプローチです。企業には、「情報へのアクセス」と「解決のスピード」という2つの条件を満たした対応が求められています。しかも、どのチャネルでどの部門とやりとりする場合も、顧客は自分に共鳴する体験を望んでいます。
カスタマーエクスペリエンスに統一性を持たせる
顧客は様々なチャネルと方法で企業に接します。携帯アプリを使うこともあれば、カスタマーサービスに電話で問い合わせることもあるでしょう。さらに、マーケティングや営業、SNSなどを通じて企業に接することもあります。顧客にとっては、どの方法でどの部門とやりとりしている場合も、すべて同じ企業とのやりとりです。つまり、企業には、社内で必要な連携を取りながら顧客に対応することが期待されています。
時間が経つにつれ、カスタマーエクスペリエンスの継続性が失われ、バラバラなやりとりの寄せ集めになってしまうことは珍しいことではありません。顧客ロイヤルティプログラムやサポート契約で企業との接点があったとしても、それくらいしか関わりのない顧客もいます。規制やコンプライアンス、プライバシーのために、顧客が単なる番号になってしまう可能性すらあります。しかし、顧客からすると、タッチポイントが変わっても、それを体験するのは同じ人です。企業として、この点を認識しておくことは大切です。
顧客が求めているのは、カスタマージャーニー全体にわたるシームレスな体験です。カスタマージャーニーは、顧客ごとに異なる場合もあります。あるやりとりで顧客から得た情報は、次のカスタマーエクスペリエンスにも引き継がれる必要があります。断片化された旧来のシステムでは間に合わないため、企業は一貫性のあるアプローチを採用する必要があります。
断片化された旧来のシステムでは間に合わないため、企業は一貫性のあるアプローチを採用する必要があります。
一貫性のあるアプローチは、複数のチャネルで顧客をサポートできなければ実現しません。例えば、顧客が最初にチャットボットを利用した後で、サポート担当者と話をして、その後でメールでフォローアップを受け取るといった流れになることもあります。その間ずっと、顧客についての情報と問い合わせ内容を引き継ぎながら、解決に向けて対応する必要があります。
情報へのアクセス
顧客やサポート担当者は、やりとりに使用しているシステムで、関連する情報にいつでもアクセスできる必要があります。簡単にできることのように思えるかもしれませんが、いざ実現するとなると、いくつものシステムを随所で統合しなければならない企業が多いのが実情です。シームレスあるいはスピーディーに達成できることは、めったにありません。
チャットボットは、顧客が企業に問い合わせる時によく使われる方法です。機械学習と自動化が活用されているため、よくある質問を迅速に解決できるという利点があります。その一方で、チャットボットは顧客の質問に的確に対応できるようにプログラムされているでしょうか?
あるいは、チャットボットでは答えられない質問があった時には、システム側で自動的にその状態を認識して、それ以降の会話をサポート担当者に引き継ぐことができるようになっているでしょうか?すべての関係者が顧客情報を確認しながら業務にあたり、必要に応じて追加の情報にもアクセスできるようになっているでしょうか?
これらの課題を解決してくれるのが統合システムです。カスタマージャーニーが反映された、オムニチャネル対応の統合システムがあれば、企業はチャットボットなどによる自動化を容易に活用でき、顧客は回り道をしなくてもサポート担当者と話せるようになります。 顧客、サポート担当者、企業など、情報を必要とするすべての人がその情報にアクセスできる環境が整います。
解決のスピード
「情報へのアクセス」も大切ですが、「解決のスピード」を忘れることはできません。顧客は、問題や課題の一刻も早い解決を企業に期待しています。ところが、皮肉にも、テクノロジーがその妨げになることが少なくありません。
例えば、Webサイトが遅い場合はもとより、検索機能や自動音声応答装置(IVR)、電話転送システム、条件応答のチャットボットに不備がある場合など、テクノロジーのために問題が悪化する例は数え切れないほどあります。
電話転送システムで提示されたオプションを選択しながら進んでいっても、最後には問い合わせ内容に一致する選択肢がなくなってしまったことが一度や二度ではない、という人もいるはずです。あるいは、チャットボットとやりとしりている時に、問い合わせ内容を正しく理解してもらえなかったこともあるのではないでしょうか。
これらはほんの一部の例にすぎませんが、こうした苛立ちの募る体験には誰もが共感できるはずです。嫌な思いをした顧客は簡単に競合他社に切り替えることができます。解決スピードに優先的に取り組めば、こうした事態を回避しやすくなります。
嫌な思いをした顧客は簡単に競合他社に切り替えることができます。解決スピードに優先的に取り組めば、こうした事態を回避しやすくなります。
最新のカスタマーエンゲージメントシステムの重要性はこの点にあります。つぎはぎだらけの過去のシステムとは異なり、カスタマーエクスペリエンスを出発点にして、そこから業務を進めることができます。その際には、顧客第一の姿勢を保ちながら、顧客が望む方法でその問題を解決するのに適した社内のシステムを利用して、顧客に対応できます。
時代に即したカスタマーエクスペリエンスへのアプローチを、顧客の視点を考慮した確実なプロセスと組み合わせることの効果は絶大です。顧客の好みのチャネルを統合して、いつでも情報にアクセスできるようにしながら、顧客中心主義を採用すれば、確実に顧客に満足してもらえるようになります。カスタマーエクスペリエンスは企業が他社と差別化を図るうえで重要な役割を担います。よりよいカスタマーエクスペリエンスを提供できれば、顧客は長く支援し続けてくれ、さらには口コミでよい評判を紹介してくれるようになります
筆者について
AVOA CIO戦略アドバイザー Tim M. Crawford
Tim Crawfordは「影響力の大きいCIOランキング」の上位に名を連ねています。また、Wall Street Journal、CIO.com、Forbes、SiliconAngle、TechTargetにも頻繁に取り上げられています。金融サービス、ヘルスケア、大手航空会社、ハイテクなど、多数の業界の大手グローバル企業をクライアントに抱え、戦略的CIO、エグゼクティブ・コーチ、およびアドバイザーとして活躍しています。テクノロジーを戦略的に活用することで、他社との差別化を図り、企業を変革へと導く役割を担うほか、ビジネスとテクノロジーの接点で、先見性がありながら現実的なアプローチを取っています。
Tim Crawfordは、Konica Minolta/ All Covered、Stanford University、Knight-Ridder、Philips Electronics、National Semiconductorなど、世界に名をはせた企業や大学で、CIOなど、ITの上級職を歴任してきました。現在は、Latent AIの役員アドバイザーと、Wall Street JournalのCIOネットワークのメンバーを努めているほか、ポッドキャスト『CIO In The Know』と『CxO In The Know』のホストも務めています。毎週配信されるこのポッドキャストでは、CIOや経営幹部にインタビューを行い、各社が現在直面している最も重要な課題について意見を交わします。
Golden Gate University Ageno School of Business 国際ビジネス経営学修士課程(MBA)優等修了
Golden Gate University コンピュータ情報システム学部卒業