年末年始は旅行シーズンです。2019年から2020年にかけての年末年始も、11月の時点で記録的なホリデーシーズンになることが予測されていました(米国運輸保安庁の予測では、感謝祭から年末年始までの間に米国全土で何千万もの人が旅行に出かけ、クリスマスシーズンだけでも4,100万人以上もの旅行客が州境を越えて移動するという見込みが出されていました)。
旅行には待ち時間や移動時間、そして無駄な出費といったストレスの種が付きものです。しかし、航空会社やホテル運営会社、あるいはオンラインの旅行代理店の中には、旅行のストレスを少しでも軽減するために、顧客からの問い合わせの手間を減らそうとしている企業があります。そうした企業で活用されているのがメッセージアプリです。
企業におけるメッセージアプリの用途と言えば、これまで長らくの間、カスタマーサポートの提供が主流でした。しかし、メッセージアプリの活用の幅が広がったことで、カスタマージャーニーの新たなタッチポイントを対話型のエクスペリエンスに転換しようとする動きが、企業の間で広がりつつあります。特に、旅行業界やホテル業界の各社は、メッセージに大きな可能性を見出しています。
旅行業界でのメッセージアプリの活用例
Zendeskによるレポート「State of Messaging: Travel(旅行業界でのメッセージアプリ活用の動き)」では、次の3つの重要な事実が明らかになりました。
1つ目は、高級ブランドやスタートアップ企業を中心に、メッセージアプリが旅行業界に浸透してきていることです。スタートアップ企業は、きめ細かなパーソナライゼーションを通じて、高級ブランドのような顧客対応を実現しています。メッセージアプリを活用すれば、顧客の状況や過去のやり取りを踏まえて、1人ひとりに合わせたサポートを迅速に提供できます。旅行業界やホテル業界の各社では、旅行の前、途中、後といったカスタマージャーニーのあらゆる段階でメッセージアプリを活用しています。
2つ目は、メッセージアプリを活用すると、複数の顧客への対応をまとめてパーソナライズできることです。航空会社やホテルの運営会社、オンラインの旅行代理店では、メッセージアプリを利用して顧客との関係を強化しています。その目的はカスタマーサービスや営業だけにとどまりません。こうしたブランド各社では、快適で印象深いカスタマーエクスペリエンスを生み出すうえで、メッセージアプリが非常に有効なツールであることにも着目しています。
3つ目は、メッセージアプリの人気が高まり、消費者からのニーズが増えているにもかかわらず、その導入状況については各企業で足並みが乱れているということです。たとえば、メッセージアプリを戦略の中核に据えている企業もあれば、メッセージチャネルを開設したばかりという企業もあります。しかし、Four Seasonsをはじめ、業界を代表する革新的企業の手により、メッセージアプリ重視の優れたカスタマーエクスペリエンスの基盤が構築されつつあります。
たとえば、American Expressは、プラチナカードとセンチュリオンカードの会員向けに、24時間年中無休の旅行コンシェルジュサービスを開始することを発表しました。従来のコンシェルジュサービスは電話をベースとしており、利用するには同社のアプリからアクセスする必要がありましたが、今後は番号をタップすれば、Apple Messages for BusinessをベースとするiMessageでコンシェルジュとのチャットを開始できます。
また、Delta Air Linesでは、iMessage、Facebook Messenger、WhatsApp Messengerなどをサポートする無料Wi-Fiを乗客に提供しています。前述のレポートでは、チケットの予約時、離陸前、ホテルでの滞在中といったカスタマージャーニーの段階でメッセージアプリが広く利用されていることが明らかになっていますが、飛行中にメッセージ環境を提供する事例はこれが初めてです。
唯一の課題は、ファイル共有やSMSなどの機能がサポートされていないことですが、RCS(リッチコミュニケーションサービス)がSMSに代わるメッセージアプリの主要規格になれば、そのような問題も解決すると考えられます。先日には、米国4代キャリアによる共同事業「Cross-Carrier Messaging Initiative」が発表され、同国のすべてのAndroidユーザーはRCSを利用できるようになりました。
チャットボットの導入を巡って
ビジネスにおけるメッセージアプリの活用を語るうえで、チャットボットを避けて通ることはできません。しかし、旅行業界やホテル業界の各企業は、まだ最適な導入方法の模索を続けている段階です。メッセージアプリは、宿泊予約の段階で販売手続きの自動化やサポート対応の優先順位付けに使われることが多く、顧客がホテルに滞在している間に使われることはほとんどありません。
こうした状況の中で目を引くのが、AI音声アシスタントサービス「Alexa for Hospitality」の事例です。このサービスでは、宿泊者がルームサービスを利用するのと同じようにAlexaを利用することができます。ここで注目したいのが、他のAIアシスタントではなくAlexaを導入することで、サービスの利便性や親近感を高めることに成功している点です。能力の低い他のボットであれば、宿泊客からの評価を下げることになりかねません。
私自身も、旅行でホテルに宿泊した際に、ひどいチャットボットのせいで滞在中に余計なストレスを感じたことがあります。部屋に入るとメッセージアプリで歓迎のあいさつをしてくれたのは嬉しいサプライズでしたが、それからはボットにタオルを頼んでも、フロントに電話するよう勧めることしかしてくれず、役に立つことはほとんどありませんでした。
その後、チェックアウトしてからようやく人間の担当者がスレッド上に現れ、まだタオルが必要かどうか質問してきました。実はボットが故障しており、私のリクエストはだれも見てすらいなかったのです。宿泊者向けメッセージサービスを提供している担当者がチャットボットを利用しない理由がわかった瞬間でした。
先ほど紹介したレポートの中で、カナダのトロント中心部のホテル「The Annex」で支配人を務めるRyan Kileen氏は、客室からの電話への対応をメッセージアプリで過度に自動化するなど、なんらかのタスクを伴うタッチポイントをボット任せにすることは、ラグジュアリーに関する自身の考え方に反すると述べています。Kileen氏は次のように話します。
「ラグジュアリーとは、快適でシームレスなカスタマーエクスペリエンスを提供することです。(中略)ラグジュアリーを実現するには、ゲストが使い慣れた自分のデバイスから好きなものを好きなときに頼めるようにしておく必要があります」
2018年にすべての施設で宿泊者向けメッセージサービスを導入したFour Seasons のようなラグジュアリーホテルでは、顧客とのやり取りに対応するのは常に生身の人間です。各部署への問い合わせの割り当てなどの機能で自動化が導入されている場合もあるものの、宿泊者はそこまで把握しているわけではなく、こうした顧客対応は高い評判を得ています。
たとえば、Four Seasonsのチャットサービス「Four Seasons Chat」は、Zendeskの「Sunshine Conversations」というプラットフォームをベースに構築されており、HotelTechAwardsでの受賞歴があります。また、同ホテルは、Forbes Travel Guideで他のブランドを抜いて最多の5つ星評価を獲得しています。
CB Insightsが発表しているチャットボットの普及に関するレポートでは、各企業がチャットボットの導入に難色を示す要因は、マーケティングが野心的すぎる点にあるという分析が出ています。FacebookやMicrosoftがリリースしたチャットボットは、高機能なAIアシスタントのように機能せず、70%以上のリクエストに対応できなかったのに対し、コスメブランドのSephoraやアパレルメーカーのLevi’sでは、ボットが長期にわたって成果を収めてきました。その理由は、商品の購入につながる見込みの大きい単純なワークフローを自動化したことにあります。
CB Insightsのレポートでは、「各企業は高望みせずに、チャットボットに任せても問題のない作業を吟味しており、チャットボットの利便性を高めることに成功している」と説明されています。
この点を踏まえると、航空会社やオンラインの旅行代理店がチャットボットを利用する場合、顧客によるチケットの購入をサポートできるように、単純なプロセスを自動化しているのは自然の成り行きと言えます。
たとえば、SnapTravelという旅行代理店では、手頃な料金で宿泊できるホテルの客室情報を集め、完全対話型のインターフェイスで宿泊プランを販売しています。また、WestJet Airlines、KAYAK、Booking.comなどの競合ブランドでも、顧客がメッセージアプリを使用して、航空チケット、ホテルの客室、ホームステイの宿泊先などをチャット内で検索できるようにしています。
メッセージアプリで競合他社との差別化を実現
今度旅行に出かける際は、ご自身がやり取りした企業の中で、メッセージアプリを活用してカスタマーエクスペリエンスを向上させているところが何社あるのか、注意してみてください。
カスタマーエクスペリエンスが最も重要な資産である旅行業界やホテル業界の各社では、さまざまな取り組みを通じてイノベーションの可能性を広げており、優れたカスタマーエクスペリエンスを構築することで、競合他社との差別化を図っています。ビジネスに利用できるチャネルが増えていく中、メッセージアプリを活用すれば、複数の顧客とのコミュニケーションをまとめてパーソナライズできます。
対話型のビジネスエクスペリエンスをカスタマイズして構築する方法については、Sunshine Conversationsの製品紹介ページをご覧ください。