顧客中心の的確で優れたセルフサービスを構築・運用するには、組織に蓄積された知識、手法、コツなどを有効活用することが不可欠です。しかし新しい事業分野、ブランド、製品などが追加されて組織が成長するにつれ、セルフサービスが複雑化します。たとえば、新ブランドのヘルプセンターが親会社のブランドイメージをそのまま引き継いでいると、顧客の混乱を招きます。
つまり、組織の成長に伴う複雑化に対処せずに放置すると、企業と顧客の分断が起きるのです。セルフサービスは企業と顧客の関係構築に大切な役割を果たすため、組織の成長に伴う複雑化の犠牲にしてはなりません。
ビジネスの成長に伴い組織が複雑化する中で、セルフサービス用コンテンツの的確性を維持するには、以下に挙げる2つの要素を重視する必要があります。
顧客側にはシンプルに。最高のサービス体験を届けるには、顧客が求めている情報を簡単に見つけられる状態が理想です。
社内側には効率的に。運用プロセスが整備され、ステークホルダー全員がコンテンツの継続的な拡充・改善に貢献できる状態が理想です。
フロントエンドのシンプルさを追求すると同時に、バックエンドのプロセスとシステムを効率化すれば、高度に洗練されたセルフサービスを顧客に提供できるようになります。
常にシンプルさを追求する
複数のチャネルから訪れる多様な顧客に対して、検索性が高く的確な情報が分かりやすく整理された、シンプルなセルフサービスを実現するのは、至難の業かもしれません。しかし、的確な情報が的確なタイミングで見つかる仕組みさえ構築できれば、目標の半分は達成されたも同然です。そのためには、コンテンツの作成・配置を常に顧客視点で行うように注意しましょう。最も需要の高いコンテンツを最適な場所に配置し、複数のチャネルに最適化し、顧客層に合わせてカスタマイズするのです。
セルフサービスを利用する顧客の体験を最適化するには、的確なコンテンツを素早く提供することが不可欠ですが、これを実現するには、ヘルプセンター自体をシンプルにして快適に閲覧できるようにしたり、検索を絞り込む機能を用意したりするなど、いろいろな方策が考えられます。そこからさらに一歩進んで、顧客層やチャネルをAIが判断して最適なコンテンツを瞬時に提供する、最新のAnswer Botを導入するという手もあります。
ナレッジベースに対するニーズが多様化する一方で、あらゆる製品のあらゆる機能に関する情報を詰め込んでいると、ナレッジベースは際限なく複雑化し、検索性は低下の一途をたどります。これを避ける一つの方法は、各ブランドまたは各製品に専用のヘルプセンターを用意することです。そうすれば、バックエンドの構造にかかわらず、顧客に対してはブランドや製品に最適化したシンプルなセルフサービスを提供しやすくなります。
セルフサービスに対するニーズは、企業の数だけ、顧客の数だけ異なります。そこで鍵となるのが、ナレッジベースの柔軟性です。コンテンツの整理、ナビゲーションの整備、ブランドへの最適化を行ううえで、柔軟性はきわめて大切な要素となります。目的意識を明確にしてコンテンツを整理すれば、複雑なプロセスを舞台裏に留め、顧客に見せる側のシンプルさを追求しやすくなります。ナレッジベースが柔軟な階層構造で整理されていれば、サブカテゴリーの作成も簡単です。ナレッジベースが単一でも、ブランドごとに異なるテーマやテンプレートを用意して、そのブランドに関連するコンテンツだけをナレッジベースから引き出せるようにすれば、セルフサービスを利用する顧客の体験を最適化できます。
チームを支援する
自動化などの最新テクノロジーを駆使すれば、セルフサービスの拡充と運用を続けながらもチームの負荷を軽減できます。それにより、データに基づいた的確なコンテンツを作成し、作成したコンテンツを継続的に更新して、組織の成長に合わせて体験を最適化する際の柔軟性も確保できます。
チーム共同でのコンテンツ作成を促進するには、コンテンツの保守・運用にアジャイル型のアプローチを採用するのが効果的です。具体的には、いきなり膨大な数のコンテンツを作成しようとせず、最も多く寄せられている質問、最も頻繁に検索されているキーワード、1回の対応で完了したチケットで最も多いトピックなどに基づいて、少数のコンテンツを作成します。そうすれば、コンテンツ作成のプロセスがシンプルになり、ひいては顧客の体験もシンプルになります。
コンテンツ管理者は、顧客に最も役立つコンテンツがどれなのか、当て推量に頼るしかない場合があります。また、コンテンツの数をいたずらに増やすのは、検索結果の精度を落とすなど悪影響もあり得るため、必ずしも得策ではありません。こうした状況でコンテンツ管理者を支援してくれるのが「コンテンツキュー」というツールです。AIを搭載したコンテンツキューは顧客の検索パターンを分析し、最もインパクトがあるのはどのトピックか、そのトピックに関するコンテンツを増やすべきなのか、減らして絞り込むべきなのか、コンテンツ管理者に判断材料を提供します。
会員制の食品配達サービスであるFreshlyは、コンテンツキューを活用してコンテンツの有用性を大幅に改善しました。たとえば、配送状況に関するコンテンツに記載する表現を、社内で使用していた「配送状況の問題」から、顧客が問い合わせでよく使う「荷物が届きません」に変更したことで、顧客がセルフサービス上で目的のコンテンツを見つけやすくなり、セルフサービスの効果が改善されました。
ナレッジベースとセルフサービスの抜本的な改善という難事業が一段落しても、特定の分野に精通する担当者によるコンテンツの継続的な改善を怠ってはなりません。ここでも最新テクノロジーは大いに役立ちます。たとえば、「記事確認」というツールは、コンテンツの保守・運用を支援することで、コンテンツのライフサイクル全体に対するチームのコミットメントを後押しします。
セルフサービスは今日の顧客に最も好まれるサポート形式ですが、社内の複雑性が透けて見えるようなセルフサービスは必ず失敗します。しかし、正しいテクノロジーと正しいプロセスを正しく活用すれば、保守・運用に携わるチームの負荷を最小限に抑えながら、顧客にとって最適なセルフサービスを簡単に構築できます。