すべての企業にとって重要な業務効率化、生産性向上、組織力強化、顧客満足度の向上などの観点から、ナレッジマネジメントが有効であることは多くの企業が認識しています。しかし、ナレッジマネジメントを導入したものの、その推進を阻む課題に直面して効果を上げられていないケースが見受けられます。
この記事ではナレッジマネジメントがなぜうまくいかないのか、その課題を明らかにし、その解決策について紹介します。
ナレッジマネジメントの重要性とメリット
ビジネス環境の変化に伴い、これまで以上に企業は業務の効率化、生産性の向上、組織力・顧客マネジメント力の強化、顧客満足度の向上、人材育成・活用、知的財産の活用などの必要性に迫られています。ナレッジマネジメントは、これらを実現できる有効な経営手法であることから、その重要性を再認識し、推進を阻む課題をクリアしなければなりません。
ナレッジマネジメントが重要な理由
ナレッジマネジメントによって集めたナレッジを、社内・外向けにWiki・FAQやマニュアル、ポータルサイトの形で公開することで、業務効率化や顧客満足度の向上などさまざまなメリットが得られます。これらのメリットは、最終的に売り上げ・収益増による事業拡大・成長につながっていくため、ナレッジマネジメントを推進することは重要なのです。
ナレッジマネジメントで得られるメリット
業務効率化と生産性向上
ナレッジマネジメントは社員の頭の中のナレッジ(知識、ノウハウ)を可視化でき、蓄積、共用、活用が可能です。その結果、優れたナレッジを全社員が共有でき、知らなかったナレッジやより優れたナレッジを「調べる/探す」ための作業時間が減り、業務を効率化できます。
そして、業務効率化で生まれた時間や余った人材をほかに活用すれば、より少ない経営資源でより多くの成果を生み出すことができ、企業全体の生産性が向上します。組織力の強化
組織力を高めるには、社員や組織同士でナレッジや価値観を共有し、ベクトルを同じ方向に向けて業務を進めなければなりません。しかし、価値観の多様化、個性の尊重、人材の流動化、ITの活用の進展で、同じ目的のもとで同じ方向を向いて業務を進めることが難しくなっています。さらに、近年の在宅勤務の急速な増加は、ナレッジ共有や連帯感の醸成を難しくしています。
ナレッジマネジメントを活用すれば、オフィスで顔を合わせての会話の機会が減っても、業務に必要な情報や社員の持つナレッジは一カ所に集約して共有できます。情報の共有によって組織の目的・目標が明確になり、価値観を共有したうえで業務を推進できます。新たなナレッジの創出
ナレッジマネジメントは、SECIモデルによって暗黙知から形式知への変換を促進し、形式知から新たな暗黙知を生み出します。その結果、組織、社員に創造性が生まれ、新しい画期的な戦略(新製品やビジネスのアイデアなど)の創出が可能です。
リンク:暗黙知・形式知の過去記事部門内・部門外・社外との連携強化
ナレッジマネジメントは、顧客や製品に関するナレッジの蓄積・共有が容易にでき、また社員同士が協力できる機能を備えており、部門内・部門外の社員および社外の関係企業との連携強化を効率的に実現できます。
また、ナレッジのシームレスな共有を実現できれば、営業や開発部門と連携し、カスタマーサポート部門などで得られたナレッジを生かせます。また、トラブルやクレーム発生時にも、部門内外や社外と連携することで迅速な解決につなげられます。社員育成・教育の質を高めてコストや負荷を軽減
ナレッジマネジメントによって、優れた営業マンやエンジニアなどに属人化されていたナレッジを形式知にすれば、全社員が共有でき、社員全体の能力アップが可能です。また、社員育成・教育にも、必要なときに必要なナレッジを活用できるため、OJTやOff-JTに関わるコストや負荷を軽減できます。
顧客満足度の向上
カスタマーサポート部門は顧客とダイレクトに接し、最も顧客満足度に影響を与える業務を行っています。ナレッジマネジメントによって、回答に必要なナレッジや過去の対応履歴をサポートスタッフ間で共有でき、顧客満足度の向上のポイントである「迅速かつ正確な回答」が可能です。
また、顧客が求める情報やナレッジを集約・編集して、FAQとして充実させて公開することもできます。これにより顧客の自己解決力が高まり、問い合わせ時間の短縮や顧客が待たされるストレスの軽減ができるため、顧客満足度が向上します。さらに、顧客のニーズやシーズをタイムリーに関連部門と共有でき、製品・サービスの改善や新規開発も適切かつ迅速にできるため、顧客との良好な関係を長期的に維持できます。
ナレッジマネジメントを阻む3つの課題
ナレッジマネジメントの推進を阻む課題について紹介します。
ナレッジマネジメントの意義・メリットが理解されていない
ナレッジマネジメントはトップダウンで実施されます。しかし、トップの意向だけが強すぎると、社員が意義を十分に理解しなかったり、メリットがないと考えたりする可能性があります。その場合、社員のモチベーションは低く、ナレッジマネジメントをうまく推進できません。また、ナレッジを蓄積する活動に対して、その社員の評価が難しいことも、推進できない理由のひとつです。情報が分散していて必要なナレッジを集められない
情報は企業内のいろいろな場所にさまざまな形式で散在しています。情報が流通するチャネルもWeb、メール、電話、チャット、SNSなど多岐にわたり、簡単にはナレッジを集められません。また、暗黙知や社員の頭の中にしかない言語化されていないナレッジ・経験なども多く、それをどのようにして集めて形式知として共有できるようにするかも難しい課題です。運用ルールが不明確で蓄積・共有すべきナレッジの取捨選択が不十分
多くの人が働く企業では、社員によって日々ナレッジが生み出されて膨大な情報量になります。しかし、ナレッジマネジメントの進め方によっては、ナレッジを集めて蓄積することが自己目的化してしまうことも起こります。その場合、情報量だけが膨大になり蓄積・保管に手間がかかる一方で、必要なときに必要な情報を取り出せないといった結果になりがちで、ナレッジの活用が進みません。
ナレッジマネジメント課題の解決策
ナレッジマネジメントの課題は、言い換えれば「やる気」と「やり方」に壁が存在すること。この2つをクリアできる対策を実施することで、ナレッジマネジメントを推進できます。
目的を理解させて自発的なナレッジ共有を促す
ナレッジマネジメントにおいては、社員一人ひとりに目的を理解させることが重要です。まず、社員に対してナレッジマネジメントの目的や意義を丁寧に説明する必要があります。社員の理解を得たうえで、それぞれが自発的にナレッジを共有するように促すことが大切です。社員にナレッジを活用する文化を定着させる
優れたナレッジを持っている社員がナレッジを提供し、それが共有されても、組織や社員にナレッジを有効に活用する文化がないと活用は進みません。組織・社員にナレッジ活用の有効性を認識させて、まずナレッジを確認する文化を定着させることが必要です。
そのためには、必要なナレッジを簡単・迅速に検索できる仕組みが不可欠です。ナレッジは、量が多くなるほど活用価値は高まります。多くのナレッジを効率的に利用できるようにするためには、適切なツールの導入が必要です。ナレッジマネジメントを推進する社員を評価する仕組みを作る
ナレッジマネジメントを活用する文化を定着させるために目的や意義の説明をいくら徹底しても、すべての社員に理解させるのは困難です。そこで、ナレッジを積極的に提供する社員や、ナレッジ活用のために多数の改善案を提案する社員などを評価する仕組みが必要です。共有化すべきナレッジを整理する
全ての情報を共有化しようとすると膨大な手間がかかるため、共有の効果が大きく重要性が高い順にナレッジを整理して集めます。例えば、一般的には以下のようなナレッジなどがそれに該当します。
・営業活動に効果的な営業方法に関するナレッジ
・社内からの問い合わせが多いバックオフィス部門の対応業務を、効率化できるナレッジ
・顧客対応に関する情報を集めた、カスタマーサポートに関するナレッジ
また、社員がナレッジを使いやすくするために「製品ブランド単位」「部門単位」など、まとめる単位や構成を工夫して保存・管理することも重要です。企業や組織ごとに適した形でカテゴリー分けを活用して、ナレッジを整理しましょう。
ナレッジを社内向けFAQとしてまとめると、従業員がいつでもアクセスでき使いやすいナレッジマネジメントツールを導入する
誰でも簡単にナレッジを記事にでき、管理や共有がスムーズに行えるナレッジマネジメントツールを導入すれば、さまざまな課題を解決してナレッジ活用の推進を手助けします。
ナレッジマネジメントとは?
意味、手法、システムを解説
社内外のサポートにおけるナレッジマネジメントの有効性と重要性
ナレッジマネジメントは、カスタマーサポート部門の顧客対応、バックオフィス部門の社内問い合わせ対応のほか、営業・広報・開発など、あらゆる部門の業務の効率化や質の向上に対して有効かつ重要です。ここでは、一般的に社員の入れ替わりが激しいうえに、顧客対応にスピードと質の高さの両方が求められるカスタマーサポート部門に焦点を当てて、ナレッジマネジメントの有効性と重要性を紹介します。
迅速で高品質なサポートを提供
ナレッジマネジメントによって、人の入れ替わりが激しいサポート業務においても顧客対応を均質化し、迅速かつ高品質なサービスを提供できます。また、顧客の要望や不満を社内関係部門に提供することで、より良い製品やサービスの提供につながります。
Zendeskで問い合わせ対応時にFAQを利用して返信する例業務効率化・経費削減
ナレッジマネジメントは、顧客対応時間や新しい担当者の教育期間の短縮につながり、業務効率化や経費削減に寄与します。顧客の自己解決力を高めるFAQの構築
顧客から頻繁に来る問い合わせとその回答内容をナレッジとして蓄積して、顧客の自己解決のためのFAQを公開することが可能です。これにより顧客の自己解決力が高まり、問い合わせ件数が減少することでサポート業務の負荷を軽減できます。顧客満足度向上
迅速で高品質な回答の提供、顧客の自己解決力を高めるFAQの公開、および顧客の要望に応える製品・サービスの開発などを通じて、顧客満足度を高められます。
ツール導入で社内問い合わせ対応業務を効率化した企業の事例
Zendeskは世界10万社以上が利用するカスタマーサービスプラットフォームです。ナレッジマネジメントの推進に欠かせない機能を豊富に装備しています。
Zendeskを利用してサポート業務を効率化した事例を紹介します。
株式会社ISID-AO「変化への対応に優れたサポート基盤を将来にわたる競争力の源泉に」
株式会社ISID-AOは、システムの基盤設計から構築、運用・保守サポートまでを一気通貫で提供している、電通と米国GE社の合弁で設立された電通国際情報サービスの戦略的グループ会社です。同社は、電話やメールでの問い合わせをすべて手動でテキスト化し、それらをCRMツールに記録するという作業をしていました。
この作業の手間に対して同社は、効率化の推進による時間やコスト削減と、サポート環境の整備によるオペレーターの負荷軽減という観点から、ツールを変更するという動きに至ります。そして、この2つの課題に同時に対応するため、自分たちに使いやすいツールにできるカスタマイズ性の高さを理由にZendeskを導入します。Zendeskのコストメリットの大きさ、スモールスタートができて、かつ拡張性が高いことも同社には魅力でした。
Zendesk導入後、チケット作成の自動化や回答テンプレート(マクロ機能)の活用でオペレーターの手間が大きく軽減され、業務効率化が実現。さらに、オペレーター同士でナレッジを共有して有効活用できるようになり、サポート品質の向上にもつながっています。今後、同社はZendeskによる顧客向けFAQページの提供や、ナレッジの分析などを行い、さらなる顧客体験の向上やナレッジの共有・活用を目指してカスタマイズを進めていくとしています。
【Zendesk導入事例】
株式会社ISID-AO
ナレッジマネジメント遂行の課題の解決はツールの導入が有効
ナレッジマネジメントは、業務の効率化や顧客の自己解決を支援し、顧客満足度の向上を効果的に推進できます。しかし、トップダウンによる推進の行き過ぎでナレッジマネジメントの意義やメリットの理解が不足していたり、あるいは課題を解決せずに推進して失敗したりしている企業も少なくありません。ナレッジマネジメントは、課題とその解決策を理解し、さらにツールを導入することで効果的に実現できます。