顧客はサポートチームに問い合わせるとき、2つの点を重視しています。どれだけ早く問題を解決してくれるかという点と、どれだけ速く応答してくれるかという点です。Zendeskの最新調査では、顧客の73%が最も重視するポイントとして「迅速な解決」を挙げ、59%が「すばやい応答」を挙げています。
いずれにしても、企業が注意を払うには十分な理由と言えます。顧客のロイヤルティと購入額を左右する要素として、カスタマーエクスペリエンスの品質が重要性を増しているという事実もあることから、どの企業も顧客の待ち時間を減らしたいと考えています。
「保護者からの問い合わせが1,200%増加し、教師からの問い合わせが750%以上増加しました」Khan Academy、コミュニティサポート責任者、Laurie LeDuc氏
しかし2020年には、顧客からの問い合わせ件数が過去最高を記録し、多くの企業にとってスピードを優先することはますます難しくなってきています。実際、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生した直前の時期と比べて、チケットの件数は世界全体で20%高い基準を維持しています。世界的な外出規制措置によって大きな影響を受けた業界(食料品の配達サービス、eコマース、リモートワークやリモート学習のプラットフォーム)では、その割合がさらに高くなっています。
フードデリバリーアプリのGrubhubでは、2020年2月以降、チケットの件数が100%増加しました。新規顧客が増えたのと、安全に関する懸念が高まったことが主な理由です。また、非営利団体による教育プラットフォームKhan Academyでも、パンデミック初期に問い合わせが急増しました。
「保護者からの問い合わせが1,200%増加し、教師からの問い合わせが750%以上増加しました」と、Khan Academyでコミュニティサポート責任者を務めるLaurie LeDuc氏は話します。同社のサポートチームは、突然膨れ上がった問い合わせにたじろぎました。かつてないほどチケットが増加している中で、どうしたら顧客の期待する迅速なサポートを提供できるのでしょうか。
約3分の1の企業が、チケットの件数が増えたにもかかわらず、問題解決時間をスピードアップできました。
そうした困難のさなかでも、Zendesk導入企業の約3分の1は、この1年で顧客から寄せられた問題の解決時間をスピードアップすることに成功しました。こうした企業では、チケットの件数が2019年と比べて平均91%増加したにもかかわらず、解決時間は53%減少しています。
年間で平均して計230万分、チケット1件あたりで972分の時間が節約されました。さらには、応答時間も同じくらい短縮しています。
それでは、どのようにしてこうした偉業が達成されたのでしょうか。それを理解するため、今回詳しく掘り下げたのがZendeskのベンチマーク調査です。この調査では、Zendeskを使用してサポート業務を強化している数千社の企業の主要な指標が追跡されています。以下では、その調査結果から判明したことをご紹介します。
応答時間と解決時間がすべてのチャネルで改善
パンデミック中に応答時間と解決時間を改善できた企業は、すべてのチャネルでそうした時間の短縮に成功しています。特に、電話、ソーシャルメッセージング、メールおよびWebフォームといったチャネルを改善したことが大きな成果につながりました。
他の企業と比べてチャネルの導入率はさほど変わりませんでしたが、全体的に電話サポートの利用率が低いのが特徴的でした。これは納得のいく結果です。
電話サポートの場合、担当者は一度に1件のチケットしか処理できません。複数のチケットを行き来したり、いくつものチャットウィンドウに同時に対応したりすることはありません。もちろん、これだけでチャネルのメリットとデメリットを判断できるわけではないでしょう。実際に電話サポートは、直接話せて親しみを感じられるという理由で多くの顧客から好まれています。しかし、大量のチケットに対処する最も効果的な方法でないことは確かです。
ワークフロー管理ツールを活用し、小さな効率化を積み重ね
時に、小さな取り組みが非常に大きな効果をもたらすことがあります。顧客にすばやく回答するには、マクロ、トリガー、自動化などのツールを使用して、小さな効率化を積み重ねることが何よりも重要となります。
効率が向上した(チケットの件数が2%以上増加したにもかかわらず、応答時間または解決時間が2%以上減った)企業は、次のことを実践していました。
効率化ができていない企業よりも67%速いペースで自動化を追加
効率化ができていない企業よりも33%速いペースでトリガーを追加
効率化ができていない企業よりも10%速いペースでマクロを追加
マクロ、トリガー、自動化とは
マクロ
マクロとは、チケットの作成や更新(チケットフィールドの更新、担当者の割り当ての変更、コメントの追加、添付ファイルの追加など)の際に適用される、事前に用意された回答やアクションのことです。マクロを使用すれば、同じ問題を抱える顧客が複数いたときにつど対応する必要がなく、担当者の時間と労力を節約できます。
トリガー
トリガーとは、チケットの作成や更新の際に特定の条件に合致すると自動的に実行される、あらかじめ定義したビジネスルールのことです。これにより、たとえば不在時に顧客にその旨を通知したり、顧客満足度アンケートのフォローアップメールを送信したりできます。さらには、チケットを適切な担当者に割り当てたり、特定の問題をエスカレーションしたり、優先度の高い顧客を専門のチームに転送したりすることも可能です。
自動化
自動化はトリガーと似ていますが、チケットの作成時や更新時だけに限らず、特定の時間に実行されるように設定できます。自動化は、未解決や未割り当てのチケットを追跡し、取りこぼしをなくすうえで役立ちます。たとえば、未解決のチケットを割り当てられている担当者に対し、1時間おきにリマインダーを設定したり、一定の時間が経過しても新しいチケットが未割り当ての場合には、マネージャーに同様の通知を設定したりできます。
たとえばGrubhubでは、注文の変更や返金の処理をユーザー側で行える機能などを導入し、時間のかかる業務プロセスを自動化したことで、1回の注文あたりの問い合わせ件数が37%減少しました。「長年見てきた中で、今が一番、1回の注文あたりの問い合わせ件数が少ない状態です」と、Grubhubのケアサポート担当ディレクターであるMichael Wireko氏は話します。
また、プロセスを修正して適用するのも簡単です。Grubhubでは、最初に問い合わせが急増してから2週間以内に、新しいワークフローの自動化を導入しました。これにより、店側が顧客のニーズに十分に応じられなかったために、大量のキャンセルや返金リクエストが発生したときにも自動で対応できるようになったほか、チケットが先回りで作成されるようになりました。
またKhan Academyでは、チケット処理のプロセスを全体的に自動化し、新しい問い合わせがあった際に適切にチケットに優先順位を付け、直ちに対処が必要なチケットはどれか、どの担当者が対応すべきか、どういった問題が残っているかを判別できるようにしました。LeDuc氏は次のように話します。「Khan Academyで用意しているサポート窓口はチケットフォームのみです。問い合わせに適切に優先順位を付けて、多数のフローを自動化しています」
サポート業務の急速な効率化を実現
チケットを適切な担当者に転送したり、多数の顧客に同じ回答を送信したりといった、単純でよく発生しがちなタスクに時間をかける必要がなくなると、サポート担当者は問題の解決に集中でき、数多くの問題を解決できます。
当然ながら、応答時間や解決時間がスピードアップした企業では、担当者の作業効率も著しく向上しました。この1年で顧客への応答速度が上がった企業では、担当者1人あたりが処理する平均チケット件数が72%増加しました。この増加ペースは、それ以外の企業よりも約50%速くなっています。
顧客への応答速度が上がった企業では、担当者の作業効率が平均して72%アップしました。
また、こうした企業では現在、複数のチャネルに対応できるマルチプレイヤーの担当者の活躍が目立っています。担当者を複数のチャネルに割り当てられるということは、要するに、需要の変化に応じてサポート業務を適宜拡張できるということです。こうした企業では、複数のチャネルに対応できる担当者に関して、1日あたりの平均人数が71%増加しており、この増加ペースはそれ以外の企業よりも22%速くなっています。
セルフサービス型コンテンツでチケットの作成を抑制
セルフサービス型のサポートも重要な役割を果たします。当然ながら、探している答えを自力で見つけられれば、顧客がサポート担当者に連絡をしなくなるからです。こうしてチケットの作成を大幅に抑制できれば、未解決のチケットが減少し、顧客全体の待ち時間も短縮して、担当者は複雑な問題に時間をかけて取り組めるようになります。
チケットが増加した一方で顧客への応答時間が速くなった企業は、迅速な応答時間を維持できなかった企業よりも70%速く、ヘルプセンターに記事を追加しているというのも納得です。
「月に約100万件のアクセスがあります。それをチケットに置き換えると、数万件の問い合わせを削減していることになります」Discord、カスタマーエクスペリエンス担当ディレクター、Danny Duong氏
Discordは、もともとゲーマー向けのコミュニケーションプラットフォームでしたが、この1年で利用者の数が飛躍的に増加しました。オンライン授業、読書会、勉強会、レストラン経営者の会合、オンライン会議などの用途で利用されるようになったのです。
Discordのサポートチームは、急増する問い合わせに対処するためにヘルプセンターを有効活用しています。同社のカスタマーエクスペリエンス担当ディレクター、Danny Duong氏はこう話します。「月に約100万件のアクセスがあります。それをチケットに置き換えると、数万件の問い合わせを削減していることになります」同社のチケット削減率は10%に達しています。つまり、問い合わせてきたユーザーの10人に1人が、担当者に一切連絡を取らずに問題を解決しているということです。
スマートなサポート業務を実現するには
顧客に迅速に回答できないのは、業務環境に問題があるだけという可能性もあります。サポートチームの業務を停滞させている要因を見つけて取り除くには、まず以下の点に対処する必要があります。
ワンタッチチケットについて調査する
1回の返信で簡単に解決できるワンタッチチケットの占める割合が高い場合は、時間の節約になる自動化機能を導入したり、ヘルプセンターのコンテンツを作成したりして、担当者の負担を軽減できる可能性があります。
まずはワンタッチチケットの質問や問題の内容を洗い出し、マクロやトリガーを利用したり、ヘルプセンターのコンテンツを追加したりすることで、こうしたチケットに対応できないかを検討してみましょう。
マクロやトリガーを精査する
社内のマクロとトリガーについてチェックしましょう。過去30日間にどのくらいの頻度で使用されているでしょうか。頻繁に使われているマクロがある場合は、代わりにトリガーの使用を検討するようにします。
たとえば簡単な例で言うと、担当者が頻繁にマクロを使用して返金のリクエストに対応しているとします。その場合、チケットのクローズは手動で行わなければなりません。トリガーを使えば、返金対応だけでなく、チケットを解決済みとしてクローズする処理も行えるため、担当者の貴重な時間を節約できます。
担当者から話を聞く
業務の流れの一部始終をだれよりも理解しているのは、サポート担当者です。実際に現場に立つ担当者と話せば、サポート業務を改善する方法について的確なヒントを得られます。もっと効率を上げられるプロセスがないかどうかや、ヘルプセンターのコンテンツによってチケット削減率をどのように改善すればよいかが見えてくれるかも知れません。
顧客への応答をスピードアップするうえで、現状の対応方法を全面的に見直す必要はありません。チケットの優先順位付けや処理方法をほんの少し変更するだけでも、非常に大きな効果につながる可能性があります。