執筆:Fullscript カスタマーサクセス担当バイスプレジデント Adam Van Cleeff氏
顧客とやり取りする機会は増える一方ですが、それと並行して顧客から期待されるサポート品質の水準も上がってきていることは、現場の最前線で活躍するサポートリーダーならだれもが知っていることでしょう。これはあらゆる企業にとって悩ましい課題ですが、特に成長中の企業の場合は、サポート業務に過大な負担が強いられることになります。事実、オムニチャネルエクスペリエンスを提供している企業では、顧客とのやり取りが増加しており、サポートチームの処理能力のほぼ6倍もの問い合わせが寄せられています。
企業はこうした課題にどう対応すればよいのでしょうか? 人員を増やすのも1つの方法でしょう。しかし現実には、この方法ではカスタマーエクスペリエンスを改善できないうえ、収益にまで悪影響が及ぶ可能性があります。実際、2020年にサポートチームの増員を予定している企業は、全体の3分の1ほどしかありません。
筆者が所属するFullscriptも、ここ数年で大きな成長を遂げてきましたが、成長に伴いサポート業務を拡張する中で、さまざまな難しい課題に直面してきました。顧客からの問い合わせが月あたり5,000件から35,000件に急増した結果、複数のシステムに情報が分散されている、ツールが古すぎて作業プロセスを合理化できない、帯域幅が不足しているといった、多くのサポートチームに共通の問題を解消する必要が出てきたのです。この記事では、そうした問題を乗り越えていく過程で気づいたことをお伝えします。
最初に難題に取り組めば、プロセス全体がスムーズに進む
サポート業務を拡張するうえで最も効果的な方法は、オムニチャネルサポート戦略を全面的に適用し、あらゆるやり取りを単一のツールに統合することです。Fullscriptでは、サポートチャネルとしてメール、電話、チャット、SNSに対応しており、これらを1つの環境に統合したことで、大きなメリットを得ることができました。様々なチャネルから豊富な情報を入手して、顧客の全体像を理解できるようになったのです。
同時に、サポート担当者を多分野に対応できるゼネラリストに育てるという思い切ったトレーニング方針を採用したことで、顧客のニーズの変化にも柔軟に対応できるようになりました。たとえば、特定のチャネルで問い合わせが急増している場合なども、顧客のニーズに合わせて臨機応変に人員を配置できるようになりました(実際、Fullscriptでは、チャットでの問い合わせ件数が毎月4%ずつ伸びており、現時点で月あたり約15,000件にも達しています)。担当者は、個々の顧客とのあらゆるやり取りを把握しているため、どのチャネルからの問い合わせにも対応できます。こうした環境では、担当者のモチベーションも高まり、結果的に顧客からの難易度の高い要求にも応えられるようになります。
こうしたトレーニングを取り入れられるようになったのは、時間のかかる作業を自動化する取り組みが進んでいるためです。これにより、サポート担当者は単純作業よりも顧客とのやり取りに多くの時間を割けるようになりました。自動化の活用例としては、たとえばトリガを使って、メールや電話での問い合わせを内容に応じて最適なチームに振り分けたり、メンバー全員が必要な情報を把握して効率良く業務を進められるよう、チケット(問い合わせ)を統合したりしています。他にもFullscriptでは、トリガを使い、影響を受ける顧客(自社がサポートしている300以上のブランドなど)にフラグを付けて、サービスレベルアグリーメント(SLA)の順守に努めています。1つに統合された環境で複数のワークフローを効率的に進められれば、サポート担当者にも顧客にもたくさんのメリットがもたらされます。顧客との過去のやり取り、顧客の詳細情報(制限事項など)、顧客認証、優良顧客などの重要な顧客を把握できれば、売上向上のチャンスも捉えやすくなります。
さらにFullscriptでは、チケットフォームに条件設定フィールドを実装して、サポート担当者が顧客とやり取りを始める前に、顧客がどのブランドのどのチャネルからアクセスしているのかといった重要な情報を把握できるようにしています。このように、サポートエクスペリエンスを単一のプラットフォームに統合する、トリガや自動化を積極的に活用する、条件設定フィールドを実装するといった取り組みによって、初回応答時間が60%削減され、平均処理時間がおよそ7分に短縮されるなど、目に見える成果がもたらされています。
顧客の声に耳を傾ける
顧客の声とは、具体的には何のことでしょうか? 簡単に言えば、サポート品質に関する顧客からの反応のことです。これに目を向けずに、適切に業務拡張を図ることはできません。担当者は、CSATスコア、初回応答時間、チャネルの利用状況や待ち時間に関する指標など、さまざまなデータに常に目を光らせる必要があります。そうすれば、カスタマーエクスペリエンスを改善して、顧客の心をつかむことができるはずです。
オムニチャネルエクスペリエンスを提供し、顧客とのあらゆるやり取りを把握することは、製品のブロークンウィンドウ(軽微な問題点)を修正する機会にもつながります。こうした問題点は、製品ギャップとなって顧客のエクスペリエンスに影響を与えかねません。そのため、Fullscriptでは、顧客がセルフサービスコンテンツをどのように利用しているかを追跡して、顧客のニーズを探ったり、製品開発に顧客の視点を取り込めるよう、新機能のリリース後には毎回顧客からのフィードバックを収集するなどの取り組みに努めています。
変化に対応できる文化を育む
サポート担当者向けに統合型のプラットフォームを用意し、顧客の声に耳を傾けることは、サポート業務を適切に拡張するうえで欠かせない取り組みですが、他にも同じくらい重要なポイントがあります。それは、変化を念頭に置いた文化を育てるということです。
変化は避けられないものですから、カスタマーサービスも柔軟にかたちを変えていかなければなりません。つまり企業は、常に変化に備え、ユーザーの変わりゆくニーズにもすばやく効果的に対応できる必要があります。そのためには、まず新人担当者を適切にサポートできているか改めて確認してみましょう。入ったばかりの担当者でも、すぐに変化に対応できるような環境を整えられているでしょうか? 担当者が周囲の評価を気にせずにフィードバックを共有できる、オープンな環境づくりをすることが重要です。
Fullscriptでは、「意図せざる結果」の考え方を重視しています。皆さんの企業でも、ビジネスの成長や顧客のニーズの変化に対応するためにとったアクションが、思わぬ二次的な効果を生み出すようなことがあるかもしれません。変化を受け入れる準備ができているサポートチームは、そんな場面でも力を発揮します。実際、変化に対応できる文化の下で育ってきたFullscriptのサポート担当者は、新しいソフトウェアの導入、業務環境の変更(リモートワークへの移行など)、大規模なトレーニングの実施といった突発的なイベントがあっても、サポート業務に支障をきたすことなく臨機応変に対応しています。
サポート業務を効果的に拡張することは、とてつもない難題のように感じられるかもしれませんが、十分に計画を練って、適切なツールとプロセスを利用すれば、必ず実現できます。そしてそうした企業努力は、顧客ロイヤルティの向上というかたちで報われることでしょう。