カスタマーサービスのチームはさまざまなメンバーで構成され、1人ひとりの知識レベルにはバラつきがあります。そのため、知識が不足した担当者や新人が間違った情報を伝えてしまったり、顧客が求める解決策を提供できなかったりするリスクがつきまといます。
そのため、多くの企業は自社のコールセンターでスクリプトを作成し、特定の問題への問い合わせにオペレーターがどのように回答すべきかを明確に規定しています。こうしたスクリプトには、以下のようなメリットが期待されています。
オペレーターが正しい情報をすばやく見つけて回答できるようになり、問題解決の時間が短縮され、生産性を向上できる。
オペレーター全員が同じ問題に対して同じ回答を提供できるようになり、カスタマーサービスの一貫性を確保できる。
複雑な問い合わせに対してオペレーターが無責任に発言したり、誤った情報や不適切な情報を伝えたりするのを防止できる。
それでは、発言すべき内容を一言一句まで定めたスクリプトをオペレーター全員に渡しておけば、完璧な電話対応が実現するのでしょうか。
残念ながら、話はそう簡単ではありません。
コールセンターのスクリプトに潜むリスク
コールセンターのスクリプトには、確かに前述したようなメリットを期待できます。しかしスクリプトは、カスタマーエクスペリエンスの品質やコールセンターの評価に悪影響を与える、以下のような問題を引き起こすリスクもはらんでいます。
1. オペレーターの対応が機械的になる
現代はまさにセルフサービスの時代です。実に顧客の81%が、解決策を見つけるために自分で手を尽くした末に、カスタマーサービスに電話をかけています。つまり、コールセンターに電話をかけてきたということは、人間のオペレーターの助けを必要としているということです。それなのに、オペレーターの回答が、既にオンラインで見つけた情報と変わらないのであれば、顧客は親身に対応してもらえたとは思えないでしょう。
さらに、オペレーターが自分自身の言葉で話していないことを、顧客は敏感に感じ取ります。調査によると、オペレーターがスクリプトを読み上げていないと感じた場合に高い満足度を示す顧客の割合は78%に達しています。
2. スクリプトが問題解決に役立たない
スクリプトは、すべてのオペレーターが常に問い合わせに正しく回答できるように作成されますが、スクリプトで対応するには複雑すぎる問題もあります。また、情報の不足によりオペレーターがスクリプトの選択を誤り、まったく別の問題に対する解決策を提示してしまうリスクも考えられます。実際には間違っているのに、問題解決に貢献できたと思い込んでいるオペレーターと話すことほど、イライラさせられるものはないでしょう。
コールセンターでスクリプトを効果的に活用する方法
他のツールと同様に、スクリプトを活用してどれほどの効果を得られるかは、スクリプトの運用方法によって左右されます。オペレーターのスムーズな電話対応を後押しし、生産性を確保できるようにスクリプトを活用するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
スクリプトの意義を再考する
演劇の世界なら、台本を一字一句間違えずに暗記して、そのまま暗唱することが求められます。しかしカスタマーサービスの電話は、シェークスピアのお芝居ではありません。既に優秀なオペレーターを採用できているなら、業務の効率化に必要なツールを提供することに注力し、後はオペレーターを信じて任せましょう。
トレーニングの一部としてスクリプトを組み込む
スクリプトを新人オペレーター向けトレーニングの一環として活用するのは有効ですが、スクリプトだけでトレーニングを完結させることはできません。スクリプトはあくまでも、特定の問題の問い合わせに対してどのように回答すべきなのかを示す、指針として使用します。また、Webチャットや電話で顧客と効果的にやり取りする方法について補完できるように、ソフトスキルのトレーニングも実施しましょう。
オペレーターのトレーニングでは、スクリプトを一言一句そのまま読み上げる台本として扱うのではなく、参考資料として扱うように指導します。やがてオペレーターは、ざっと目を通しただけで伝えるべきことを把握し、自然な形で真摯に対応できるようになります。オペレーターと自然な会話が成立すれば、顧客は心地良さを感じられるでしょう。
スクリプトを基にオペレーターが参照しやすいナレッジベースを構築する
スクリプトは、セリフを書き連ねた台本のような形式である必要はありません。もしもスクリプトをこのような形で運用しているのであれば、オペレーターが重要な情報にもっと簡単にアクセスできるような、別の形式に作り替えることをお勧めします。
スクリプトを基に社内用のナレッジベースを構築して検索可能にすることで、オペレーターは寄せられた質問に関連する回答を簡単に見つけられるようになります。また、スクリプトの要点を抜き出してマクロを作成し、タグを付けて分類しておけば、オペレーターは必要に応じてそれらを瞬時に呼び出すことができます。
オペレーターが顧客を電話口で待たせたまま、必要な情報に行き着くまで延々と話し続ける状況は好ましくありません。カスタマーサービスソフトウェアを活用すれば、オペレーターが的確な情報をすばやく見つけられるように、すべてのリソースを分かりやすい体裁に整え、体系的に管理できます
カスタマーエクスペリエンスを最優先するようにオペレーターをトレーニングする
オペレーターが最高のカスタマーエクスペリエンスを提供することよりも、スクリプトに従うことを優先させているなら、スクリプトを使用するのは逆効果です。コールセンター向けのトレーニングと内部プロセスにおいては、スクリプトよりもカスタマーエクスペリエンスを優先するよう明確に示しておきましょう。
スクリプトが正確であることを確認する
スクリプトを使用するときには、その正確性を高めることが不可欠です。オペレーターがスクリプトを基に間違った情報や不完全な情報を提供しているとしたら、顧客を助けているのではなく、顧客に損害を与えていることになります。スクリプトを作成するときには、カスタマーサービスの過去のやり取りの記録を活用してください。
過去のデータは、顧客がよく遭遇する問題、よくある追加の質問や懸念事項、最も高い満足度を獲得した回答例などを特定するのに役立ちます。これらの情報を踏まえてデータ駆動型のリソースを作成すれば、カスタマーエクスペリエンスの向上につながるはずです。
最初のステップとして顧客データを参照することを徹底する
オペレーターは顧客対応を始める前に、その顧客がヘルプデスクとどのようなやり取りを行っていたのか、必ず確認しておく必要があります。すでに別の担当者(1人だけとは限りません)とやり取りしていた顧客に、そのときと同じ質問を再度投げかけてしまうと、顧客はストレスを感じるでしょう。したがって、オペレーターは入手できるすべての情報を確認したうえで、顧客対応をスタートさせるべきです。これにより、その顧客の問い合わせを解決するために最も適したリソースを見つけやすくなります。
常に双方向のコミュニケーションが行われるようにオペレーターをトレーニングする
オペレーターがスクリプトを使用すると、顧客の話を聞こうとせず情報を一方的に押し付ける形で対応してしまうリスクがあります。特にオペレーターが「とにかく回答を提示して対応を少しでも早く終わらせたい」という心理状態にあると、往々にして顧客の話に耳を傾ける姿勢がおろそかになります。そのため、オペレーターにはトレーニングを通じて、要所要所で話しを区切り、顧客が情報を正しく理解したかどうか、何か付け加えたいことはないかどうか確認するように指導する必要があります。
これにより、問題が解決した後もオペレーターが長々と話し続けてしまう事態も回避できます。オペレーターが適切な間を置いた簡潔な回答を心がければ、顧客は問題が解決した旨をオペレーターに伝え、早めに電話を切り上げて日常生活に戻ることができます。
スクリプトを賢く活用する
スクリプトは諸刃の剣です。正しく用いれば効果的ですが、オペレーターがスクリプトに依存しすぎると、カスタマーエクスペリエンスに悪影響を及ぼしかねません。スクリプトはあくまでも指針としてとらえ、正確性の向上と参照しやすい環境の整備に注力しましょう。そうすれば、高品質なカスタマーサービスを迅速に提供するうえで、スクリプトはオペレーターの強い味方となるはずです。