人工知能(AI)分野における最先端の技術革新を理解することは、なかなか難しく感じられる場合もあります。しかし、とりあえず基本的な知識を押さえておきたいと言うのであれば、まずはディープラーニング(深層学習)と機械学習の2つについて理解しましょう。数あるAI技術は、どれもこの2つの概念に分類できるからです。この2つの用語は、同じものを表すバズワードであると誤解されていることが多いため、その違いをしっかり理解しておくことが重要になります。
また、この2つの違いを知っておくべき理由としては、ディープラーニングと機械学習がさまざまな場面で活用されていることも挙げられます。Netflixでお勧めの番組が提案される、Facebookで写真に写っているユーザーが判別される、自動運転車が現実のものになる、顧客満足度のアンケート調査を受けていない顧客のカスタマーサービスに対する満足度を把握できる――これらはすべてディープラーニングや機械学習のおかげなのです。
では、AI関連の話題になると頻繁に登場する、この2つの概念とはどのようなものなのでしょうか? そして、その明確な違いはどこにあるのでしょうか?
ディープラーニングと機械学習の関係
ディープラーニングと機械学習の違いを手っ取り早く把握するには、ディープラーニングが機械学習の一種であるということを理解しましょう。
より厳密に言えば、ディープラーニングは機械学習の発展形であると捉えられており、プログラムで制御可能なニューラルネットワークを使って、機械が人間の手を借りずに正確な判断を下せるようにします。
とは言え、機械学習という言葉の定義からきちんと確認していきましょう。
機械学習とは
機械学習はAI技術の一種であり、データを解析し、そのデータから学習した内容を応用して、十分な情報に基づく判断を下すアルゴリズムを含みます。
機械学習アルゴリズムの身近な例としては、オンデマンドの音楽ストリーミングサービスが挙げられます。ユーザーに新しく勧める楽曲やアーティストを判断できるように、ストリーミングサービスの機械学習アルゴリズムは、各ユーザーを音楽の好みが似ている他のユーザーと関連付けます。こうした手法は、単に「AI」という名前で宣伝されることが多く、お勧めコンテンツの自動表示機能を搭載した多くのサービスで利用されています。
機械学習は、データセキュリティ企業がマルウェアを追跡したり、金融のプロフェッショナルが有利な取引の発生時に通知を受け取れるように設定したりするなど、さまざまな業界で多種多様なタスクの自動化に活用されています。機械学習のアルゴリズムは、継続的に学習するようにプログラミングされており、さながらバーチャルな秘書のような役割を果たします。これはまさにAIの得意分野です。
機械学習には、複雑な計算とコーディングが大量に含まれており、最終的にはこれらが懐中電灯や自動車、あるいはパソコンの画面と同じように、何らかの機械的な機能を担います。ある製品が「機械学習に対応している」と謳われている場合、その製品は与えられたデータを使って何らかの機能を果たすと共に、時間が経つにつれてその精度を向上させています。たとえば、機械学習に対応した懐中電灯があり、「暗いね」と声に出すと点灯する場合、その懐中電灯は「暗い」という単語を含むさまざまなフレーズを認識していることになります。
さて、機械が新しい機能を学習する方法として、ディープラーニングやディープニューラルネットワークを活用するようになると、話はさらに面白くなってきます。
ディープラーニングとは
ディープラーニングは機械学習の一種であり、アルゴリズムを階層構造にして、「人工ニューラルネットワーク」を構築します。このニューラルネットワークは、学習とインテリジェントな判断を自分で行うことができます。
ディープラーニングと機械学習の違い
端的に言えば、ディープラーニングは機械学習の一種にすぎません。と言うより、ディープラーニングは機械学習そのものであり、働きもよく似ています(だからこそ、この2つの区別が正確でない場合があるのです)。しかし、その性能には明確な違いがあります。
基本的な機械学習モデルの場合、与えられた機能が何であるかによらず、精度は徐々に向上していくものの、人間による一定の指示が必要なのは変わりません。AIアルゴリズムが不正確な予測を返してきた場合、エンジニアが介入して調整を行う必要が出てきます。一方、ディープラーニングモデルの場合、アルゴリズムが自分自身のニューラルネットワークを使用して、予測が正確かどうかを自分で判断します。
先ほどの懐中電灯の例でもう一度考えてみましょう。この懐中電灯は、だれかが「暗い」という言葉を声に出すと、それに反応して点灯するようにプログラムされており、学習を継続していくと、最終的には「暗い」という言葉が含まれているあらゆるフレーズに反応して点灯するようになる可能性があります。しかし、この懐中電灯にディープラーニングモデルが搭載されていれば、光センサーとの連動などにより、「何も見えない」や「電気のスイッチが入らない」といった声にも反応して点灯すべきだと学習します。このように、ディープラーニングモデルは自分で自分の計算能力を使用して学習を行います。その様子は、まるで自分の脳を持っているかのように見えます。
ディープラーニングの仕組み
ディープラーニングモデルは、人間が結論を導くのと同様の論理構造を用いて、データを絶えず分析するよう設計されています。そして、これを実現するために、ディープラーニングのアプリケーションでは、人工ニューラルネットワークと呼ばれる階層構造のアルゴリズムを使用します。人工ニューラルネットワークの設計は、人間の脳の神経ネットワークをヒントにしたもので、標準的な機械学習モデルと比べて学習プロセスの精度がはるかに高くなります。
ディープラーニングモデルが不正確な結論を導き出さないようにするのは容易なことではありません。AIの他の活用例と同様に、学習プロセスの精度を高めるにはトレーニングを重ねることが必要です。しかし、想定どおりに機能すれば、ディープラーニングは科学的な偉業であり、本当の意味での「人工知能」を実現する基盤になると考える人も少なくありません。
ディープラーニングの好例としては、Googleの「AlphaGo」が挙げられます。Googleは、独自のニューラルネットワークを搭載したコンピュータープログラムを開発し、鋭い知性と直感が求められる囲碁の打ち方を学習させました。その結果、AlphaGoのディープラーニングモデルは、プロ棋士との対局を通じて、従来のAIでは考えられなかった高度な打ち方を身につけました。しかも、各局面でどのような手を打つべきかについて、指示を受ける必要もありませんでした(標準的な機械学習モデルであれば、これが必要になります)。そして、AlphaGoが世界的に有名な囲碁の名人を何人も打ち負かすと、大きな旋風が吹き荒れました。機械が囲碁の複雑な技法や抽象的な側面を理解しただけでなく、トップ棋士の仲間入りを果たしたのです。
ディープラーニングと機械学習の違いをまとめると、次のようになります
機械学習では、アルゴリズムを使用してデータを解析し、そのデータから学習した内容を基に、十分な情報に基づく判断を下します。
ディープラーニングでは、アルゴリズムを階層構造にして、「人工ニューラルネットワーク」を構築します。このニューラルネットワークは、学習とインテリジェントな判断を自分で行うことができます。
ディープラーニングは機械学習の一種であり、どちらもAIという大きなカテゴリーに分類されるのは共通していますが、ディープラーニングは最も人間に近いAIの基盤となります。
データは未来を切り開くための「燃料」
ビッグデータ時代の到来により、膨大な量のデータが生成されるようになったことで、今はまだ予想もつかないイノベーションがこれから起こるのは確実です。しかも、それは今後10年以内に起こる可能性もあります。専門家によると、こうしたイノベーションの一部は、ディープラーニングのアプリケーションになる可能性が高いそうです。
中国の大手検索エンジン「Baidu」のチーフサイエンティストであり、Google Brain Projectのリーダーの一人であるAndrew Ng氏は、雑誌「WIRED」に掲載されたインタビューの中で、ジャーナリストのCaleb Garling氏に対し、ディープラーニングのたとえ話として次のような秀逸な回答をしています。「AIの開発は、ロケットの建造とよく似ています。ロケットには巨大なエンジンと大量の燃料が必要です。エンジンが大きくても燃料が少なければ、ロケットを航行させることはできません。また、燃料が大量にあっても、エンジンが小さければ離陸することもできません。ロケットを建造するには、巨大なエンジンと大量の燃料の両方が必要になるわけです」
「ディープラーニングをロケットにたとえると、ディープラーニングモデルはロケットのエンジンであり、アルゴリズムに供給する大量のデータが燃料ということになります」
– Andrew Ng氏(出典:WIRED)
ディープラーニングと機械学習がカスタマーサービスにもたらすメリット
現在、カスタマーサービスに利用されているAIアプリケーションの多くには、機械学習アルゴリズムが搭載されており、セルフサービス型サポートの提供、担当者の業務効率化、ワークフローの信頼性向上などに活用されています。
機械学習アルゴリズムに供給されるデータは、顧客から常に寄せられている問い合わせに由来するもので、その中には顧客が直面している問題の状況に関する情報が含まれます。その情報を集めてAIアプリケーションに与えれば、予測スピードと正確性の向上が見込めることから、多くの企業はAIに期待を寄せています。ビジネスリーダーの間では、ビジネス関連のAIの中で最も実用的なアプリケーションはカスタマーサービス向けのものになると予測する声も挙がっています。
ディープラーニングの技術が向上していけば、カスタマーサービス向けのAIアプリケーションがさらに進化していくことでしょう。その絶好の例が、ZendeskのAnswer Botです。Answer Botはディープラーニングモデルが組み込まれており、サポートチケットが作成された状況を理解して、顧客に紹介するのに適切なヘルプ記事を自動的に判断することができます。