ナレッジコンテンツの活用方法は企業によって違っていますが、セルフサービス型のサポートがカスタマーエクスペリエンスの満足度を左右するポイントである、という認識は高まってきています。
Forrester社の調査では、76%の顧客がメールや電話よりもセルフサービス型のサポートを好むことが判明しました。さらに顧客の半数以上は、疑問に対する回答がすぐに見つけられないと購入をやめてしまう、という結果が出ています。
セルフサービス型サポートの重要性を踏まえた上で、企業はどのようなサポートを提供していく必要があるのでしょうか?
その問いへの答えを探るため、Zendeskのベンチマークに参加している4万5,000以上の顧客企業から500のヘルプセンターのサンプルを抽出し、優れたヘルプセンターがどう他社と異なっているのか調査しました。ヘルプセンターの品質に関する指標に基づいて分析すると、ヘルプセンターを構築するためのベストプラクティスと、企業がどのようにアプローチを積み重ね、顧客や業界をターゲティングすればいいのかが見えてきました。
3つの異なるヘルプセンターのタイプ
ヘルプセンターを立ち上げて運用するにあたり、企業が優先すべき点は何でしょうか。とにかく早くヘルプセンターを開設する、幅広いトピックをカバーする、エージェントと顧客とのやりとりをできるだけ少なくするなど、いくつか目指したいポイントがあるかと思います。
Zendeskがベンチマークのサンプルからクラスター分析をしたところ、ヘルプセンターの構築方法は、3つのタイプに分類できることが明らかになりました。
1. アジャイル型のヘルプセンター
このタイプに分類される企業は、前のめりなアプローチでヘルプセンターの構築に着手しています。まず一般的なFAQの記事をいくつか作成し、それからコンテンツを徐々に増やしています。
最も多く検索されたコンテンツを元にヘルプセンターを立ち上げることによって、最小限の投資で顧客の疑問に答えており、継続的なメンテナンスと定期的なコンテンツアップデートのサイクルによりナレッジを着実に増やすと共に質の向上もはかっています。
2. 最初からコンテンツをたくさん用意する!でもそのあとのアップデートは・・・?
このタイプの企業は、これまでに積み重ねてきた社内ナレッジを重要視しています。最初に多くのコンテンツを準備する一方で、ヘルプセンター開設後は情報のアップデートをおろそかにしてしまいがちです。
このような場合には、既存のヘルプセンターから過去の記事を引き出して有効活用することで、エージェントは顧客からの問い合わせを解決することに集中できます。しかし最初に準備されたコンテンツが十分でない場合、定期的にアップデートしなければ、公開されたコンテンツもすぐに古いものになってしまいます。
3.完璧なヘルプセンターを最初から目指してしまうと?
このタイプの企業は、公開前に、顧客から見て完璧と思える完成されたヘルプセンターを作ろうとします。事前に何百もの記事を精査し、オープンと同時に全てを公開しようとするのです。
サービス開始のスケジュールを遅らせるほど、企業はより適切な記事を選別し、想定外の質問にも答えられるような記事を用意できるかもしれません。しかし同時に、新しい記事を作る機会を逸し、公開記事への関心も時間の経過と共に薄らぐ可能性があります。
アジャイル開発で、包括的なサポート構築を目指しましょう
これら3タイプのうち、どの企業がセルフサービス型のサポートを牽引していくでしょうか?
アジャイル型の企業は継続してセルフサービスの開発とメンテナンスを行うので、図の指標は高いスコアを示しています。これは、ヘルプセンターで検索する人が多く、セフルサービス率が高いことを意味します。
アジャイル型でヘルプセンターを運用する企業におけるセルフサービスの割合は他の2つのグループを上回ります。セルフサービスの割合とは、チケットの量に対するセルフサービスの閲覧数を指します。Zendeskではこの指標を通じて、ヘルプセンターがどれくらいチケットの削減に対して貢献しているか、どれくらい顧客のニーズに応えているかを判断しています。それぞれの中央値を見ると、アジャイル型の企業は4.4、アップデートがほとんどない企業は2.4、完璧主義な企業は2.9となっています。
関連記事が検索結果によく出てくる、というのもアジャイル型企業のヘルプセンターの特徴です。「検索結果なし」と表示される割合が、アジャイル型では29%なのに対して、他2つの型の企業では40%以上となりました。
アジャイル型企業にはもう一つの特徴があります。記事を作るのにチーム内でより広くナレッジを共有することにフォーカスし、効果的な記事を作成しようとする傾向がある点です。アジャイル型企業には5.4人の記事作成者がいるのに対し、アップデートがほとんどない企業は2.4人、完璧主義な企業は3.6人となっています。
こうしたアジャイル型企業の特徴について分析したところ、その半数以上がBtoB企業であるということが分かりました。企業を顧客とするBtoB企業が、この”優等生“グループの大半を占めているのです。
3つのグループのうちどこに属していたかに関係なく、BtoB企業のセルフサービスの割合平均は4.1で、BtoC企業の2.9、社内で利用しているケースの2.2ポイントを大きく上回っていました。また、カテゴリ、セクション、記事の数も多い、総合的なヘルプセンターを構築していました。特に記事の数ではBtoC企業より25%も多く、社内利用のケースにいたってはその2倍の記事を用意していることが分かりました。
どれだけ総合的なヘルプセンターを構築できているかは、業界別のヘルプセンターの品質ランキングにも関係があります。セルフサービスの割合と記事数の平均ともに高いのは、Webホスティングサービス業、製造業、ソフトウェア業界です。一方、エネルギー、観光、小売業界はセルフサービスの割合が低く、記事数も平均を下回っています。
ヘルプセンターを目立たせる方法
セルフサービスへの投資がカスタマーエクスペリエンスの劇的な向上に繋がることは明らかです。ナレッジコンテンツは、顧客を直接サポートするだけでなく、顧客が最終的にサポートへ問い合わせをしなければならなくなった時にも役に立ちます。ナレッジコンテンツのリンクが貼られた問い合わせでは、やりとりの時間が23%が減り、チケットの再オープン率は20%も削減。一方で、CSATスコアは2%向上するという結果が得られています。
高い成果を出すセルフサービスを運営する企業では、コンテンツが顧客のニーズを満たしていることを確認するための共通戦略があるようです。
1. ヘルプセンターは、問い合わせTOP5の記事から始める
Zendesk ベンチマークのデータによると、毎日閲覧されている記事のうち約40%を、閲覧数トップ5の記事が占めています。アジャイル型企業に習って、まずはよくあるお問い合わせに答える内容の記事から始め、その後、より細かな質問への回答を作っていくとよいでしょう。
よくあるお問い合わせTOP5をカバーした後は、よくある質問のカテゴリを作っていくのがお勧めです。というのは、各カテゴリにおいてトップ3に入る記事が、デイリー閲覧数の50%超を占めているからです。
それでは、どのトピックから手をつければよいのでしょうか? Zendeskのチケットフィールドはどのカテゴリの問い合わせが多いのかをトラックできる機能です。この機能を使えば、顧客が頻繁に問い合わせをしてくるトピックを確認し、ヘルプセンターに必要なコンテンツを組み立てていくことができます。
さらに、Guide Enterpriseに追加されたコンテンツキュー機能(現在、英語対応のみ)を使えば、ナレッジコンテンツのどこにギャップがあるかを知ることができ、また、次にどのようなコンテンツを作るべきかをAIが予測してくれます。
2. ヘルプセンターを分割する
最良のヘルプセンターの構築には、コンテンツ作成の権限を持つエージェントが不可欠です。様々な企業の例から、エージェントの専門分野を特定し、そのエージェントに適したコンテンツを作成するよう分担するのがお勧めです。理想としては公開前に少なくとも2人以上からレビューをしてもらいましょう。
エージェントに記事を書いてもらうと、顧客のニーズに対してエージェントが持っている独特の考えを活用できるようになります。なぜなら、エージェントこそが顧客と実際にやりとりをしているのであり、体系化された知識に基づいて顧客に最適な情報は何かを常に考えているからです。だからこそエージェントはセルフサービスのコンテンツと顧客ニーズとのギャップに気づくことができるのです。
ナレッジコンテンツを段階的に作るために、承認と公開のワークフローも活用してみてください。制作からレビュー、公開までのフローを効率化することができます。Guide EnterpriseのTeam Publishing機能を使うと、マネージャーが記事のアップデート業務にエージェントのメンバーをアサインできるので、どの記事に着手すればよいかをメンバーに明示できます。
3. エージェント同士の連携と自動化に注力してみる
Riot Gamesは、ヘルプセンターの構築に際してエージェント同士がうまく連携できている企業で、平均5.6人のエージェントが各記事の制作に関わっています。世界中にあるサポートチームには500人以上のエージェントがおり、毎年300万件を超えるサポートチケットが届きます。
エージェント同士の連携によって進化を続ける総合的なヘルプセンターのおかげで、Riot Gamesは自動化を活用しながら顧客への適切な記事と回答の提供を可能にしています。同社はカスタムビルドアプリとAnswer Botを用いて顧客の待ち時間を削減したり、エージェント間のたらい回しを防いだりしています。
こうした連携や自動化を実現できる簡単なプラグインを求めている企業にとって、Zendeskのナレッジキャプチャーアプリはカスタマーエクスペリエンスのコンテンツ作成に有効な手段となります。この機能を使うと、チケット対応画面上でヘルプセンターを探したり、チケットコメントに関連記事のリンクを追加したりできるだけでなく、チケットに返答している間に新しい記事を書くこともできます。
今回のベンチマーク調査について
今回の調査では、Zendeskのベンチマークの中から毎月少なくとも300以上の閲覧数がある500のヘルプセンターを無作為に選び、どのように記事を追加しているかを調べました。
ヘルプセンターが開設されてからの日数や記事数を平準化し、ヘルプセンターごとに時系列分析を行い、同じような手法をとっている企業を階層的にクラスター分析をしました。最終的に運用上の指標を用いて、クラスターごとに比較・評価を行っています。
Zendeskベンチマークでは、140カ国、4万5000のカスタマーサポート関するデータを使用しています。Zendeskをご利用の企業は、アカウント設定で「ベンチマーク」を選択すると、比較結果を確認することができます。Zendeskでは今後も、オムニチャネルに関するベンチマーク調査や、エンタープライズの顧客に関する調査などを発表していく予定です。