どんな企業にも、マーケティング、ソーシャルメディア、ブランドに関する戦略の合わせ技で、涙ぐましい努力を重ねて獲得、維持してきた顧客ベースがあります。顧客の信頼を勝ちとるには多大な時間と労力が(それに資金も)かかるのですから、そこまでして得た顧客を手放したくないと考えるのは当然のことです。そこで力を入れるべきなのがカスタマーリテンション(顧客維持)です。
顧客維持率を向上させるには、カスタマーエクスペリエンス全体に気を配ることが大切です。カスタマーエクスペリエンスには、顧客が企業と初めてやり取りしたときに考えたことや感じたことのすべてが影響します。そのため、シームレスなエクスペリエンスを提供して、終始スムーズにサポートを進めていければ、顧客を維持できる可能性は高まるでしょう。しかし、期待に応えられなかった場合には、関係を修復する間もなく顧客は離れていってしまうかもしれません。
以下では、カスタマーリテンションとその重要性について説明したうえで、維持率を向上させるための戦略をご紹介します。
カスタマーリテンションとは
カスタマーリテンションとは、企業が長期間にわたって顧客を維持するために、既存顧客を定着させようと良好な関係づくりに励むことを指します。カスタマーリテンションはパフォーマンス指標として捉えることもでき、製品やサービスの品質で顧客の満足度をいかに維持できているかを示します。
当然ながら、カスタマーリテンションはカスタマーエクスペリエンスに左右されます。ここで言うカスタマーエクスペリエンスには、顧客が企業に抱くイメージや感情に影響したものすべてが含まれます。顧客との関係構築に影響を与えるのは、サポートチケットをいかに解決したか、ブランドバリューをいかに体現したかといった顧客との直接のやり取りだけとは限らないのです。
新規顧客の獲得やリードの創出とは異なり、カスタマーリテンションで対象となるのは、既にサービスを契約したり、商品を購入したりして、企業と取引したことがある顧客に絞られます。
ただし、顧客を維持するうえで重視すべきなのは取引だけではありません。顧客との関係構築も重要です。実際、顧客は企業との関係を友人との関係と同様に捉えているという調査結果も出ています。既存顧客との関係構築に注力することで、リピーターをロイヤルティの高い顧客に育て上げ、さまざまな選択肢がある中でも常に自社のブランドを選んでもらえるようになります。このように長期的な関係を築くことが、市場の変化に左右されないブランドロイヤルティを育むためのカギとなります。
次のセクションでは、カスタマーリテンション戦略が顧客だけでなく企業にもたらすポジティブな影響について説明します。
カスタマーリテンションの重要性
一般的に、既存顧客の満足度を高めるための施策は、新規顧客を獲得するための施策よりもコストパフォーマンスに優れています。既存顧客には取引の実績があり、企業に対して既に一定の信頼感を持っているため、新規顧客よりもコンバージョンの可能性が高いからです。一方、初めての取引につなげるにはより強い説得力が求められます。Harvard Business Reviewの記事でも、新規顧客を獲得するには、既存顧客の維持にかかる5~25倍の費用が必要になるというデータが紹介されています。
さらに顧客のロイヤルティも向上できれば、顧客が友人や家族に口コミを広めてくれることが期待できるため、さらなる追い風となります。顧客ロイヤルティを向上させて長期的な成功を手にする方法については、こちらのブログ記事をご覧ください。
維持率と解約率
リテンションに関する取り組みの成果を測定するには、主に維持率と解約率という2つの指標に着目して、自社が提供するカスタマーサービスの品質を把握します。維持率が、一定期間中にブランドへのロイヤルティを保っていた既存顧客の割合を指すのに対し、解約率は、一定期間中にブランドから離れていった顧客の割合を指します。
維持率が低い、または解約率が高い場合は、カスタマーエクスペリエンスに何らかの問題がある可能性があります。これらのリテンションに関する指標をモニタリングすることで、顧客に提供しているカスタマーサービス全体の品質を把握することができます。目指すべきは以下の2つです。
維持率を上げる
解約率を下げる
維持率を上げるには
顧客を維持するには、カスタマージャーニーのあらゆる段階で、できる限り良質なカスタマーエクスペリエンスを提供しなければなりません。自社にオンラインショップがある場合は、Webサイトの作りをわかりやすくすることも重要です。特に顧客が問題に直面したときに、すぐに質問できるような仕組みを整える必要があります。顧客はそうした場面で、長々と待たされたり、別のチャネルに移動したりすることなく、すばやく効果的なサポートを受けられることを望んでいます。実際、ZendeskがDimensional Researchと共同で行った調査では、顧客の89%が、購入先を決めるときに初回の問い合わせへのレスポンスの速さを考慮すると回答しています。つまり、応答時間の短縮は、カスタマーリテンション戦略として力を入れるべきポイントの1つということです。
また、オムニチャネルのサポート体制を整えるのもお勧めです。メールなどの従来のプラットフォームや、より緊密にやり取りできるLINEをはじめとしたメッセージアプリなど、さまざまなチャネルですばやく応答することが可能になります。
顧客が商品を購入してくれたら、感謝の気持ちを示すことも大切です。手っ取り早い方法としては、サンキューメールを送るというのがあります。このとき、同時に顧客満足度(CSAT)調査を行って、カスタマーエクスペリエンスに対するフィードバックを募るのも手です。その他、次回の購入時に使える限定の割引コードを送ったり、継続的な購入を促すロイヤルティプログラムへの加入を呼びかけたりするのもよいでしょう。
解約率を下げるには
もう1つの課題は、顧客の解約を防ぐこと、つまり競合ブランドに顧客をとられないようにすることです。顧客が解約に至る理由はさまざまです。他社の方がコストを抑えられる、店舗に欲しい商品が揃っていなかったなどの理由のほか、カスタマーエクスペリエンスの品質が低かったというのが理由のケースもあります。たとえば、商品が遅れて届いたり、配送中に損傷していたりしたら、ブランドイメージの低下につながりかねません。同様に、サポート対応が適切でないと、顧客との関係が悪化し、顧客ロイヤルティの低下を招くだけでなく、次の購入の機会を他社に奪われてしまうかもしれません。実際、「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」によると、不快な対応を一度でも受けたら競合ブランドに乗り換えると回答した顧客の割合は、約半数にのぼります。
このように、解約率を下げるうえでも、カスタマーエクスペリエンスは重要な要素となります。カスタマーエクスペリエンスを損なう要因を解消できれば、顧客離れも阻止できるはずです。たとえば、顧客からよく寄せられる苦情の1つに、企業に連絡するたびに何度も同じ説明を求められるというのがあります。ここでお勧めなのがZendesk Support Suiteです。Zendesk Support Suiteを使えば、連絡先を含む顧客のあらゆる情報を把握できるため、どの段階でも顧客1人ひとりに合わせてシームレスなエクスペリエンスを提供することができます。
カスタマーリテンションに効果的な6つのベストプラクティス
1. 問い合わせへの応答速度を上げる
データでもはっきりしているように、初回返信時間が速いほど、顧客の満足度は向上します。まずは問題解決までの想定所要時間と共に、顧客からのリクエストを受理したことを知らせるだけでも、既に対応に取りかかっていることが伝われば、顧客に良い印象を与えることができます。
2. 個々の状況に応じて適したサポートを提供する
何度も同じ説明を繰り返さなければならないと、顧客はストレスを感じます。顧客とスムーズにやり取りできるツールを導入して、その顧客の状況に適したエクスペリエンスを提供すれば、顧客にリピーターになってもらえる可能性が高まります。
3. カスタマーサービスワークフローを改善する
サポート担当者の業務環境を改善すると、顧客にも良い効果があります。フォームや条件設定フィールドを適切に活用して、カスタマーサービスワークフローを簡素化すれば、サポートチケット(問い合わせ)を分類しやすくなり、最適な部門や担当者に割り当てることができます。その結果、高品質でスピーディなカスタマーエクスペリエンスを実現できるようになります。
4. オムニチャネルサポートを提供して顧客の利便性を高める
オムニチャネルのサポート体制を確立すれば、顧客に余計な手間をかけずにやり取りを進めることができます。サポートチャネルの種類は1つや2つに制限せず、電話、チャット、メール、ソーシャルメディアなどから、顧客が自由にチャネルを選べるようにしましょう。問い合わせ時の手間が少なくなれば、顧客ロイヤルティの向上も期待できます。
5. 顧客からのフィードバックを継続的に収集する
顧客にアンケートを実施したり、カスタマーサービスチームからフィードバックを収集したりして、常に顧客の声に耳を傾けましょう。顧客からのフィードバックは、維持率を上げ、解約率を下げるうえで大いに役立ちますが、有益なインサイトを得るには、顧客に直接意見をたずねるのが一番です。
6. 顧客ロイヤルティを高めるための施策を実施する
ロイヤルティプログラム、割引コード、特別オファーなどのインセンティブ(特典)は、顧客の心をくすぐり、次の購入につなげやすくします。このような戦略はすぐに目に見える成果をもたらしますが、これと同時に、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供したり、ブランドバリューを実践したりして、こつこつと誠意を尽くすことも重要です。この両面の取り組みを通して、リピーターをロイヤルティの高い顧客に育てることができます。
顧客を維持し、ロイヤルティを育むことは、一夜にして成し得ることではありません。顧客と良好な関係を築き、信頼を得るまでには、多大な時間と労力がかかります。信頼獲得への一番の近道は、終始一貫して優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することです。期待以上のすばらしいサポートを実現できれば、顧客の生活はより快適で豊かなものに変わっていくはずです。