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カスタマージャーニーマップ(CXマップ)の作成前に考えておきたい8つのこと
優れたカスタマーエクスペリエンスの提供に必要なインサイトにあふれたCXマップを作成するための方法をご紹介します。
更新日: 2024年2月22日
多くのカスタマーエクスペリエンス(CX)リーダーは、根本的な問いを立てることもなく、いきなりCXマップの作成に着手してしまいがちです。そうなると、自社のCXについて誤った理解が生まれ、顧客とスムーズにコミュニケーションがとれなかったり、勝手な思い込みで的外れな対応を行ってしまったりします。
これは現実にも悪い影響を及ぼしています。Acquiaによる調査では、顧客の90%が、多くの場合、企業が提供するCXの品質は期待を下回っていると回答しています。一方で、マーケターの82%は顧客の期待に応えられていると考えています。
顧客との間のこの大きな認識の隔たりを埋めるには、的確なCXマップが必要不可欠です。
Zendeskでは、CXマップの作成や改善に継続的に取り組んでいます。その取り組みを率先しているのが、アドボカシートレーニング&品質保証部門ディレクターのHolly Vande Walleです。
「カスタマージャーニーマップの作成は非常に重要です。たとえ同じセグメントに属していても、お客様はそれぞれ大きく異なるからです。Zendeskでは、大企業、中規模企業、小規模企業、スタートアップの各レベル向けのCXマップを作成したうえで、それぞれの違いを認識し、問題の解決や管理に対応できる人員がどれだけいるかを把握しています」
Holly Vande Walle
Vande Walleは、マップ作成に関して多くのインサイトを導き出しました。特に大きな発見だったのが、「適切な問いを立てれば、顧客やチームからきわめて正確なデータを得られる」ということです。
Vande Walleは次のように話します。「何事も、顧客とサポート担当者の両方の視点からバランス良く考えるようにしています。これには、きわめて繊細なバランス感覚が必要です」
CXマップの作成に取りかかる前に、その目標、対象、プロセスに関する以下の8つの問いについて考えてみましょう。そうすれば、意義深く有用なCXマップを作成するためのカギが見つかり、顧客の視点から自社を捉えられるようになるはずです。
1.目的は?
CXマップの定義についてはよく理解していても、それを自社で作成する目的ははっきりしているでしょうか。
顧客対応で共感力を発揮できるようにするため、あるいは最新の顧客調査に基づくインサイトをチームで共有するためなど、その目的は企業によって異なります。中には、既存のプロセスを改善するためのヒントや、新しい製品やサービスのアイデアを得るために作成するケースもあります。
ポイント:CXマップ作成の目的を明確にする
目的を明確にするには、マップによって達成したい目標、解決したい課題、マップが必要な理由を考えてみましょう。
目的がはっきりすれば、マップに含めるべき要素も見えてくるはずです。
2.利用場面は?
ちょうど衛星地図が現時点での天気や交通状況を教えてくれるように、CXをリアルタイムで把握する必要がある場合は、リアルタイムドキュメントとして使える動的CXマップの作成を検討しましょう。
このマップは、最終成果よりもプロセスが重視される戦略構築ワークショップのような場で利用できます。教育の一環として、チームメンバーに詳細を記入してもらってもよいでしょう。あるいは、CXリーダー向けのダッシュボードとして活用し、CXの品質評価や改善方法の検討に役立てることもできます。
Zendesk Exploreのドラッグ&ドロップ操作対応のダッシュボードを、リアルタイムの動的CXマップとして利用した例
リアルタイムドキュメントを作成したい場合は、新しく収集してきたデータに合わせて簡単に変更できるオープンフォーマットのマップを作成する必要があるでしょう。一方、CXに関する視覚資料を社内で共有したいなら、静的CXマップの方が適しています。
静的CXマップは、できるだけ多くの詳細を含めつつ、ひと目で理解しやすいものにすることが重要です。細かなインタラクションを取り上げるのではなく、俯瞰的な視点を反映させましょう。デザインのプロに依頼して、データをわかりやすく視覚化してもらうのもお勧めです。
例:Diego Bernardo氏による静的マップ「The Journey of Diabetes(糖尿病のプロセス)」。糖尿病患者の症状自覚から診断、治療までが医療システムの流れに沿って描かれている。
静的CXマップは、スライド資料、チームの研修資料、会議での参考用ポスターなどに利用できます。
ポイント:CXマップの利用場面を明らかにする
社内でCXマップを使う場面がわかれば、それに合った形式を考えられます。
3.利用者は?
マップが社外の関係者 に利用される場合、自社を外側から捉えなければなりません。社外の関係者は、製品、サービス、内部プロセスに通じていないため、より詳細な情報が必要です。たとえば営業研修コンサルタントなら、セルフサービス型の営業プロセスと比べて、ハイタッチ型の営業プロセスではCXがどのように変化するのか、またなぜそのような変化が起こるのかをマップから理解できる必要があります。
一方、社内の関係者に利用される場合は、顧客とのインタラクションを内側からの視点で描き出す必要があります。各従業員が、自分たちが直接かかわっていないCXプロセスについて多くを知れるようにすることが重要です。たとえば営業チームなら、どうしても営業プロセスを中心にCXを捉えがちです。しかし、顧客の視点を軸にしたマップによって、営業の前に発生するマーケティングプロセスでのあらゆるインタラクションが理解できれば、営業チームの視野は広がるはずです。
ポイント:CXマップの利用者を特定する
CXマップは、顧客の視点から捉えた自社の姿です。マップの利用者をはっきりさせて、含めるべき情報を絞り込むことで、マップの核となるメッセージが明確になり、実用的なインサイトを引き出せるようになります。
4.使用すべきデータは?
マップの対象が決まれば、必要なデータの種類や粒度も見えてきます。CXマップは主に次の3つの種類に分けられ、それぞれにフォーカスレベルが異なります。
1)インベントリーマップ – 顧客とのあらゆるタッチポイントを把握したい場合に最適です。このマップは世界地図のようなもので、CX全体を鳥瞰することができます。この場合、各タッチポイントは大陸にあたります。以下に掲載したStarbucksの例のように、マップが非常に動的で拡大可能であるなら別ですが、通常はこの形式だと、個々のタッチポイントについて事細かに把握することは困難です。
例: 「Starbucks Experience Map(StarbucksのCXマップ)」。 顧客が店舗を訪れる際のあらゆるタッチポイントとインタラクションが網羅されている。
2)アクティビティマップ – 特定のタッチポイントにおける顧客とのインタラクションを把握、分析、改善したい場合に最適です。世界地図のようなインベントリーマップに対して、このマップは道路地図のようなものです。自社と顧客の歩みが交わる「交差点」の位置や、適切なデータを基に「渋滞」(質の低いCXなど)が起きていないかも確認できます。
例:政府機関による身分証の入手に関するアクティビティマップ [出典]
3)データ収集マップ – 各タッチポイントでの顧客データの収集方法を理解したい、あるいはより適切な収集方法を検討したい場合は、データ収集マップを作成すると、そうした情報がひと目で把握できます。これは都市計画地図のようなもので、CXを支えるインフラに焦点が当てられています。このマップ単体では顧客に関するインサイトは得られないため、アクティビティマップやインベントリーマップと併用するのがお勧めです。
例:BtoB企業が顧客データやフィードバックを収集するタッチポイントを簡潔に表したCXマップ[出典]
ポイント:マップの範囲を設定する
自社のCXを明確に描き出すには、どれくらいのデータが必要になるでしょうか? 早いうちにマップの範囲を定めておけば、収集すべきデータも明らかになります。
5. 対象とする顧客は?
顧客の期待や成果は、顧客の規模やそのバックグラウンドによって変わってきます。顧客の違いを理解することで、マップはより正確で的を射たものになります。
顧客の規模や文化を理解する
Zendeskは当初、主に小規模企業へのサービス提供から始まり、今では大企業をサポートするまでに成長しました。その過程で学んだのが、お客様の規模ごとにエクスペリエンスマップを作成することの重要性です。
Vande Walleは次のように述べています。「お客様にアプリの修正や作成を提案したときの反応は、企業の規模によってまったく異なります。大企業だと、意思決定までに非常に煩雑な手続きが必要になるでしょうが、個人経営の企業の場合は即座に反応が返ってきます」
さらに、規模の違いだけでなく、文化から来る違いも考慮する必要があります。Vande Walleは今、ナレッジベースとヘルプコンテンツに関するCXについて、各国で見られる違いを調査するチームを率いています。CXの向上は、単に言語を翻訳して終わることではありません。
「日本の顧客とドイツの顧客ではニーズが異なることも考慮しなければなりません。単に言語が違うだけではないのです。言語が違えば、顧客の反応も変わってきます」(Vande Walle)
既存顧客と見込み客を分けて考える
顧客とどの程度関係を深めているかも、顧客が各インタラクションをどう捉えるかに影響する要素です。
自社のWebサイトや店舗を始めて訪れる顧客は、そうしたインタラクションに対し、古くからのなじみの顧客とは違う捉え方をします。同様に、見込み客と長い付き合いの顧客とでは、営業担当者に期待することは変わってくるでしょう。
顧客ペルソナを設定する
顧客ペルソナという言葉はご存知でしょう。顧客の購買意思を左右する内外の要因を理解するためにマーケターによく利用される手法の1つで、CXマップ作成のような取り組みで役立ちます。
小売、eコマース、BtoCソフトウェアのCXマップを作成する場合は、個人の顧客をペルソナとして設定したカスタマージャーニーを作成するとよいでしょう。一方、BtoB製品のCXマップを作成する場合は、購買の意思決定権を持つグループメンバーのペルソナをそれぞれ設定し、各メンバーがインタラクションにどのような影響を与えるかを検討しましょう。
ポイント:対象とする顧客を明確にする
6.データの入手先は?
CXマップの作成を成功させるには、社内での連携が欠かせません。これを機に、多くのCXの取り組みを妨げている サイロ化された企業体制を是正しましょう。部門や役職を問わず、さまざまな従業員に協力してもらうことで、マップ作成チームは、多くの知識を共有し合える貴重なコミュニティとなるはずです。
CXリーダーの46%は、複数の関係者がかかわれば、CXマップの作成プロセスは「良い方向に進む」と答えています。さらにZendesk Exploreのようなツールを使えば、チーム内でインサイトをリアルタイムで共有することもできるのですから、多くのメンバーを巻き込まない手はありません。
ポイント:CXマップ作成に必要なデータの入手先を把握する
CXマップ作成の専門チームを結成すれば、外部のさまざまなタッチポイントからデータを収集することは簡単ですが、忘れてはならないのは、CXマップの唯一信頼できる情報源は「顧客の視点」であるということです。Zendeskでは、定量データ(例:顧客満足度調査)と定性データ(例:インタビュー、録音された通話、製品へのレビュー)の両方をCXマップ作成に利用しています。
Vande Walleは次のように話します。「我々は、複数人のグループで顧客にインタビューを行い、顧客満足度の高い顧客と低い顧客の両方に対して、その満足度をつけた理由を詳しく聞き出しました」
7.マップからわかることは?
顧客が自社をどのような視点で捉えているのかについて、毎回何かしらの気づきを得られるようなマップを作成できるとよいでしょう。
CustomerThinkは、CXマップの評価基準として以下の3つを挙げています。:
- ブランドプロミスを果たしているか – マップに描かれたエクスペリエンスは、顧客に対する約束を果たしているでしょうか? たとえば、米国の大手自動車保険会社のGEICOなら、有名な宣伝文句どおり、本当に15分以内に契約を済ませることができ、かつ保険料が15%値引きされるようになっていなければなりません。
- 顧客に価値を与えているか – 最終的に顧客が多くの価値を得られるようなエクスペリエンスになっているでしょうか? 各インタラクションで顧客が得られる価値は何でしょう?
- ビジネス成果を得られるか – 顧客獲得(初回購入)、顧客維持(リピート購入)、リファラル(好意的な口コミの拡散)につながるようなエクスペリエンスになっているでしょうか?
ポイント:CXマップを客観的に評価する方法を理解する
顧客の視点は非常に主観的なものですが、各インタラクションの成果とそこから得られる学びは客観的に示せるはずです。
ここまでで挙げてきたシンプルな問いにイエスかノーで答えられない場合は、実際の成果ではなく顧客の感情にばかり着目しすぎて、CXマップを必要以上に複雑にしている可能性があります。
8.どんな成果をもたらすか?
CXマップは、断片的なスナップショットではありません。さまざまな情報が網羅された包括的なダッシュボードで、てこ入れが必要な分野がある場合もすぐに詳細を確認できます。
以下を利用して、CXに関する取り組みの影響を測定しましょう。
- 顧客満足度(CSAT)や顧客努力指標(CES)といった指標を用いれば、顧客のセンチメントや満足度を追跡できます。
- 製品アクティビティ係数(PAC)を利用すると、既存顧客のエンゲージメントを測定できます。
- アダプション、アクセラレーション、アドボカシーについても測定しましょう。こちらのブログ記事でZendeskの事例をご紹介しています。.
- CXのROIにも注目しましょう。費用面でも優れたパフォーマンスを上げたいと考えるのは当然のことです。
ポイント:次に進むべきステップを把握する
CXの成果を具体的に示すための方法や、リアルタイムで新しい取り組みの成果を検証するための方法を検討しましょう。
優れたCXマップは、変化を取り込める信頼性の高い情報源
適切な問いを立てると共に、適切なツールを活用すれば、豊富なインサイトが引き出せる包括的なCXマップを作成することができます。そうすれば、改善すべき点をすばやく見つけ、優先的に対処できるはずです。これにより、企業にとっても顧客にとっても大きな改善がもたらされ、目覚ましい成果につながるでしょう。