Illustrated by Faustine Gheno
世界中で既に始まっていたデジタルファーストへの移行は、ソーシャルディスタンスによって瞬く間に加速しました。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響で、複数のチャネルを通じて顧客とつながることは、もはや企業にとって必須要件となっています。
オムニチャネルのアプローチを取り入れた企業は、ビジネスの成果向上というメリットを得ています。「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート」によれば、オムニチャネル対応のカスタマーサービスを提供する企業は、応答時間や顧客満足度スコアなど、主なカスタマーエクスペリエンス(顧客体験、CX)指標に関して他社よりも優れた結果を達成しています。
一方で、Zendeskの調査によると、カスタマーサービスのオムニチャネル化に対する投資額は、前年比で10%減少していることもわかっています。このギャップから見えてくるのは、企業にはCXの面で他社との競争に打ち勝つ絶好のチャンスがあるということです。実際、2021年の調査では、顧客の半数が1年前よりもCXを重視するようになったと回答しています。
オムニチャネル戦略を成功させるうえでまず大切なのは、オムニチャネルとマルチチャネルの違いを知ることと、その違いが重要である理由を理解することです。さらに、カスタマーサービスのオムニチャネル戦略が、顧客、サポート担当者、そして社内のその他のチームのエクスペリエンス(体験)の向上にいかに役立つかを認識する必要もあります。
目次
オムニチャネル対応のカスタマーサービスとは?
オムニチャネルの定義:オムニチャネルとは、チャネル間を連携し、すべてのチャネルにわたって顧客と一貫したやり取りを行えるようにするためのCX戦略です。
企業は、CX戦略にオムニチャネルのアプローチを採用することで、各種チャネルとそこから得られる顧客の背景情報をすべて1か所に統合できるため、顧客データのサイロ化を解消できます。その結果、使用するチャネルに関係なく、すべてのチームが必要なときに必要な顧客情報を参照できるようになります。
たとえば、顧客がチャットボットを通じてカスタマーサービスに問い合わせを行ってきたとします。オムニチャネルのアプローチを採用していれば、問題の解決に長い時間がかかりそうな場合、回答をメールで受け取るという選択肢を顧客に提示できます。
あるいは、サポート担当者に引き継いで、チャットか電話で会話できるようにすることも可能です。この場合、対応に当たるサポート担当者は、関連する顧客の背景情報を漏れなく参照できるため、顧客が問い合わせ内容を改めて説明する必要はありません。
1つのチャネルから別のチャネルへとやり取りをシームレスに移行できるというのが、オムニチャネル型エクスペリエンスの何よりの特長です。
他の分野で見られるオムニチャネルのアプローチ
オムニチャネル型エクスペリエンスの在り方は、顧客のニーズと期待によってさまざまに異なります。顧客との直接的なコミュニケーション以外にも、オムニチャネルという言葉は小売とマーケティングの分野でも使用されます。具体的な定義は異なるものの、基本的なコンセプトに違いはありません。チャネルに関係なく、一貫したエクスペリエンスを提供することがすべてです。
eコマース企業の中には、SNSおよびモバイルアプリのメッセージなど、自社のWebサイト以外にも商品の購入が可能なチャネルを設けているところもあります。さらには、それぞれの顧客の購入履歴に基づいて、お勧めの商品を提案したり、顧客に合ったお買い得情報を提供したりしている企業もあります。
たとえば皆さんの元に、メールやプッシュ通知で、企業からお気に入りのアイテムのセール情報が届いたとしましょう。皆さんはオンラインでセール品をチェックしましたが、いったんは何も買いませんでした。
その後、Instagramでリターゲティング広告を目にし、もう一度セール品をチェックしてみようという気になりました。今度は商品を購入した皆さん。企業から、注文と出荷の確認に関するSMSが届きました――。これぞまさに、オムニチャネル戦略を用いたマーケティングおよび小売エクスペリエンスの例です。
オムニチャネルとマルチチャネルの違い
多くの企業は、オムニチャネル型のエクスペリエンスを提供していると主張していますが、実際には大半がマルチチャネルに対応しているにすぎません。
- マルチチャネルとは、顧客が使用している各種チャネルを提供していることを意味します。この場合、複数のコミュニケーションチャネルが提供されますが、必ずしもチャネル間が連携されているわけではありません。マルチチャネル対応のカスタマーサービスでは、チャット、電話、SMSといった複数の手段で顧客は問い合わせを行えますが、別のチャネルに会話を引き継ぐことは不可能です。
- オムニチャネルはもう一歩進んだアプローチで、顧客と最初から最後まで一貫性のあるやり取りを行えます。オムニチャネル対応のカスタマーサービスでは、顧客の会話履歴や背景情報がチャネルをまたいでも引き継がれるため、よりパーソナライズされた質の高いサポートを提供できるのが特長です。
普段から顧客が慣れ親しんでいるような体験をカスタマーサービスでも提供するには、顧客の背景情報の入手が欠かせません。顧客の基本情報、問い合わせの経路、過去の会話履歴をきちんと把握できていることが大切になります。
ただし、いくつものコミュニケーションチャネルが連携されないまま運用されている状態では、顧客情報の管理にとてつもない労力がかかります。顧客は、メール、SMS、モバイル、Webチャットといった従来のチャネルに加え、Facebook Messenger、LINE、WhatsAppなどのさまざまなチャットアプリを使用して企業に連絡するようになっているからです。
企業側にしてみれば、多数のチャネルを併用することは不便なように思えますが、ポイントは、各チャネルがそれぞれに違った特長を備えているという点です。オフラインの世界の例で言うと、人の多いバーは最初に会話を始めるには格好の場所かもしれませんが、プライバシーにかかわるような話をしたいのなら、もっと静かな場所に移った方がよいでしょう。つまり、会話の内容によって話をするべき場所は異なるということです。
真のオムニチャネル化とは、相手の背景情報を常に見失うことなく、適切な顧客と適切なチャネルで会話を交わせるようになることを指します。
顧客の背景情報を中心に会話を進める
今日の企業は、扱うトピックに応じて、より適切なチャネルへと会話を移行するためのツールを備えています。企業は、顧客との会話の中でリンクやCTAを提示することで、安全性の高いチャネル、低コストのチャネル、充実した機能を備えているチャネル、あるいは相手にとってより利便性の高いチャネルに顧客を誘導できます。
Zendeskのようなオムニチャネル対応のメッセージングプラットフォームを使用すると、チャットアプリからWebチャット、メールからSMS、SNSから電話など、サポートチームが状況に応じて、会話を適切なチャネルに簡単に移行できます。また、顧客に複数の選択肢を提示し、以降の会話を続けたいチャネルや、返信通知の受け取り方法を相手に選んでもらうことも可能です。
別のチャネルに移動した場合、会話の履歴と顧客の背景情報も引き継がれるため、チャネルをまたいで一連のやり取りを継続できるという点で、企業側と顧客の両方がメリットを得られます。さらに、顧客情報が自社のソフトウェア内で統合されるため、企業は真のオムニチャネル化を実現して、パーソナライズされたCXを提供できるようになります。
オムニチャネル戦略を採用するメリット
顧客(または見込み客)の基本情報や過去に入手した背景情報を把握したうえで会話を進めることができれば、次のことが可能になります。
問題の解決時間が短縮される
よりパーソナライズされたエクスペリエンスを提供できる
顧客を満足させられるポイントを見つけやすくなる
顧客離れの抑制や収益の向上につながる
つまり、関係者全員のエクスペリエンスが向上します。
カスタマーサービスのオムニチャネル戦略が必要となる状況
像するのは難しくないでしょう。しかしおそらく、Facebook Messengerから自社のモバイルアプリ、あるいは自社のWebサイトからWhatsAppなど、チャネルを切り替えるべき状況については判断がつきにくいのではないでしょうか。
そこでここからは、チャネルを変更した方がよいケースをいくつかご紹介します。
セキュリティ上の理由から、顧客の本人確認を行いたい場合
Facebook MessengerやLINEといった消費者向けチャットアプリは、だれでも使える手軽さが魅力ですが、企業は時として、顧客とプライバシーにかかわる情報をやり取りしなければならないことがあります。
たとえば、皆さんが銀行や保険会社に勤めており、顧客と守秘性の高い情報をやり取りするうえで相手の本人確認が必要だとしましょう。その場合はCTAを使用すると、顧客に対し、自社のモバイルアプリにサインインして、そこから会話を再開するように促すことができます。
サポート担当者からの返信通知を顧客が受け取れるようにしたい場合
皆さんの会社のWebサイトを閲覧していたユーザーが、サイト上のカスタムメッセージングツール経由で質問を送ってきたとします。このとき、サポート担当者がすぐに応答できるとは限りません。あるいは、ユーザーがボットと何回かやり取りした後、用事が入って問題の解決前にチャットを中断しなければならなくなる可能性もあります。
顧客はおそらく、Webサイト上でじっと回答を待っているよりも、メッセージへの返信があり次第、Facebook Messenger(またはメールやSMS)で通知を受け取りたいと考えるはずです。
ほとんどのWebメッセージングツールは、ユーザーにメールアドレスの入力を求めますが、メッセージングの人気が高まっている今、顧客がより多様なチャネルを選べるようにした方が賢明です。また、顧客が今か今かと返信を待たなくても、自分の都合の良いときにすぐに新しいチャネルで会話を再開できるようにするのが理想的です。
より適切なユーザーエクスペリエンスを提供できるチャネルに移動したい場合
使用するチャネルを顧客に合わせることは大切ですが、チャネルを変更してはならないわけではありません。チャットアプリはSMSよりもユーザーエクスペリエンスに優れているだけでなく、インターネット接続さえあれば無料で使用できます(国によっては、SMSの通信料金は企業と消費者の両方にとって大きな負担となりかねません)。
メールでのやり取りは、電話と比べると多くのメリットを得られる可能性がありますが、多くの人がメッセージングアプリを愛用する要因でもある、ユーザーエクスペリエンスの充実度といった面では、メールはメッセージングツールにかないません。また、場合によっては、自社のモバイルアプリやWebチャットといった、ブランドが独自に設けた安全性の高い場こそが、会話を進めるのに最適なケースもあるはずです。
どのような状況でも、Zendesk SunshineのようなCXプラットフォームがあれば、チャネル間で会話を移行できるようになります。メールからWebチャット、SNSアプリからSMSといった、さまざまなチャネルの切り替えをワンクリックで行えます。SunshineをZendesk Suiteと連携すると、顧客の基本情報、問い合わせの経路、問い合わせの大元の理由を追跡し、重要な背景情報をいつでも確認できます。
サードパーティ製プラットフォームへのデータ共有を避けたい場合
Facebook Messenger、WeChat、Twitterなどはいずれも、顧客の要求を把握するのに非常に便利なチャネルです。ただし、Facebook MessengerはMeta、WeChatはTencent、TwitterはTwitterが運営する外部のサービスであることを忘れてはなりません。多くの企業は、こうした大手テクノロジー企業に会話データを共有することに積極的ではありません。データを分析して収益源にされる可能性があるためです。
ただし、今は幸いにも、最初だけ人気のあるプラットフォームでやり取りして、具体的な話はよりプライベートなチャネルに移動して行うといったことが可能になりました。
オムニチャネル対応のカスタマーサービスの成功例
2021年は、オムニチャネル型エクスペリエンスのメリットがこれまで以上に発揮される年となりました。オンラインを利用する顧客が増えたことで、より多くのデジタルチャネルで顧客とつながる必要が出てきたからです。さらに、多数のサポート担当者が依然としてリモートワークを続けていることもあり、物理的なオフィスの代わりに、統合型のデジタルワークスペースを設ける必要性がいっそう高まっています。
まだ情報のサイロ化が解消されていない企業も、次の2つの企業の事例を見ることで、オムニチャネル戦略の強化がいかに大きな成果につながるかを理解できるはずです。
Northmill Bank:顧客とサポート担当者の両方の利便性を向上
パンデミックの発生により、2020年には世界全体で一気にデジタル化が進みましたが、Northmill Bankは、デジタル化の取り組みにずっと前から着手していました。2006年に設立された、このスウェーデンのネット銀行には、物理的な支店が一切ありません。代わりに、顧客はアプリを使用して、ローンの申し込みや請求書の支払いといった各種の取引を行います。
Northmillは以前、複数のサポートチャネルを提供し、メール、電話、Webチャットで顧客に対応していました。しかしその裏で、サポートチームはワークフローに関する重大な問題点に直面していました。4つのメール受信トレイを行ったり来たりしなければならず、CXの全体像を把握することができなかったのです。
ところが、Zendeskの導入後はその状況が一転し、CXをあらゆる側面から包括的に見渡せるようになりました。サポート担当者は従来、複数のシステムへのログインとログアウトを繰り返し、情報を探し回らなければなりませんでしたが、今では、前回のやり取りから相手の好むチャネルまで、必要な顧客データに1か所からアクセスすることができます。
他にも、NorthmillはZendeskを使用して、顧客向けのヘルプセンターの構築を行いました。このセルフサービス用チャネルを開設したことで、電話とチャット経由での問い合わせの件数が50%減り、サポート担当者にさらなる時間の余裕ができました。
Learnsignal:オムニチャネル対応のオンライン学習サービスを実現
アイルランドのダブリンを拠点にオンライン学習プラットフォームを提供する
learnsignalは、会計資格や財務サービス認定の取得に関して、数万人の学習者を支援してきました。同社では、サブスクリプション型のサービスが提供されており、顧客はオンラインの授業や個別指導を受けられるほか、24時間いつでも専門の講師に質問をすることができます。
learnsignalの成功のカギは、複数のチャネルにわたり24時間体制でサポートを提供できるようにしたことでした。同社の顧客の多くは、忙しいビジネスパーソンです。最初に電車の中でモバイルデバイスを使って問い合わせをし、自宅のコンピューターでやり取りを終えるという人もいます。しかし同社は、シームレスかつ信頼性の高いオムニチャネル型エクスペリエンスを、なかなかうまく構築することができずにいました。
そこで2020年2月に、learnsignalはZendeskの導入に踏み切りました。パンデミックに伴うロックダウンが実施され、オンライン学習の人気が急速に高まる直前の時期です。これは、同社にとって思いがけないタイミングでした。数週間のうちにZendeskの導入を終えたlearnsignalでは、チャットでの問い合わせ件数が大幅に増加し、CSATのスコアが94%に跳ね上がりました。
今では、同社の顧客は、チャット、Webフォーム、メールの中から好きなチャネルを選んで個別指導を受けることができ、すべての情報を引き継いだうえで簡単にチャネルを切り替えられるようになりました。
オムニチャネル対応のカスタマーサービスの成功例3選
オムニチャネル対応のカスタマーサービスを巧みに構築している企業は少なくありません。ただし、CX向上の具体的な施策は、業界や顧客ベースなどの企業固有の条件に概して左右されます。
一方で、優れたオムニチャネル型エクスペリエンスには1つの共通点が存在します。それは、顧客がチャネルを適宜切り替えても、全体的に一貫したエクスペリエンスを提供しているという点です。この点を実現している3つの企業の例をご紹介しましょう。
- UGG®:オムニチャネル対応の優れた販売エクスペリエンスを提供
販売のオムニチャネル化で大切なのは、オンラインショップ、モバイル、実店舗で収集した顧客データをすべて連携させることです。オンラインで購入した商品を自宅以外の場所で受け取る「クリック&コレクト」や「クリック&リザーブ」は、オムニチャネル戦略によって実現される効果的な販売モデルの一例です。
UGG®はZendeskを使用し、自社の販売エクスペリエンスを一変させました。同社の「クリック&コレクト」プログラムや「クリック&リザーブ」プログラムを利用すると、顧客はオンラインで靴を購入した後、近くの店舗に商品を配送してもらうことができます。
デジタルチャネルと顧客の実店舗への来店情報は連携されており、注文の品が用意されると、顧客のモバイルデバイス宛てにテキストメッセージが届きます。さらに、顧客が商品を受け取ると、カスタマーサービスの評価を求めるアンケート調査が顧客の元に自動送信されます。 - LimeBike:顧客ファーストなオムニチャネル型のマーケティング戦略を実施
オムニチャネル型のマーケティングを実施するには、社内の各部門が所有するあらゆるタッチポイントの顧客データを連携し、顧客にとって本当に価値のある、一貫したエクスペリエンスを提供することが重要です。
自転車シェアサービスを運営するLimeBikeでは、カスタマーサービスで得られる情報があらゆる企業活動の中心になっています。マーケティングチームは、顧客のエンゲージメントを高めようと、カスタマーサービスのデータを活用して顧客をセグメント化し、多様なマーケティングチャネルを通じてセグメント別のキャンペーンを展開しています。
その結果、既存の顧客と見込み客の両方に対し、同社のサービスの利用状況に基づいて、相手にとって有益な特典情報を絞り込んで提供できるようになりました。 - Wrike:オムニチャネル対応の卓越したカスタマーサービスを提供
オムニチャネルに対応したカスタマーサービスのメリットの一つは、ライブチャネルと非同期型チャネルの両方を備えているだけでなく、そうしたチャネルを横断して統合されたエクスペリエンスを提供できる点です。
プロジェクト管理ソフトウェアを提供するWrikeでは、電話やWebチャットといったリアルタイムのコミュニケーションチャネルを提供すると同時に、メールやSNSなどのチャネルにも対応し、一番都合の良い手段を顧客が選べるようにしています。同社はさらに、ヘルプセンターとユーザーコミュニティを運営することで、顧客自身による問題解決も後押ししています。
前述のチャネルはすべて連携され、Wrikeのカスタマーサービスソフトウェアで一元管理されているため、包括的なレポートを作成でき、サポート担当者が必要な情報を探す際にもツールを切り替える必要がありません。
つまり、サポート担当者は、いつ、どのチャネルから顧客の問い合わせがあっても、それぞれの問題の解決に必要な顧客情報をすばやく効果的に入手できます。そのため、たとえ顧客が問い合わせのチャネルを切り替えても、担当者が変わるたびに同じ情報(顧客の種別や電話番号など)を再度伝える必要はありません。
真のオムニチャネル型エクスペリエンスを実現しましょう
メッセージングテクノロジーやそれがCXにもたらす革新的な変化については、ここ数年で大々的に取り上げられてきました。ところが、その断片的な性質により、企業はメッセージングをなかなか有効活用することができずにいます。
そこでZendeskの出番です。Zendeskを使用することで、期待されていた真のオムニチャネル型エクスペリエンスがついに実現される日がやってくるでしょう。