会話は、家族や友人とのつながりを深めます。そして今、ビジネスでも広く利用され始めているのがメッセージングプラットフォームです。企業はいわゆる「会話型ビジネス」において、カスタマーサービス、マーケティング、営業など、さまざまな目的でメッセージチャネルを活用しています。また、既存顧客、買い物客、見込み客を含む消費者側からも、友人や家族に連絡するときと同じように、企業とも手軽かつ便利な方法でやり取りしたいという声が上がっています。
そうしたニーズに簡単に応えられるのが、人気のメッセージアプリです。メッセージアプリを利用することで、企業はこれまでになく簡単に、顧客1人ひとりに合わせて有意義なカスタマーエクスペリエンスを提供できるようになります。
この記事では、さまざまな会話型ビジネスの例を挙げながら、企業がそれぞれのニーズに合わせて各メッセージソリューションをいかに活用しているのか、ご紹介していきます。
会話型ビジネスのさまざまな形
会話型コマース
2015年にこの名称が生まれて以来、会話型コマースは進化を遂げてきました。初めに、画像カルーセルやチャットボットのような斬新でリッチなメッセージ機能が登場し、メッセージのやり取りだけで買い物を済ませることが可能になりました。2019年になると、高級品を求めるハイエンド志向の顧客をターゲットに、自動化と人間のサポートを組み合わせたメッセージ中心のパーソナルショッピングサービスが生み出されました。
そして現在では、購買プロセスの各タッチポイントにおけるあらゆるやり取りが、会話型コマースの対象と見なされています。企業のスタッフとメッセージを交わしながら、購入手続きを進められれば、ボットにリクエストを投げかけるよりも、顧客は自然に買い物を楽しめるかもしれません(とは言え、どちらも一般によく使われる手法です)。
ここから得られる会話データは、企業にとって貴重なインサイトとなり、顧客プロフィールの一部に含められます。会話型ビジネスに参入する大手ブランドは、統合された顧客プロフィールを活用して、社内全体で顧客の重要なデータを把握できるようにしています。
ビジネスに関する話題を扱うコミュニティサイト「Business 2 Community」では、ライターのHannah Wren氏によって、Facebookの調査レポート「Why Conversation is the Future of Commerce(会話がコマースの未来を握る理由)」から注目の統計情報が紹介されています。たとえば、「消費者の5人に4人が携帯電話で買い物をしている」、「スマートフォンユーザーの87%がWhatsApp、Facebook Messenger、WeChatなどのメッセージアプリを使用している」、「買い物客の65%がメッセージでやり取りできる企業を利用したいと考え、40%が会話型コマースを使えるという理由で実際に企業を利用した経験がある」といったデータが挙げられています。
H&M、1-800-Flowers、ピザハットなどの企業は、ボットを導入したり、顧客向けのアプリや自社サイトに独自のチャットシステムを組み込んだり、人気のメッセージプラットフォームに対応したりと、会話型コマースの分野にすっかり足を踏み入れています。最近では、Apple Pay、Google Pay、WeChat Pay、Payments in Messengerなどのメッセージプラットフォームに標準搭載された決済機能や、ShopifyのShop Pay、CashApp、Venmoなどのサードパーティーの統合機能を利用できる会話型コマースも増えてきました。ただし、データのプライバシーと暗号化をめぐっては、消費者の懸念が高まっていることから、小売業者は支払い情報を直接確認できない仕組みになっています。たとえば、AppleはFaceIDやTouchIDを使った簡単な認証機能を提供していますが、実際に顧客のクレジットカード情報を保存しているのは決済代行システムのStripeです。このように、決済機能は会話型コマースのサービスとして定着しつつあり、各小売業者は次々とその波に乗っています。
会話型サポート
電話でスムーズとはほど遠い対応を受けたことがあるのは、皆さんだけではありません。Forbesによると、これはよくあるセンチメントの1つのようです。その要因を考えるとき、サポートの内容だけに着目するのは早合点です。どのチャネルにも言えるように、サポートを提供するタイミングや場面というのも非常に重要だからです。その点、現代のコンタクトセンターは進化しており、電話だけでなくより多くのチャネルに対応することで、サポート担当者と顧客のエクスペリエンスを一挙に改善しています。
チャットボットや自動化を導入すれば、特別に注意を払う必要がない単純なやり取りに介入しなくても良くなるので、サポート担当者の作業負荷が軽減されます。問い合わせは内容に応じて優先度がつけられ、適切なサポート担当者に割り当てるべきか、それともセルフサービスで対応できそうかが自動的に判断されます。さらに最新の会話型サポートソリューションを使えば、顧客が担当者と直に話したいという場合もスムーズに会話を進められます。
最新の会話型サポートの特長は、リアルタイムでやり取りする必要がなく、利便性に優れ、パーソナライズされた対応が実現できることです。そして一番の売りは、いつどこからでも利用できる点にあります。既に多くのブランドや企業が、顧客が普段友人や家族とやり取りしているメッセージアプリをサポートチャネルとして取り入れています。
リアルタイムかどうかというのが、メッセージアプリとチャットの違いです。リアルタイムで連絡をとり合う必要がなくなれば、顧客は自分の好きなタイミングで会話を中断、再開できるため、基本的には別の作業をしながら、必要なときだけリアルタイムでやり取りするといったことが可能になります。実際、皆さんが家族や友人と連絡をとるときは、ほとんどの場合、Messenger、WhatsApp、WeChat、Telegramなどを使って非リアルタイムのコミュニケーションを行っているはずです。想像してみてください。もしWhatsAppでやり取りしているときに、電話やチャットと同様に、会話を中断できなかったり、別の作業を合間にはさむことができなかったとしたら? とても不便ですよね。しかし、他に選択肢がない場合は、チャットでサポートを提供するのも1つの方法です。
ただし、セッションベースのやり取りは、一度きりで終わってしまうという問題があります。いったん会話がクローズすると、そこから続けて再開することはできません。関連する質問が出てきた場合や、実は問題が解決していなかった場合も、顧客はまた一からやり取りを始める必要があります。
とは言え、チャットにも利点はあります。使い方次第では高い効果を発揮するため、いまだに多くのブランドに利用されています。チャットは、最新の会話型エクスペリエンスの礎を築いたと言えます。近年台頭してきた非リアルタイムのメッセージソリューションは、ある意味、チャットの弱点をカバーしたものとも考えられるからです。会話が途切れてしまう、説明を一から繰り返さなければならない、返信を待っている時間が無駄といったデメリットがすべて解消されています。非リアルタイムのメッセージチャネルが優れているのは、スピードだけではありません。会話履歴を残しておけるうえ、顧客の都合の良いときにやり取りできるのも強みです。これでもうコミュニケーションに余計な時間をとられる必要はありません。
会話型マーケティング
いつも使っている銀行から突然妙なテキストメッセージが届き、詐欺ではないかと疑っていたら、実は本当に銀行から来たものだった――皆さんにもこんな経験はありませんか?
メッセージアプリをマーケティングに利用することについては、冷ややかな反応も少なくありません。これは、つい最近まで、ブランドによる乱用を防止する規制がほとんど整備されていなかったせいです(たとえばWhatsAppにしても、企業向けAPIをスパムに乱用した場合の罰則を規定し、顧客に向けて公表したのはつい昨年のことです)。しかし、顧客に対して積極的にマーケティングを仕掛けられれば、プッシュ通知からビジネスにつながる会話が生まれかもしれません。実際、新規顧客を獲得するより既存顧客をつなぎとめる方がずっと成功率が高いのです。
一部のブランドでは、マーケティングキャンペーンの一環としてメッセージアプリを活用し、クリエイティブな会話型エクスペリエンスを実現しています。たとえば、H&MがKikで提供しているボットは、顧客からのメッセージに反応してお勧めのファッションアイテムを提案します。また中国では、WeChatの「ミニプログラム」を活用して、会話型エクスペリエンスを基盤とした経済活動を推進しています。ミニプログラムとは、WeChatアプリ内で起動するアプリのことで、ユーザーをVogue Businessのようなコンテンツに誘導したり、オリジナルのゲームを提供して認知度向上を図ったりできます。
会話型セールス
チャットを使うと、営業担当者は親身かつフレンドリーな態度で、顧客に積極的に働きかけることができます。実際、オンラインでやり取りするとコンバージョン率が29%向上するというデータも出ています。
営業担当者向けの会話型ソリューションは、営業システムに統合されており、担当者はそのシステム上で自社サイトを訪れた見込み客とチャットを始めることができます。チャットクライアントは、リードの創出を後押しし、チャットを通じて見込み客と有意義な関係を構築できれば、成約のスピードも向上します。
営業担当者が関連する会話データにアクセスできる仕組みがあれば、顧客がデータベースに登録されている場合、自社をいつごろから利用しているか、過去にどんな製品を購入しているか、価格ページを何回訪問しているかなど、顧客に関する重要な情報を把握できます。こうした会話データを確認できれば、顧客1人ひとりに合ったメッセージを送ることが可能になります。パーソナライズされたエクスペリエンスが差別化のカギとなる今の時代、これは大きな強みとなります。
営業支援ソフトウェアのベンダーが、従来のチャットと並行して非リアルタイムのメッセージチャネルを使い始めていることからもわかるように、今後見込み客やリードに働きかけるうえでは、自然な会話を重ねていき、相手のペースに合わせて少しずつ関係を育むことが重要となっていきます。
会話型ビジネスの費用対効果
メッセージアプリでサポート担当者のエクスペリエンスが向上
サポート担当者の業務環境が整っていないと、顧客満足度にも悪い影響が表れます。電話サポートの場合、一度に対応できる問い合わせの数が限られるうえ、別の担当者にエスカレーションする必要が出てくれば、顧客はそれだけで不機嫌になってしまうかもしれません。どの担当者も、そのような対応になってしまうのは避けたいはずです。非リアルタイムのメッセージチャネルなら、こうした状況が解消され、担当者は複数の顧客と同時にやり取りできるようになります。また、自動化をうまく活用すると、より複雑なやり取りに集中することができます。Zendeskで長年サポート担当者を務めるCécile Zongoは、次のように述べています。「私が日々のサポート業務で大切にしているのは、知恵を絞ることと、批判的思考力を働かせることです。ボットで簡単に自動化できるような作業ばかり任されてうんざりなどということはありません」
チャットボットのように、問い合わせに自動的に優先度をつけてくれる機能があれば、サポート担当者は、人間の介入が必要な複雑なやり取りに時間を割けるようになります。Adaのマーケティング責任者を務めるRuth Zive氏は、Zendesk Relateの記事で「AIを活用すれば、単純な問い合わせの対応とそれに伴う担当者のストレスを減らすことができる」と述べており、自動化によってワンランク上のサポートを提供することは可能だと主張しています。さらに、必要な業務ツールが揃っていれば、担当者のエクスペリエンスは全体的に向上し、カスタマーエクスペリエンスにも良い効果が現れます。担当者は、解約やリテンションに関する対応だけでなく、収益に直接かかわる部分でもっと力を発揮できるようになるでしょう。
メッセージソリューションを使えば、過去のあらゆる会話履歴や統合された顧客プロフィールを確認できるため、サポート担当者の生産性が向上し、カスタマーエクスペリエンスの改善につながります。
メッセージアプリはコスト削減やビジネス拡大にも効果的
Zendeskのレポート「State of Messaging 2020(2020年のメッセージアプリ活用の現状)」では、メッセージアプリを使う理由として、30%の企業が「問題解決までの時間を短縮できる」という点を挙げ、他にも「24時間いつでもサポートを提供できる」(27%)、「サポート担当者の業務効率化につながる」(22%)といった理由が挙げられています。
非リアルタイムのメッセージソリューションを導入すると、リアルタイムで行われるセッションベースのチャネルを使う場合より、一度により多くの顧客にバランス良く対応することができます。また、社内のだれもが顧客とのあらゆる会話履歴や内容を把握できるため、担当者が変わっても、顧客に同じことを繰り返し説明してもらう必要はありません。そうしたデータは、カスタマーエクスペリエンス向上の施策に加えて、「顧客の声(VoC)」を活用する取り組みに関しても重要なインサイトを与えてくれます。
たとえばApple Cardは、iMessageを通じて24時間年中無休のサポートを展開しています。この非リアルタイムのリッチなチャネルでは、Venmoなどのプラットフォーム上で簡単に支払いを済ませることができます。これは、GIFや絵文字を送るのと同じくらい容易いことです。Apple CardのメッセージCTA(Call to Action)はWalletアプリ内にあるため、顧客は自然言語で質問して、インテリジェントな応答を受け取ることができます。
会話型ビジネスに必要なツール
Zendeskの開発者向けプラットフォーム「Zendesk Sunshine Conversations」を利用すると、企業は顧客が好む手段で簡単にコミュニケーションをとれるようになります。Zendesk Sunshine Conversationsは柔軟性に優れ、Stripe、Apple Pay、Shop Pay、Google Payなどの決済プラットフォーム、AdaやLandbotなどのボットプラットフォーム、リアルタイム翻訳エンジン、Zendesk Sunshineなどの顧客データソースを自在に統合できます。会話は、言わば優れたカスタマーエクスペリエンスを描くためのキャンバスです。さまざまなメッセージチャネルに対応できれば、あらゆる顧客とつながりを深めることができるでしょう。
ぜひこの機会に、会話型ビジネスへの参入をご検討ください。
会話が生み出す可能性は無限大です。では会話を通して、顧客満足度と維持率を向上し、高品質でパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを提供するには、何が必要なのでしょうか? 詳しくは、ZendeskのeBook『Let’s Get Conversational(英語)』をご覧ください。