世界は今、大きな変化に直面しています。ニューノーマル時代にも長く生き残れるよう、あらゆる企業がビジネスの方向性を見定めている中で、これから最も重視されるであろう分野の1つがカスタマーエクスペリエンス(CX)です。
もちろん、CXはこれまでも重視されてきましたが、特にこうした状況では、顧客のニーズや好みを最優先することが競争力を維持するカギとなります。
とは言え、CXのまずはどういった面に投資すべきなのでしょうか? ここが最高情報責任者(CIO)の腕の見せどころです。
CXにおけるCIOの役割
CIOは、自社が部門の枠を越えて顧客ファーストな企業に転換していけるよう、社内全体を導く役割を担っています。CIOは企業全体を俯瞰できる立場にあるだけでなく、技術的なスキルも備えているため、他の経営幹部と協力体制を組めば、どんなに高い目標も達成できるはずです。
ZendesでCIOを務めるColleen Berubeは、先日、CIO戦略アドバイザーのTim Crawford氏が司会を務めるポッドキャスト「CIO In The Know」に出演した際に、部門間の障壁を解消し、社内一丸となって顧客にサービスを提供するために、CIOが果たすべき役割について次のように語りました。
「マーケティング部門にとって、CXとは、お客様がマーケティングを通して得た体験のことです。しかし、サポート部門にとっては、お客様が担当者とのやり取りの中で得た体験のことであり、営業担当者からすれば、お客様が購入した製品を使って得た体験のことなのです。つまり、部門によって何をカスタマーエクスペリエンスと捉えるかは異なるということです。CIOはこのギャップを認識し、これを率先して解消する方法を提案できる立場にあります。この役割を全うすることで、最終的にお客様の状況を改善することができるのです」
Colleen Berube, CIO, Zendesk
CIOはまた、大規模な変革を推進するための技術的なスキルも備えています。多くの企業がリモートワークに移行している今、適切なテクノロジーを活用できるかどうかは、顧客にとっても従業員にとっても、CXにおいて重要な要素となっています。こうした先の見えない時代では、CIOが積極的に顧客ファーストを推進している企業ほど、顧客と従業員の両方にとって優れたエクスペリエンスを提供することができるのです。
5つのCXトレンドと、CIOが取り組むべきこと
今年の初め、「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」を公開した時点では、世界がこれほどまでに変化するとは予想すらしていませんでした。とは言え、このレポートでも今につながるトレンドが見られます。たとえばレポートでは、顧客からの大量の問い合わせに対応するには、オムニチャネル対応の柔軟なカスタマーサービスソリューションが必要であることを指摘しているのですが、新型コロナウイルスの流行がその必要性を後押しする形となりました。
顧客の喫緊のニーズに合わせて柔軟に方向転換していける企業なら、この状況が落ち着いたころ、優位なポジションに立っているでしょう。そして、その舵取りをするのがCIOの役割です。
以下では、危機的な状況が続く中でも顧客を支援できるよう、CIOが頭に入れておくべき5つの重要なCXトレンドをご紹介します。
顧客は必要な情報を今すぐ入手したい
平時と比べて先が見えにくい今は、有益な情報をスピーディに提供することがいっそう強く求められています。そのためには、顧客との連絡にさまざまなチャネルを利用できるようにする必要があります。調査データによると、パフォーマンスの高い企業では、他の企業に比べて、オムニチャネルのカスタマーサービスを提供している割合が2倍以上にのぼります。一方、実際にチャット、ソーシャルメッセージング、メッセージアプリ、ボット、コミュニティのいずれかに対応している企業は、全体の3分の1以下です。新型コロナウイルスの拡大を受けて、多くの顧客がチャットやメッセージアプリを利用している今、オムニチャネルに対応しないままでは大きなビジネスチャンスを失ってしまいます。顧客ファーストを推進する立場にあり、技術的なスキルも備えているCIOは、顧客の好むチャネルの変化に対応していけるよう、オムニチャネルの導入を促進するべきです。
コラボレーションは永遠の課題
社内でのコラボレーションは、従来からの懸案事項ではありますが、リモートワークに移行する企業が急増する中、かつてないほど大きな課題となっています。この危機的状況下では、積極的にコラボレーションを図って顧客の求める情報を届ける必要がありますが、うまくコミュニケーションがとれないケースも少なくありません。たとえば、サポート担当者が、一部の顧客が購入段階で十分な情報を得ていないことに気づき、どうしてそうなったのかを自力で探らなければならないような場合もあります。これは、サポート担当者にとって非常にストレスのかかる作業です。一方、アップセルに役立つ顧客情報がサポートチームに共有されていないといったケースもあるでしょう。調査でも、シームレスなコラボレーションを図って理想的なCXを提供できる、統合型の営業・サポートツールを利用していると回答したのは、サポートマネージャーの44%、営業リーダーの57%にとどまっています。CIOは、複数の部門に目配りして、チーム間のコラボレーションを容易にする新しいツールの導入を働きかける必要があります。
データを活用してパーソナライズされたサービスを提供
今こそ、自社で保有している顧客データを顧客のために役立てましょう。KPMGによるCIOへの最新調査によると、CIOの91%が、顧客を定着させるには、製品やサービスと同じくらい顧客データの活用方法が重要となることを認識しています。CIOは社内全体を俯瞰できる立場にあるため、バラバラに散らばったデータをつなげて、そこからインサイトを引き出すことができます。各部門から集まったデータを深堀りして、顧客の状況をリアルタイムで把握することで、顧客1人ひとりに合ったパーソナライズされたサポートを提供できるよう、サポート部門を適切に支援することができます。これにより、顧客は必要な情報を入手できるうえ、日々直面する課題にもスムーズに取り組むことができます。なお、顧客ファーストの考え方に従って、パーソナライズされた顧客対応を可能にするカスタムアプリを開発、利用している企業では、他の企業の6倍もの数の問い合わせを解決しており、さらには顧客の待ち時間も半減していることがわかっています。
AIは有益だが、活用が進んでいない企業も
「Zendesk カスタマーエクスペリエンストレンドレポート2020」では、Zendeskの導入企業45,000社のうち、63%の企業が、CXの改善、拡張にAIを活用していないと回答しています。しかし、新型コロナウイルスの流行が始まってから、ZendeskのAI搭載ツール「Answer Bot」を導入する企業は大幅に増加しています。一部の企業ではなかなか活用が進んでいなかったAnswer Botですが、新型コロナウイルスに関するベンチマークデータによると、今年の2月下旬から5月上旬にかけてAnswer Botで処理された問い合わせの数は95%も増加しました。これは実に良い傾向です。なぜなら、前述のレポートでは、Answer Botの活用とビジネスの成功には相関性があることがわかっているからです。優れた成果を上げている企業では、他の企業と比べてAnswer Botを導入している割合が2倍という結果になっています。CIOは、AIがもたらす2つの面でのメリットを強調して、AIを基盤としたツールの活用を推し進めるべきです。AI搭載のボットを使えば、一般的な問い合わせの多くを処理できると共に、人間のサポート担当者がより複雑な問い合わせへの対応に集中できるようになるのです。
カスタマーサービスチームはより効率重視の傾向に
今後顧客からの問い合わせの数はますます増加し、人手が足りなくなるだろうとの見込みは、新型コロナウイルスが流行する前から立てられていたことです。多くの企業が人手不足に直面している今、何よりも重視しなければならないのは効率です。大量の問い合わせが寄せられているにもかかわらず、それに的確に対応できるほどの人材をなかなか揃えられないというギャップを解消するには、チーム文化、ソリューション、そしてデータの可視化が重要になってきます。つまり、サポート業務が効率化されなければ、企業の成功は望めないということです。ところが、実際に適切なツールが利用できる環境にあると回答したサポート担当者は、全体の半数ほどにとどまっています。CIOやITリーダーは、このギャップに対応できるよう、リスクが大きくさほど必要性の感じられないポイント製品を承認するよりも先に、まずはあらゆるタッチポイントを含むCXの見直しに取り組むべきです/p>
新型コロナウイルスの感染拡大により、顧客ファースト志向は高まる一方です。自社がレジリエンスを高め、顧客ファーストを実践して一歩先を行く存在になれるよう、CIOはその立場を活かし、ここで紹介したようなCXトレンドをぜひ全社的に取り入れましょう。