各業界が目まぐるしいスピードで変容し、テクノロジーが進化して、世界も大きく動いている中、今や組織変更はビジネスを進めるうえで避けては通れません。しかし、変更がスムーズに実施されることはめったにありません。しかも、大規模で複雑なビジネスほど、効果的な変更の実施は難しくなります。
一方で、必要な変更をビジネスに取り入れる能力は将来の成功に直結します。企業が実施する変更にはいずれも綿密かつ戦略的なアプローチが欠かせず、それこそが変更管理のねらいです。
Farwellで変更管理およびアジリティプラクティスを率いるRachel Breitbach氏は、次のように説明しています。
「変更管理を通じて、変更に対応するうえでぶつかる障壁に従業員がどう反応するのか、その影響を理解できます。そして、最終的には変更を受け入れて前に進めるように従業員を支援できます」
変更管理モデルとは
変更の必要に迫られた際、企業は変更を実施するための最適なステップを決めなければなりません。行き当たりばったりで成り行きに任せるようなやり方では、大きなリスクが伴います。変更プロジェクトは失敗することも多いものです。しかし、変更管理の成功例に基づいて自社の戦略を立てれば、成功の確率は高まります。
そこで参考になるのが変更管理モデルです。変更の計画と導入をうまく進めるための具体的なガイドラインとして機能します。エキスパートによって構築され、既に他社で検証もされている、信頼性の高い変更管理プロセスを見てみましょう。
なぜ変更管理モデルを学ぶと有益なのか
さまざまな変更管理モデルを知っておくと、自社の変更プロジェクトに適した取り組みを判断できるようになります。単一のモデルを選んでも、いくつかを組み合わせても、効果的な変更管理手法の構築に役立ちます。
変更プロジェクトは概して大規模かつ複雑で、コストもかかります。Breitbach氏は、「何を強化、変更するにせよ、目標はそれを長く定着させることです」と話します。信頼性の高い変更管理モデルを利用すれば、従業員や関係者からの支持を得るために必要なあらゆる要素について検討できます。また、そうしたモデルは変更管理ワークフローを構築するうえでも参考になり、変更を導入するたびにゼロからフローを作成する必要がなくなります。
検討すべき8つのモデル
以下が、参考にしたい主要な8つの変更管理モデルです。
1. レヴィンの変更管理モデル
1950年代に構築されたモデルで、考案者のクルト・レヴィン氏にちなんで名づけられました。このモデルでは、変更プロセスを3つのステップに分けています。
解凍 準備の段階です。現状を分析して、意図する結果を達成するにはどんな変更が必要なのかを的確に把握します。この段階ではさらに、従業員に変更について論理的に説明し、期待できる成果を伝えて、関係者全員が心構えをできるようにします。
変更 導入の段階です。変更を実施し、関係するすべての従業員と継続的にコミュニケーションを取ってサポートを提供します。
再凍結 従来のやり方に戻ってしまわないように、現状把握に関する戦略を立て、変更を確実に定着させます。新しいプロセスがうまくいっているかを精査し、目標の達成状況を測定しましょう。
2. マッキンゼーの7Sモデル
McKinsey & Companyのコンサルタントによって作られたこのモデルでは、変更プログラムを7つの重要な要素に分けて考えます。
変更戦略(Change strategy)
組織構造(Structure of your company)
ビジネスのシステムおよびプロセス(Business systems and processes)
共通の企業価値と企業文化(Shared company values and culture)
業務のスタイルや手法(Style or manner of the work)
かかわる人材(Staff involved)
人材が備えるスキル(Skills your staff have)
組織変更をこうした主要な要素に分けて考え、重要なポイントを見落とさないようにします。
3. コッターの変更管理
ハーバード大学の教授で変更管理のエキスパートであるジョン・コッター氏は、変更プロセスに関係する人材とその心理に着目する理論を提唱しました。この理論は8つのステップから成っています。
切迫感を作り出して、従業員のモチベーションを高める
経営陣と各部署のさまざまなスキルを持つ担当者を集めて、変更プロジェクトチームを作る
達成したい目標を見据えて、戦略的ビジョンを定義する
変更管理プロセスにかかわるすべての従業員とコミュニケーションを取り、変更への適応を支援し、各自の役割を理解してもらう
障壁を特定し、摩擦を起こし得る要因に対処する
短期目標を掲げ、変更管理計画を達成可能なステップに細かく分割する
当初の勢いを緩めずに変更の導入を進める
最初の取り組みが終わっても変更を定着させる
4. ADKAR変更管理モデル
全従業員が変更の必要性を理解できるようにする
- 認知(Awareness)Prosciの創業者であるジェフ・ハイアット氏が提唱したモデルで、5つの主要目標を変更管理プロセスの土台とします。
- 欲求(Desire)関係者全員の支持を集められるように、変更について論理的に説明する
- 知識(Knowledge)各従業員が変更プロセスにおける自分の役割を果たせるよう、必要な情報を与える
- 能力(Ability)全従業員が自分の役割を全うするためのスキルを身につけ、必要なトレーニングを受けられるようにする
- 定着(Reinforcement)変更の導入後も従業員や関係者と協力して、新しいやり方を定着させる
5. ナッジ理論
これは、複数のステップから成り立つモデルというよりは、変更を促すための思考様式を打ち出した理論です。この理論では、経営陣からトップダウンで変更要請を行って従業員がそれに従うことを期待するのではなく、従業員が自ら変更を望む方向に誘導できるよう、説得力のある方法を見つけます。具体的には、従業員の視点から変更を捉え、従業員が得られるメリットを強調し、要請というよりは推奨という形でプレゼンテーションを行います。プロセス全体を通して従業員のフィードバックに耳を傾けることも欠かせません。
6. ブリッジズのトランジションモデル
変更コンサルタントのウィリアム・ブリッジズ氏が提唱したモデルで、人々が変更に対応し受け入れていく中で経験する感情の変化に着目します。このモデルによると、企業は以下の3つの段階を通じて従業員を支援する必要があります。
- 終わり–変更に対する反応として多くの人にまず見られるのは、恐れと不安から来る抵抗です。
- ニュートラルゾーン–実際に変更が導入されると、人々は古いやり方を手放すことも、新しいやり方を歓迎することもすぐにはできず、葛藤に苦しみます。
- 始まり–やがて、変更が首尾よく実施されると、人々は受容の段階に入り、新しいやり方に馴染んでいきます。
7. キューブラー=ロスの変更管理フレームワーク
エリザベス・キューブラー=ロス氏によって作られたこのフレームワークは、人が死を受容する過程を説明したもので、ご存知の方もいるかもしれません。多くの変更プロセスに応用できるため、以下にある段階を把握しておけば、組織変更に対する従業員からの反応にも適切に対処できます。
- 否認–人は聞きたくない情報を耳にすると、条件反射的に信じることを拒みます。
- 怒り–人は望まない変更を強要されたと感じたとき、怒りを覚えます。
- 取引–変更を全面的に受け入れなくて済むように、妥協案を探ろうとします。
- 抑うつ–変更によって心を乱され、絶望を感じると、抑うつ状態になることがあります。/li>
- 受容–他に選択肢はないと理解すると、やがて受容に至ります。
理想的なのは、従業員の間で起こり得る感情に真摯に対応できるようなアプローチを設計し、従業員が最悪の気分に陥らないようにすることです。
8. サティアの変更管理手法
家族療法を専門とするヴァージニア・サティア氏によるこのモデルは、変更に向き合う際の家族心理の傾向に基づいて構築されました。キューブラー=ロスのフレームワークと同様に、このモデルもビジネスに応用できます。
- 以前の状態–スタート地点の状態
- 抵抗–変更について最初に知らされたときに起こる自然な反応
- 混沌–変更が導入された当初は、まだ混乱していて抵抗感もある
- 統合–生産性が安定してくると、一般的に受容のムードが生まれる
- 新しい状態–従業員が新しいやり方に馴染んでいく
自社に適した変更管理手法を作り出しましょう
ここで紹介した変更管理手法はいずれも、変更を計画し導入する際に従業員を中心に据えることが重要であると強調しています。従業員の感情に配慮し、従業員との効果的なコミュニケーションを最優先事項としましょう。
どの企業にも万能な変更管理手法はありません。しかし、それぞれの手法を理解すれば、自社のニーズに適したモデルを選んだり、自社の状況に合わせて各モデルのアプローチを組み合わせたりできます。