エスカレーション対応とは?プロセスや効率化のポイントを解説
カスタマーサポートにおけるエスカレーションのプロセスや、エスカレーション対応を効率化する際のポイントを解説します。
更新日: 2024年2月22日
業界によって異なりますが、企業の元には、月に979~18,331件の問い合わせが寄せられます。こうした数百、数千のチケットの中には、基本レベルのサポート担当者やボットが初回では解決できない問い合わせが潜んでいます。しかし、問題解決に時間がかかるほど、顧客は不満を募らせていきます。
一部には、担当者の貴重な時間を節約するために、顧客に自力で解決してもらって抑制できる(そして抑制すべき)チケットもあります。しかし、問い合わせがすぐに処理できるものなのか、あるいは手間と時間を要するものなのかはどのように判断すればよいのでしょうか。また、複雑で難しい問い合わせにはいったいどのように対応すればよいのでしょうか。そこで役立つのが、サポートチケットのエスカレーションプロセスを整えることです。
顧客中心主義が謳われ、変化の激しい今日のような状況で、企業が生き残るには、チームが迅速かつ効率的に問題を解決できるようにするための強力なエスカレーションプロセスを整備する必要があります。
チケットのエスカレーションとは
チケットのエスカレーションとは、顧客の問題を上位レベルのサポート担当者やマネージャーに引き継ぐためのプロセスです。チケットのエスカレーションは、迅速な問題解決を常に念頭に置いたものでなければなりません。顧客を待たせる時間が短いほど、顧客満足度は向上するからです。
エスカレーションプロセスとは
チケットのエスカレーションは、レベル別のサポート体制を基盤とします。各レベルのチームメンバーは、問題の複雑さやその他の重要な要素に応じて、それぞれに異なる顧客の問題に対処します。階層型のエスカレーション構造は通常、セルフサービス型のサポートから始まり、そこで解決されない場合、サポート担当者の経験、専門知識、さまざまなツールや情報へのアクセスの可否に応じて、適切な担当者にエスカレートされます。
エスカレーションプロセスは、企業の規模によって異なる場合があります。大企業がいくつものレベルを設けて多くの担当者を擁する一方、小規模企業では担当者1、2名にマネージャー1名のみというケースもあります。各レベルの名称や担当者の役職名は、皆さんの企業とは異なるかもしれませんが、以下でご紹介するレベル別のサポート体制は、標準的なプロセスとして良い参考になるはずです。
- レベル0:ヘルプセンターのリソースやヘルプセンターソフトウェア、基本的な製品知識、コラボレーションツールを備えている担当者。一般に、このレベルの担当者は標準の作業手順書に従います。問題を解決できない場合は、詳細を記録し、チケットにタグを追加して、適切なレベルの担当者に引き継ぎます。
- レベル2以上:追加のリソース、豊富な経験、アクセス権限をもってトラブルシューティングに対応できる上位レベルの担当者。この段階で解決策を見つけられない場合は、ここでもチケットにタグを付けてメモを残し、次のレベルの担当者に引き継ぎます
- 開発者やエンジニア:単純なトラブルシューティングを超えた対処が必要な場合は、適格な開発者やエンジニアが専門知識を提供することもあります。
では、チケットエスカレーションは実際にどのように進んでいくのでしょうか。スマートテレビを購入したものの、配信アプリが動作しないというトラブルが発生した顧客を例に考えてみましょう。
顧客はまず、企業のオンラインヘルプセンター(レベル0)にアクセスし、自力で解決策を調べます。しかし、求めていた答えが見つからなかったため、企業のWebサイトのチャット機能を使って問い合わせました。/p>
ボットが顧客をレベル1の担当者につなぎます。レベル1の担当者は、自由にアクセスできるナレッジベースなどのリソースを参照しても配信アプリを修復できなかったため、チケットをエスカレートしました。その後、レベル2の担当者がトラブルシューティングを進め、アプリ内にバグを発見しました。問題を解決するために、今度はレベル3の担当者が、テレビにアプリを再インストールしてプラットフォームに再度サインインできるように顧客をサポートします。
どの段階でも、トラブルシューティングとチケットへのタグ付けに関して、担当者は標準化されたガイドラインに従う必要があります。エスカレーションのプロセスで全員が認識を共有し、混乱を避けるようにするためです。
エスカレーションには時間がかかることもあるため、カスタマーサービスチームは、プロセス全体を通してつど顧客に最新の状況を伝える必要があります。そうしたコミュニケーションをどのくらいの時間で進めるべきかについては、通常、サービス保証の基準レベルをまとめたサービスレベルアグリーメント(SLA)の中で規定されています。
エスカレートされたチケットの迅速な解決が重要となる理由
カスタマーサービスに問い合わせてきた顧客は、迅速かつ効率的な問題の解決を期待しています。こうした期待が満たされないと、顧客は不満を感じかねません。長い待ち時間は、カスタマーエクスペリエンスにおいて最も苛立たしい要素の一つであり、ビジネスに甚大な影響を与えるおそれがあります。「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート(2021版)」によると、顧客の50%が、企業から一度でも不快な対応を受けたら別の会社に乗り換えると回答しています。複数回嫌な体験をした場合、この数字は80%に跳ね上がります。
したがって、迅速に問題を解決し、顧客に最良のエクスペリエンスを提供する必要があります。即座に解決できない場合でも、できるだけ速やかに解決策を見つけられるよう努めていることを顧客に示しましょう。
チケットをエスカレートすべきタイミング
セルフサービス型サポートや基本レベルの担当者では問題を解決できない場合には、サポートチケットのエスカレーションが必要です。こうしたプロセスが発生するのはやむを得ないことですが、顧客が解決時間の速さをいかに重視しているかを考慮すると、むやみなエスカレーションは禁物です。
エスカレーションプロセスは、担当者の経験レベル、問題の深刻度、見込みの解決時間に左右されます。スピーディな初回解決に対する期待度と、顧客の問題を全面的に解決する必要性の2点について、バランスよく考慮することが重要です。
高度な専門知識や権限が必要なとき
レベル1の担当者は通常、ヘルプセンターにアクセスでき、標準の作業手順を把握しているため、一般的な問題には十分に対応できます。しかし、顧客の問い合わせが自分の対応できる範囲を超えている場合もあります。基本レベルのサポート担当者が、解決に必要な知識、専門スキル、権限を備えていない問題に関しては、経験豊富で意思決定の権限を持つ担当者にチケットをエスカレートする必要があります。
たとえば、技術的な問題なら開発者の力を借りる必要があるかもしれません。また、下位レベルの担当者には、顧客への返金や特定の部品の交換に対応する権限がないケースもあります。
担当者が、自分のアクセスできるリソースをあらかた駆使しても問題を解決できない場合は、チケットを次のレベルに引き渡すべきです。問題の解決に時間がかかりそうなとき
多くの場合、企業のポリシーとSLAには、問題解決時間の目標が定められています。担当者がその時間内に問題を解決できない場合は、エスカレーションが必要です。
たとえば、レベル1の担当者は1件あたり20分以内に対応する必要があると定めておくと、この時間枠に収めることで、チケットが未解決のままでなく、確実に適切な担当者にすばやく転送されるようになります。こうすれば、顧客を必要以上に待たせることがありません(サービスレベルの義務に違反するリスクも軽減されます)。
Zendeskの製品マーケティングマネージャー、Paul Lalondeがかつて働いていたBtoB企業では、優先度の高いチケットに関して非常に具体的なSLAや手順が定められていたと言います。
Lalondeは当時をこう振り返ります。「(レベル1では)60分以内に、顧客に応答して問題を詳しく把握する必要がありました。それを過ぎると、直ちにレベル2にエスカレートすることが求められます。レベル2では、問題の診断から解決までに設定された時間は4時間でした」
企業はできるだけ多くの顧客を、最短の時間でサポートしたいと考えています。サービスを迅速に提供し続けるために、多くの企業は、効率を測定し、企業全体または担当者個人の具体的な目標を設定する手段として、TTR(問題が報告されてから解決されるまでの時間)を計測しています。問題が広範囲にわたる、または込み入っているとき
多くの顧客に影響する重大な問題や複雑な問題は、通常すぐにエスカレートされ、優先度が高くなります。
たとえば、クラウドベースのソフトウェアプログラム全体に不具合があり、ユーザーがオンラインでアクセスできない状態になっているとします。この問題は数々のユーザーに影響を及ぼすため、開発チームにエスカレートしなければならないでしょう。また、この問題に関する問い合わせの急増に備えて、多数のサポート担当者を配置する必要があります。
一方で、ソフトウェアの特定の機能の問題に関するサポートチケットについては、エスカレートする必要がないケースもあり、複数の担当者や専門のエンジニアを巻き込むことなく、レベル0またはレベル1の段階で解決できるかもしれません。
チケットのエスカレーションプロセスを効率化するための3つのヒント
ビジネスが拡大し顧客の問い合わせが複雑化するにつれ、カスタマーサービスチームは、スムーズに変化に適応できないことがままあります。
「多くの場合、企業はこうした段階に来たら、公式化されていないサポートプロセスから脱却して、ベストプラクティスを実施する必要があると言えます」とLalondeは話します。
以下では、チケットのエスカレーションプロセスを改善するための3つのヒントをご紹介します。これを実践すれば、適切なチームメンバーにもっと効率よくチケットを割り当てられるようになります。
テクノロジーの力で担当者と顧客を支援する
さまざまなツールを活用して、担当者のワークフローを簡素化し、基本的なサポート業務を自動化しましょう。
優れた顧客関係管理(CRM)システムには、自動実行されるトリガ、マクロ、ルーティングといったツールや機能が含まれるため、ワークフローを改善し、適切な担当者にチケットを転送する時間を短縮できます。トリガは基本的に、因果関係に基づいて機能するツールであり、顧客があるアクションを取ると、ワークフロー内で別のアクションが開始されます。マクロは、サポートチケットに応じて自動送信されるメッセージテンプレートや標準化された応答のことです。ルーティングは、適切な担当者や部門にチケットを自動転送するのに役立ちます。
前述のスマートテレビに関するチケットの例で考えてみましょう。CRMを使うと、該当のテレビやアプリについて専任で対処する担当者やチームにチケットを自動転送できます。また、トリガを設定し、キーワードや問題の種類に応じて、レベル3の担当者にチケットを自動転送することも可能です。
ボットとメッセージングツールは、カスタマーサービスチームの最初の窓口としても有用です。Zendeskを使用すると、セルフサービス型サポートのフローを簡単に自動化して、チケットをエスカレートする必要性を減らすことができます。
ZendeskのAnswer Botのようなチャットボットは、単純な問題を先立って解決するため、チケットが担当者にエスカレートされません。担当者の介入が必要な場合、ボットは顧客から情報を収集したうえで、適切な担当者にチケットを割り当てます。その後、担当者は即座にチャットを開始できるため、さらなるエスカレーションを避けられます。
あらゆる情報を文書化して共有する
「知識は力なり」という格言に従い、重要な情報を文書化してチーム全体で知識を共有し、チケットのエスカレーションの必要性を最小限に抑えましょう。
たとえば、レベル1のサポート担当者が問題をすぐに解決できず、チケットがレベル2の担当者にエスカレートされたとします。レベル2の担当者は、問題を解決したら、その内容と解決策を文書化して、自社のヘルプセンターで共有します。
こうすれば、将来的に別の顧客が同様の問題に直面しても、レベル1の担当者がナレッジベースを参照して解決できるため、エスカレーションが不要になります。ボットもまた、適切な記事や情報に顧客を誘導してくれるため、チケットのエスカレーションを最小限に抑えるのに役立ちます。
「1件のチケットの中に埋もれている問題をうまく解決することよりも、他のメンバーの参考になるように解決策を文書に残すことの方がはるかに価値があります」とLalondeは話します。
プロセスや情報が文書化されていると、新しいサポート担当者の研修も容易になります。新人担当者は研修中から、先輩の担当者にエスカレートしなくても、必要な情報を入手して最初から数多くの問題を解決できるようになります。
顧客をフォローアップする
エスカレーションはいつでも迅速に行えるわけではありません。チケットを適切な担当者に引き渡せるように努めつつ、顧客に今の状況を説明することが大切です。そうした説明があると、顧客のストレスと不満が軽減され、良い印象につながります。
「初回の問い合わせで問題を解決できないなら、その後にせめて進捗状況の報告くらいはしましょう」とLalondeはアドバイスします。
先に述べたように、自社のSLAを指針にするとよいでしょう。SLAがない場合は、目標を定義して期待を設定することで、コミュニケーションとサービスについて全員が共通の認識を持てるようになります。
メッセージングやSNSプラットフォームなど、顧客の好むチャネルを通じてチケットの進捗状況を知らせるようにしてください。Zendeskなどのツールを使用すると、このプロセスを自動化できるため、担当者が手動でフォローアップする必要がありません。
あらゆるチケットエスカレーションを今後に活かす
チケットのエスカレーションは、短期的に見ると、顧客の問題解決をスムーズに処理するためのものと言えます。しかしエスカレーションは、企業が長期にわたってサポートを改善するうえでも役立ちます。重要なのは、データと指標を使用してトレンドを突き止め、今後のエスカレーションを最小限に抑えることです。
たとえば、エスカレートされたチケットの10%が特定のタグに関連しているとします。頻繁に発生している問題がわかれば、その問題に優先的に対処できるようになります。解決に取り組んでいる間も、必要に応じて他の担当者や顧客に適宜情報を提供し、暫定的な解決策を見つけることができます。
優れたチケット管理システムを使用すると、先回りで対応し、優先すべき問題を把握できるため、エスカレーションを回避したり、顧客からの問い合わせそのものを減らしたりできます。