顧客行動分析には、顧客とのさまざまなタッチポイントから収集されるデータを利用しますが、昨今のカスタマージャーニーはこれまで以上に複雑化しています。そのため、カスタマージャーニーマップを作り上げるには、さまざまな情報を地道に集めてこなければならないような気になるかもしれません。しかし、実際にはその必要はありません。
今日、顧客行動分析に関する戦略でカギとなるのはビッグデータです。ビッグデータを常に把握することで、自社のカスタマーサービス戦略、製品ロードマップ、マーケティングキャンペーン、営業活動について適切に計画できるようになります。
以下では、注目すべき3種類の行動分析を紹介し、それらがなぜビジネスにとって重要なのかを説明していきます。
カスタマーエクスペリエンス分析
カスタマーエクスペリエンス分析は、収益の向上に役立ちます。記述的分析の1つで、カスタマージャーニーの各段階で「何が起きたか」を明らかにします。この分析は、生データからある種の傾向を導き出すという点で、顧客分析の定型的なパターンと言えます。
カスタマーサービスで得られるデータからは、顧客満足度(CSAT)、初回応答時間(FRT)、解決に要する時間(TTR)といった主要なパフォーマンス指標を測定することができ、これらは既存のワークフローを改善するうえで参考になります。
サポート担当者は、CSATから自身のパフォーマンスを測定でき、製品部門、マーケティング部門、営業部門を含む社内全体も、CSATを基にそれぞれの課題を特定することができます。データ管理を担当するサポートリーダーは、リアルタイム分析と履歴分析を場面によって使い分ける必要があります。情報を目に見える形で伝えられるよう、社内全体に共有できるダッシュボードを利用するのもお勧めです。またサポートマネージャーにとって、記述的なカスタマーエクスペリエンス分析は、「製品のリリース直後や大型連休にはチケットが増加する」といったトレンドを把握するのに役立ち、そこから得たインサイトを基に、次にチケットが増加したときの戦略を立てることができます。サポート部門がうまく機能しているかどうかもデータから読み取れるため、サポート方針や予算の最適化も図れます。
カスタマージャーニー分析
前述のとおり、カスタマージャーニーは複雑化の一途をたどっています。しかし、カスタマージャーニーを俯瞰的に捉えることは、高品質なカスタマーエクスペリエンスを提供するうえで欠かせないことです。つまり、顧客の購入履歴、製品の使用状況、ショッピングカートの離脱率、返品履歴などをすべて把握していなければなりません。他にも、サポート担当者との会話履歴、開封されたアウトバウンドメール、CSAT評価も有用なデータです。ソーシャルメディア上に投稿された関連コメントを分析してもよいでしょう。このような情報すべてをビジネスに活かせるようになれば(ぜひ活かすべきです)、有意義なインサイトを基にロードマップを修正して、収益向上を実現できるはずです。
こうしたデータを顧客データと併せて見てみると、明確なパターンが浮かび上がってきます。カスタマージャーニー分析は予測的分析であり、「何が起きるか」についてのインサイトを導き出すプロセスです。予測的分析は、金融やマーケティングの分野で行われることが多いものの、広く利用されています。
予測型のカスタマージャーニー分析を利用すると、現在どのパターンが良い結果をもたらしているかを特定したうえで、そのパターンを継続的に実施して、徐々に最適化していくことができます。また、この種の顧客データからは、主にカスタマーサービスから得られるデータを活用するカスタマーエクスペリエンス分析では見逃されてしまうような情報も引き出すことができます。
カスタマーリテンション分析
「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート」によると、顧客の74%は特定のブランドや企業に愛着を感じています。顧客のロイヤルティは維持率に影響し、ロイヤルティ・維持率の高さと、顧客努力の低さには明確な関連性があります。顧客努力は、ES(Customer Effort Score: 顧客努力指標)として算出されることもあり、問題解決の際に顧客がどれだけの労力を必要としたかが数値で示されます。ここから読み取れることはシンプルで、顧客の負担が大きいほど、カスタマーエクスペリエンスの品質も低いということになります。そうなると、ロイヤルティは低下し、顧客は他社へ流出してしまいます。これは企業にとって大きな痛手です。
顧客を維持するうえで「何をすべきか」を分析によって導き出せれば、製品やカスタマーサービスだけでなく、キャンペーンの改善にも役立ちます。コンサルタントのAlexandra Levit氏によると、顧客維持に関するこうした処方的分析は、既存顧客へのアップセルやクロスセルを容易にします。実際、新規顧客を呼び込むよりも既存顧客を維持する方が、はるかに簡単で収益性も高いのです。
Levit氏はCESの他にも、顧客維持に役立つ指標として、流出した顧客数を総顧客数で割った「顧客解約率(CCR)」、他の指標と関連づけて顧客の価値を予測する「顧客生涯価値(CLV)」を挙げています。また、「ロイヤルカスタマー率(LCR)」からは、ブランドや製品に愛着を持っていて、他者に勧めてくれる可能性の高い顧客を見極めることができます。
顧客分析はなぜビジネスに重要なのか
顧客行動分析の生データは、関連性が見えにくく、扱いにくいという印象があるかもしれません。製品ロードマップ、既存のカスタマーサービス戦略、販売サイクルがどのように反映されているのか、よく理解できないこともあるでしょう。
しかし、実際のところ、こうしたデータはビジネスの成長と収益の拡大に欠かせないものです。競争の激しいイノベーティブな世の中で、各ブランドはあらゆる面で懸命に差別化を図ろうとしています。データと分析に関する適切な戦略、そして顧客関係管理への的確なアプローチがあれば、生データを理解し共有することは難しいことではありません。
フリーライターのSusan Lahey氏は、こうしたデータによって「行動や振る舞いの積み重ねに過ぎなかった個々のストーリーにコンテクスト(文脈)が生まれ、何らかの関連性とそれによる影響が明らかになる」と述べています。要するに、「関連性」が全てということです。